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2002年5月14日 (火)

口蹄疫とワールドカップ

 5月初めにあった生長の家組織の全国大会とその後の原稿執筆等で“小閑”を見つけることができなかったが、この10日前後の間でも、世の中には実にいろいろなことが起こる。サッカーのワールドカップが目前にある中、その背後で不吉な疫病が広がりつつあるのを読者はご存知だろうか。日本の新聞では1段組のベタ記事でしか扱われていないようだが、今日付の『ヘラルド朝日』紙は、ソウル発のAFP通信の記事を大きく取り上げて、韓国では口蹄疫に感染した疑いのあるブタを13日までに4万頭以上殺したことを伝えている。

 口蹄疫のことは昨年、本欄でも何回か取り上げたが(例えば、3月14日)、その発生はイギリスやフランスなどのEU諸国だった。しかし今回は、隣国の韓国であり、しかもワールドカップの開催で、世界中の人々が日本と韓国の間を行き来する時期に発生している点が、気になって仕方がない。

 口蹄疫は、主として哺乳動物の偶蹄類(牛、水牛、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)に感染するウイルス性の急性熱性伝染病だ。昨年は、2月半ばごろからイギリスに広がった。感染力はきわめて強く、土や干し草、人間の衣服などに付着して運ばれるから、車のタイヤや人間の靴についた土からも感染する。さらに、風によって運ばれて感染することもある。感染した動物は、口や蹄や乳房付近の皮膚や粘膜に水泡ができ、この水泡や乳汁、糞尿の中に大量のウイルスが排出される。また、肉や臓器などにも大量のウイルスを含む。だから、群の中に一頭でも症状が出た家畜が発見されれば、群全体を殺して感染が広がるのを防ぎ、さらに他の動物や人、車の移動を制限しなければならない。昨年のイギリスの場合、感染地近くでは、スポーツ大会など人の集まる行事は中止されたのだ。

 今年は5月3日、韓国の農林省がソウル市郊外の農場で口蹄疫に感染した疑いのあるブタを発見、翌日の検査で感染が確認されたため、日本の農水省は同日付で韓国産の偶蹄類とその肉、肉製品の輸入を禁止した。その後口蹄疫は、12日までにソウル市の南80kmにある京畿道安城市や、さらに南方の忠清北道鎮川郡など計8ヵ所に飛び火し、この日までに感染の恐れがあるブタや牛が計5万5000頭殺されている。このために数百人の兵士が動員され、安城市近郊ではさらに6万~9万頭の動物が殺処分の対象となっているという。これは、感染地から半径3km以内で飼われているすべてのブタや牛を殺すためだ。また、安城市から半径10km以内では、人や動物の移動は厳しく制限されており、国内に106ある家畜市場のうち77ヵ所が閉鎖されている。

 イギリスの科学誌『<A href="http://www.newscientist.com/news/print.jsp?id=ns99992263">ニュー・サイエンティスト</A>』もこの問題を5月8日付で取り上げており、ワールドカップ開催によって何十万人もの人が国際移動することで、「その中の何人かはウイルスを自国へもち帰ったり、共同開催国の日本へ運んだりする可能性が恐れられている」と書いている。特に同誌が指摘しているのは、今回の口蹄疫はイギリスの場合と違い、ブタによって感染していることで、「ブタは羊や牛の100倍ものウイルスを吐き出す」ということ、また今回初めて感染が発見されたのは安城市だが、そこからすぐ仁川市に感染が広がったのは「風に運ばれて感染したことを暗示している」ことだ。なぜなら、両市間の距離は25kmあり、人や動物の移動制限域外にあったのに感染が起こったからだ。仁川市は、今回のワールドカップの会場の一つから30kmしか離れていない。

 試合開始まであと2週間のうちに、韓国政府がどれだけの対策を講じ、どれだけそれが効果を生むかが注目される。最悪の場合(もちろん、そうあってほしくないが)、日韓両政府は「畜産業への被害」か「試合中止」かのいずれかを選ばねばならなくなるかもしれない。

 ところで前にも書いたことが、口蹄疫は人に感染しないだけでなく、動物の“死病”でもない。ではなぜ、このような大量の“殺処分”が行われるかというと、感染した動物は「畜産品」として経済的価値を失うからである。しかも感染力がきわめて強いので、「感染範囲内のすべての動物を早く殺す」ことで感染の拡大を防ごうというのである。つまり、動物の命を人間の都合からだけ見るから、大量殺戮の必要性が生じるのだ。現代文明の大いなる矛盾を示してはいないだろうか。   (谷口 雅宣)

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