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2020年7月26日 (日)

石と信仰 (1)

 去る7月24日、山梨県北杜市にある生長の家国際本部“森の中のオフィス”では、「天女山への石上げと自然解説」という行事が行われた。これは、標高1300mにあるオフィスから同1529mの天女山の頂上まで、参加者である職員有志が石を背負って自転車でIshiage20201 登るという行事である。(=写真)この日は新しく決まった「スポーツの日」だったから、それに因んでスポーツ行事を行ったわけではない。それどころか、この日は私たちにとっても祝日で、オフィスの職員には出勤する義務はなかったが、約30人が参加してくださったのは大変ありがたかった。

 この行事は私の発案で、それにSNI自転車部とSNIクラフト倶楽部の事務局が計画段階から実行まで協力してくれた。この場を借りて感謝申し上げます。

 「石を背負う」というと、何か苦役を強いるような印象があるかもしれないが、背負う石は片手で持てるほど小型のもので、それを各自が常日頃通勤で使う背負いカバンに入れて登るのである。私の場合、それでもノートパソコンや弁当を入れた普段のカバンよりは重かった。これらの石には、カバンに入れる前に各自がタガネで細工を施した。その内容については後述するが、この細工の前に、私が石についての“自然解説”を行なった。そして、天女山頂に全員が登ってから、石を所定場所に納める儀式を行なった。

 これだけの説明では、何か“奇異な儀式”だと思う読者もいるかもしれない。が、愛知県犬山市では現在も毎夏、これよりずっと大規模な石上げ祭が行われている。この祭では、山頂に上げる石はもっと大型で、それを神輿に括り付けて何人もの成人男性が担ぎ、子どもや女性はその前をロープで引いて上がるという。参加人数もずっと多く、神輿を運ぶ掛け声なども響いて、賑やかな祭である。この行事にはまた、個人が小型の石に願いごとを書いて山頂まで運ぶという選択肢もあるらしい。私たちの今回の行事はそれをマネたのではなく、この計画を聞いたオフィスの職員が、「そういう祭なら自分の故郷で昔からやっている」と、あとから教えてくれた。とにかく、「石を運ぶ」という行為は、宗教行事として昔から成立しているのである。



 それどころか古来、洋の東西を超えて、石は信仰の対象として、また信仰対象の象徴として、あるいは宗教儀式の重要な道具となってきた点は、強調しておきたい。私は、このことを当日、例を挙げて石上げ前の自然解説でも若干言及したが(=写真)、充分な説明にはならなかったので、この場を借りて詳しく説明することにした。また、読者には、これを「自然解説の方法を取り入れた生長の家独自の環境教育」(本年度運動方針前文)の一部として理解していただけるとありがたい。

 さて、「自然解説」については、すでに2018年に、私は生長の家総本山発行の『顕齋』誌上で何回かに分けて説明した。その時にも触れたが、アメリカで成立したこの営みは英語で「interpretation(インタープリテーション)」という。この語を「解説」と和訳したところから、誤解の余地が生まれていると私は思う。何となくスポーツ解説みたいだからだ。が、ここではそのことはさておき、アメリカではこの営みを「nature interpretation(自然解説)」「heritage interpretation(文化遺産解説)」の2つに大別しているようである。前者は、自然の営みと人間との関係に焦点を当てるのに対し、後者は、人間の営みである文化遺産の意味や重要性に焦点を当てる。

 しかし、生長の家では「神・自然・人間は本来一体」と考えるので、私は両者を峻別して考える必要はないと思う。また、アメリカで「文化遺産」と言った場合、ヨーロッパからの移民を基礎にしたものが多いため、歴史的には数百年前までしか対象にしない。これに対し日本では、歴史時代だけで約2000年、縄文時代までを含むと約1万2000年が文化遺産の対象となる。そのような古代や中世においては、自然と人間の関係は現代よりもはるかに密接だったから、人間の営みである文化を自然から分離して考えることはできないと思う。そんな理由で、生長の家が日本で行うインタープリテーションは、自然を対象にしても日本の文化を含み、文化遺産を対象にしても、その背後にある自然の営みを無視して行うことはできない。そこで今回の「天女山への石上げと自然解説」においては、両者を意識的に分けなかった。

 谷口 雅宣 

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