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2002年7月 5日 (金)

ブルーベリー

 6月21日の本欄でラヴェンダーのことを書いたが、わが家の庭では今、ラヴェンダーの薄紫の花の近くで、ブルーベリーの実が色づきはじめている。こちらの花は、春に小さい釣鐘状の白い花が房になって咲く。ドウダンツツジの花とよく似ている。これが散ると、残った子房の根元がゆっくりと膨らんでいく。その部分の、緑と赤紫のグラデーションが美しく、また子房を包んだガクの先がツンと尖がって天に向いている様子が、生命力と愛嬌を感じさせる。この“上向き”の子房が、実が膨らむにつれて重さで“下向き”になり、やがて緑だった実が赤紫に変わり、赤紫が黒紫に変化すれば、もう食べ頃である。

 家の東側の日当たりのよい場所に2種を1株ずつ植えたのが、もう14〜15年も前になるだろうか。背丈は、高い方が180センチほどに成長し、10年ぐらい前から実をつけるようになっていた。今年の実は、しかし例年になく大きく、直径1.5〜1.8センチほどある。また数も多く、しかも早い時期から熟しだしている。同じ庭にはイチジクの木もあって、こちらの実も(本当は花だが)例年になく大きく、また早くから熟しているから、ブルーベリー単独の原因があるわけではなく、きっと地球温暖化の影響ではないかと考えている。人類にとって大問題である現象にも、善い面があるのかと思うと、何だか嬉しい気持になる。

 私の生活にブルーベリーが入ってきたのは、この株と一緒だ。私は子供の頃から「果樹」というものにある種の偏見があり、「大きな果実が成らないものは価値が少ない」と思っていたフシがある。だから家の庭にあるミカン、ポンカン、ユズ、ビワなどで結構満足していたし、もし別の果樹を植えるとしても、カキやリンゴなどが頭に思い浮かぶのだった。一方妻は、小さな実のなるベリー類も好きで、その頃、ブルーベリーのことを何かの本で読み、生食に適しているだけでなく、ジャムにしても美味しいということを知り、私と植木店へ行った時に2種を買ったのだ。違う品種間で交配させると実のつきがいいということも、その本に書いてあったという。だからこの植物は、妻がわが家に導入したと言っていいだろう。

 今年の出来ばえは格別で、このところ毎朝20〜30個の実が黒紫色に熟す。朝食後、私はブンチョウのエサを取り換えた後、蚊に刺されながらブルーベリーを収穫し、採りたてのものを隣の父の家へ持参し、「朝採りブルーベリーです」と言って母に手渡す。その時刻、父母はちょうど朝食を終えるから、デザートに食べてもらえるのである。我々は「朝採り」をそのまま食べるのではなく、翌朝までとっておく。その方が酸味が減って甘味が増すからだ。また、前日の収穫をすべて食べずに、少し残しておく。そうすると、ステンレスの小籠に入った紫色の粒は、毎日だんだん増えてくる。量がたまったところでジャムを作ろうというわけだ。

 ブルーベリーはツツジ科の落葉低木で、栽培種のものは北アメリカ東部のアメリカ先住民が採取していたものの中から、19世紀になって栽培化されたもの。大別して背の高いハイブッシュ系、背の低いローブッシュ系、そしてラビットアイ系の3種がある。ハイブッシュ系の野生種は、木の高さが4メートルほどにもなり、やや冷涼な気候とかなり強い酸性土壌、多くの水を要求する。それに比べローブッシュ系は、高さがせいぜい20センチくらいだが、野生種はアメリカ北東部からカナダ東部の寒冷な荒地に自生し、3種の中では最も耐寒力がある。ラビットアイ系は、アメリカ南部のジョージア州近くが原産地で、大型のものは高さ4メートルを越える。温暖地向きで、土壌の水分や酸性度をあまり要求しないから「育てやすい」とされている。この名前(rabbit-eye)の由来を私は知らないが、実の形がウサギの目のように「赤くて球状に丸い」からだと想像している。もしこの想像が正しければ、わが家にあるのはハイブッシュ系とラビットアイ系の2種である。

 ナチュラリストの藤門弘氏夫妻は、約10年前に北海道で一大ブルーベリー・ガーデンを作る計画を始動したと、ある雑誌に書いていたが、これを殖やす方法は「挿し木」でいいのだという。また、『週末・八ヶ岳いなか暮らし』の著者、小宮宗治氏は、標高900メートルの八ヶ岳南麓に休耕田を借りてブルーベリー農園をつくり上げたという。実は、家の庭にはもう1本の苗を別の場所に植えてあったが、日当たりがよくなかったためうまく育たなかった。それを去年の秋、大泉村の山荘の庭に移した。そこは、日照の申し分ない場所だが、標高1200メートルの寒冷地の環境に耐えられるかどうか心配だった。案の定、移植してしばらくは死んだように生気がなかったが、数週間前に山荘へ行った時、その株から新芽が出ているのを発見した。山荘の庭には、このほか2株のブルーベリーが植えてあるから、うまく成長してくれたら挿し木で殖やし、「農園」といかないまでも「ガーデン」ぐらいにできるかもしれない、と密かに思っている。   (谷口 雅宣)

【参考文献】

○小宮宗治著『定年後・八ヶ岳いなか暮らし』(晶文社、1999年)。

○「藤門弘のカントリーガーデン作り�D」『私の部屋ビズNo.7』夏号(婦人生活社、1993年)。

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