2001年7月 6日 (金)

歴史認識

 日本では中学校の歴史教科書をめぐって歴史認識の問題がかまびすしく論議されているが、歴史が国民に正しく理解されないことは、日本だけの特異現象ではないようである。アメリカの225回目の独立記念日である7月4日を期して発表されたある調査によると、アメリカのティーンエージャーの2割以上が、アメリカがどこの国から独立したかを正しく答えることができず、そのうち14%は、アメリカはフランスの植民地だったと答えたという。これを聞いた16歳の私の娘が目を丸くしていたから、十代の日本人に同じ調査をしたら、いったいどんな数字が出るのかと思う。

 日本人が戦後、アメリカの方を見ながら生きてきたことは紛れもない事実だろう。それは安全保障上の要請でもあるのだが、それにしても、二百数十年前の歴史的重要事項がこれほど間違って理解されていることはないだろう。この誤りを日本史に置き換えると、明治維新によって室町幕府が倒れたと考えるようなものだろうか。

 自国の歴史への無知も深刻だが、隣国に対する無知は、もっと実際上の問題を生み出すかもしれない。今日付の『ヘラルド朝日』紙(International Herald Tribune-The Asahi Shimbun)に、アメリカ人のカナダに対する無知の程度が報じられていた。例えば、ボストンで政治学を学んでいる大学生に「カナダでは、北アメリカに入るべきかどうかが議論されているが、どう思う?」と尋ねても「よく分からない」と答えたし、「トロントで北極グマを殺すことを禁止すべきか?」と聞くと、「もちろん禁止すべし!」と答えたそうだ。(正答は分かりますね?)しかし、翻って日本人に韓国や中国のことを聞いたらどうだろう--「韓国はベトナム戦争の時、何をしたか?」「先の大戦で日本と戦って勝ったのは、蒋介石か毛沢東か、それとも孫文か?」「韓国で今、一番人気の歌手は?」

 要するに、グローバリゼーションがこれだけ進んだ現代でも、我々は自分の生きる国のこと以外は、まだよく知らないのである。ましてや、他国の歴史について心をめぐらせるような人は数が少ない。誤解や差別意識は、そういうところから簡単に生まれるものだ。自国の歴史を正しく知ると同時に、他国の歴史も謙虚に学ぶ努力が必要だろう。

(谷口 雅宣)

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2001年6月24日 (日)

対日卵子バンク

 生長の家の講習会のため帯広市で朝を迎えたが、『朝日新聞』のトップの見出しは「日本人卵子売買バンク」だった。これだけでは何のことかよく分からなかったが、記事を読んでみると--日本国内では卵子の提供うけることが事実上禁止されているので、海外へ行って卵子提供を受ける人が後をたたないが、これまで多かったアメリカよりも近く、コストも安い韓国で、日本人夫婦向けに日本人女性を招いて卵子提供や代理出産をする事業が始まったというのだ。しかも、卵子提供者には謝礼とともに約2週間の韓国旅行がプレゼントされるそうだ。また、同じ記事内で、アメリカでも日本人の卵子提供者を募る計画が進んでいて、こちらの方は提供者に60~120万円の報酬が支払われ、渡航費と滞在費も支給される予定と書いてあった。

 簡単に言えば、日本人間の卵子の売買と代理出産が韓国とアメリカで始まるということだ。日本国内では種々の規制でできないが、根強い需要があるので、場所を海外へ移せばできるというわけである。つい2日前の6月22日の新聞には、フランスの姉弟が夫婦を装ってアメリカへ渡り、そこで卵子提供と代理出産の方法で、男と女の赤ちゃんを得たことが報道されていた。その姉弟は、姉が62歳、弟が52歳というから、子供が成人するまで“親”が生きているかどうか定かでないのも問題だ。これをグローバリゼーションの長所と見るか短所と見るかは見解の分かれるところだろうが、一つ言えることは、地球が狭くなった現代にあっては、一国のみに通用する倫理基準を設けても、実質的な基準にはならないということである。

 講習会では、この問題も取り上げた。発達著しい今日の科学技術は、「それで何ができるか」を検討するよりも、「それで何をしてはいけないか」を合意することの方がはるかに難しい。その合意に時間をかけている間に、新しい技術はどんどん使われ、既成事実が積み上げられていく。この技術利用の原動力になっているのが人間の「欲望」のみであるとしたら、これほど危険なことはない。上掲の記事によると、日本人が渡米して卵子の提供を受け、子をもうける数は毎年100件を越えるという。韓国でこれができるようになれば、件数はもっと増えて200件を越えるかもしれない。厚生労働省では、生殖補助医療に関する法律を3年をめどに成立させ、その中で代理懐胎(借り腹、代理母)を罰則をもって禁止するとしているが、その頃には1000人近い日本国民がこの方法で生まれている可能性すらある。彼らは「犯罪によって生まれた国民」ということになるのだろうか?

(谷口 雅宣)

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2001年1月26日 (金)

殺し屋ウイルス

 アメリカの新聞『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』は昨日付の紙面で、オーストラリアで“殺し屋ウイルス”が生まれたことを詳しく報じている。同じニュースは、日本の新聞でも短く書かれていたが、遺伝子操作という技術の危険な側面を改めて教えてくれている。

 この“殺し屋ウイルス”誕生の問題点は、科学者がそれを意図して遺伝子組み換えを行ったのではなく、意図せずに「偶然生まれた」ところにある。この科学者とは、ロナルド・ジャクソン博士を中心とするオーストラリア国立大学の研究者たちで、意図していたことは、マウスの繁殖を止めるウイルスを作ることだった。そこでジャクソン博士たちは、マウスの免疫系にあるインタロイキン4という物質の生産に関係する遺伝子を、マウスポックス(マウスのはしか)のウイルスに組み込んだ。この物質は、免疫反応を引き起こす引き金になるという。だから、このウイルスをマウスの体内に入れれば、激しい免疫反応が起こってマウス体内の卵さえも拒絶する結果にならないか、というのが目的だった。マウス自身が卵を拒絶すれば、もちろん繁殖はできない。

 実験に使われたマウスの何匹かは、はしかにかからないようにワクチンが与えられていた。しかし、その効力はきかず、ウイルスに触れたマウスはほとんど死んでしまい、死ななかったマウスも免疫系が破壊されたという。幸いなことに、このウイルスは人間にとっては無害なため、人間への被害は考えられないが、これと同じ方法で、人間にとって致命傷を与えるウイルスの開発が遺伝子組み換えによって可能だという点を、この科学者たちは訴えたかったという。

 実は、この“殺し屋ウイルス”の誕生は1998年とその翌年にすでに確認されていて、科学者たちはオーストラリア政府と軍にはこのことを告げていたという。しかし、その後、内部で討論した結果、一般にもこの事実を公開して、1972年の生物兵器禁止条約の批准を急ぐべきことを訴えようと考えたらしい。2月号の『ウィロロジー』(ウイルス学)という雑誌に発表された。

 かつて人気を呼んだ遺伝子組み換えトウモロコシが、実はアメリカの蝶に毒性があることが分かったが、これも意図せずに起ったことだ。また、最近では、人間にアレルギー反応を引き起こす危険性のある組み換えトウモロコシが、意図せずに食品に混入していることが分かった。人間は、自然界はもちろん、自分たちの人間界のことでさえ、完全に予測したり、制御することはできない。にもかかわらず、遺伝子組み換え技術によって、次々と新しい生物が作り出されていく将来を、我々はどのような気持で展望すればいいのだろうか。
 (谷口 雅宣)

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