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2002年4月 9日 (火)

大合併時代

 今日の『産経新聞』で、作家の深田祐介氏が公正取引委員会の考え方を手厳しく批判していた。JALとJASの合併に関連して、これらの大手航空会社が新規参入者に羽田空港の発着枠を譲ると決めたことを同委員会が評価したことを取り上げて、「“競争至上”の愚劣な思い込みに開いた口がふさがらない」と言うのである。深田氏はむしろ、JALもJASもANAも合併して、来るべき世界的“大対決時代”に備えるべきだと主張している。そうしないと、日本の航空会社はこれからの国際競争を戦っていけないというのである。一方、この「正論」と同じ紙面にある投書欄で、神奈川県に住む設計士の荒川英明氏が、日本の都市の再開発は、どこもかしこも高層化であり、経済効率優先で価値ある古い建物を無視し景観を損なっていると嘆いていた。

 この2つは、まるで関係のない別個の現象のように見えるかもしれないが、私には共通の原因があるような気がしてならない。というのは、つい数日前に京都府の福知山市へ行って、私自身が荒川氏の嘆きに近いものを感じ、それが大企業の進出と密接な関係があると思ったからだ。福知山市へは、生長の家の講習会のために行った。同市へ行くのは2年ぶりだったが、一昨年行った時よりも、明らかに町がさびれていた。土曜日だというのに、駅前の商店街を歩いても人の数は少なく、シャッターを閉めている店や、閉ざされたガラス戸の向こうが真っ暗な店がいくつもあるのである。地元の人に聞いてみると、町の人口は毎年減っているそうだ。しかし、その中でも目立つのは、東京や大阪などの有名企業の支店や出張所、それに名の通ったコンビニエンス・ストアーで、そういう場所にはかろうじて人が集まっていた。

 深田氏の論理を延長すれば、福知山市の現状は悲しむべきことではなく、もっと大企業が合併・連携を進め、駅前は大手ファースト・フード店が1軒、スーパーも大手が1軒、ホテルも巨大資本のものが数軒、銀行も証券会社も最大手があれば他は不要であり……ということになるのだろうか。そんな動きが各地にひろがれば、福知山駅前も綾部駅前も、大企業の看板ばかりが並んだ京都駅前や東京駅前の、単なる“ミニチュア版”になるだけではないか。そんなものが地方の価値を高めるはずがないから、地方都市は益々さびれていく。私には、そう思えてならない。

 鳥取県の米子市に昨年行った時も、これと似た寂しさを感じた。その2年前にスケッチをした旧税務署の「素鳳館」(木造2階建て)を見に行ったのだが、手入れが充分でなく、色あせて古ぼけて見えた。その理由の一つは、すぐ隣に10階建てぐらいの、立派なレンガ色の米子市役所が建っていたからかもしれない。両者の組み合わせは、いかにもアンバランスなのだった。2年前にもこの新市庁舎はあったのだが、それほどの違和感は感じなかった。建物を一軒だけ保存しても、それが周囲の町の機能から隔離されている場合、却って逆効果のようだ。そういう点で、小樽や函館の歴史的建築物は、まだ使われているものも多く、古いままで周囲の町並みと調和し、「生きづいている」という感じがする。

 古い建物が保存されていても、町全体の景観が壊れてしまっている所は、京都にも数多くある。大体、あの京都の高層駅ビルはいけない。設計者は特徴を出したつもりかもしれないが、名古屋や大阪と雰囲気はほとんど変わらない。その町の特徴を歴史的な流れの中でとらえ、それを自然の地形を含めた景観の中で生かしていくという考え方を、日本の町はあまり考えていないようだ。いたずらに流行と経済効率を追うばかりだから、日本中どの町へ行っても駅前はほとんど個性のない画一的な風景になってきた。そんな中に、さらに合併による大資本が進出し、どこにでもあるロゴマークのついた看板や同一イメージの店舗を並べたとて、地方の経済が復興するとはとても思えない。

 自然界には、確かに厳しい競争関係はあるが、地味で目立たない生物が繁殖できる“懐の深さ”がある。高い木が陽光をさえぎっても、潅木が生き延び、下草が生え、蔓草が伸び、隠花植物が殖え、キノコが傘を広げる余地がある。そして、これらすべてが互いに栄養素を与え合っている。そういう多様性が、自然の美しさと豊かさと安定性の基礎である。日本経済も、自然から学ぶべきことが数多くあるように思うのだ。

 福知山の駅前商店街を歩いていて、周囲のくすんだ町並みとはまるで異質の、一軒の新築住宅に行き当たった。その住宅には店舗らしきものはなく、その代わり玄関が10メートル近く商店街からステップ・バックしている。その空いた“庭”のような部分に、見事に咲いた色とりどりの花々を植えた鉢が、所狭しと並んでいた。私はしばし、その美しさに見とれながら、この家の主が一体どういう考えの人なのか、想像した。結局、答えは分からなかったが、いろんな考えの人がいてもいいのだと思った。   (谷口 雅宣)

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