凡庸の唄 (1)
凡庸を馬鹿にするな。
凡庸こそ
時代の寵児だ。
凡庸は威張らない。
凡庸は欲張らない。
凡庸は他を蹴落として
世に先んじようと思わない。
なぜなら凡庸は
自分の技量と
器量を心得ているからだ。
凡庸は諦めているのではない。
凡庸は知っているのだ。
世の中には、
他より先へ行くことよりも
大切なことはいくらでもあると。
他と競うよりも
別の楽しみはいくらでもあると。
競争者は
目標とライバル周辺のことしか
目に入らない。
競争者の見る世界は
味方と敵に二分される。
争う心は他を傷つけ
自分を不快にする。
しかし凡庸なる人は、
先を見て争うのではなく、
周りを見て楽しむ。
新幹線に乗っていては
駅の名前さえ分からない。
黄金色の稔りの秋は
単一の黄色の帯だ。
普通列車に乗ってみると、
駅名だけでなく
看板の古さ、
新しさがよく分かる。
名産品の広告が読める。
駅員の声が聞こえ、
ああ
父と同じ年頃だと分かる。
途中下車して田圃道を歩けば、
今年の稔りの様子が分かる。
垂れた稲穂を持ち上げれば、
ああこのおかげで
自分は今日まで生きてきたと
天と地と人との仕合わせに納得する。
そう、
幸せとは
人・物・事のめぐり合わせに
価値を見出すこと。
見出すだけでなく、
しっかりと味わうこと、
触れること、
皆仲間じゃないかと慈しむこと。
せっかく旅に出ているのに、
出立地と目的地しか味わえないのでは、
本当に生きているとは言えない。
凡庸は、
そのことを知っている。
谷口 雅宣
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コメント
肉体年齢は70を超えた今、この詩が心に響きます。前に出ることよりも、中身の充実のために 自らの立ち位置を確立することこそ最高の行と思います。総裁先生のご指導に感謝します。
投稿: 林 吉春 | 2017年1月 9日 (月) 15時29分