憲法改正の動きを注視しよう
参議院選挙の結果が出た。残念ながら「芳しい」とは言えないが、それほど悪い結果でもないと思う。今回の選挙では、改選議席の総数は121で、そのうち自民が51、公明が13を獲得した。それぞれ+1と+4の増加だ。これを加えた64議席が、改選総数の52.9%になるため、各紙は「与党、改選過半数」という見出しを打った。また、非改選を含めた自民と公明の議席数は140で、これに「おおさか維新」や「日本のこころ」などの憲法改正積極派の議席18を加えると158となるので、「改憲勢力2/3に迫る」などという言い方もされている。
しかし、データを詳しく見てみると、自民は1議席しか増やしておらず、公明の+4は、投票率の低さに起因する部分も多いだろう。今回は54.7%という戦後4番目に低い投票率だから、組織力が強い公明や共産に有利で、共産党も2議席を増やしている。その他、伸長が目立つのは「おおさか維新」の+4だが、この票の多くは“浮動票”的な性格のものだと思う。なぜなら、『朝日新聞』が32の一人区で行った出口調査では、無党派層の34%が自民候補に投票したのに対し、56%は野党統一候補に入れている。この割合は、「おおさか維新」の支持層の34%が自民に入れ、46%が野党統一候補に入れたという割合と似ているからだ。
また、この調査で注目されるのは、公明支持層の動向だ。これらの人々の動きは、支持母体の創価学会の組織力を示すものだと思われるが、今回の選挙では、同支持層の24%が野党統一候補に入れたという結果になっている。つまり、公明党関係票の4分の1は、野党側に流れたということだ。これは恐らく、“解釈改憲”や安保関連法案の強行採決が、創価学会の一部--特に婦人部の不評をかったことと関連があるのではないか。
無党派層の動きを調べた共同通信の出口調査では、自民に入れた人が22.3%だったのに対し、民進に入れた人は23.2%と上回った。これは、2013年の参院選(自民23%、旧民主14.4%)、2014年の衆院選(自民21.1%、旧民主20.8%)の割合から逆転している。投票率がよくないにもかかわらず、あえて投票に参加した無党派層の中に「反自民」が増えている傾向を示す数字ではないだろうか。
このような選挙結果が、「与党とその候補者を支持しない」という今回の生長の家の方針発表とどう関係しているかは分からない。しかし、この発表により、安倍政権を支えている「日本会議」という不透明な政治組織の背後関係にある程度光が当たり、その思想が現在の生長の家とはまったく異なることが、メディアや組織を通じて信徒を含む多くの人々に伝えられたことは幸いだった。ただ、この発表が参院選の直前になってしまったため、生長の家の会員・信徒の方々には“寝耳に水”のようであり、少なからぬ混乱を招いたならば御寛恕をお願いする。これも偏に、国民が知らないうちに“解釈改憲”を行い、日本を誤った方向に向かわせようとする隠れた動きに「NO」を突きつけるためである。
今後、安倍政権は憲法改正を政治日程に上げてくるだろうが、その際には、彼らの改正案が、具体的な条文として本当に「改正」に当たるのか、それとも「改悪」なのかをしっかりと吟味検討していくことが、日本国民としての義務となるだろう。生長の家は、現憲法を金科玉条とするものではないが、立憲主義の原則を護り、「人間・神の子」の教えにもとづいて基本的人権を尊重し、軍拡や武力による平和ではなく、「信仰による平和」を希求するものである。
谷口 雅宣
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コメント
私は最後の最後に生活の議員が維新の議員に勝った事により改憲に積極的な四党の2/3を阻止出来た事は奇跡的な事だと思います。
これは選挙直前に例の「日本会議の研究」が先生の目に止まり、それが速やかに教団の「与党と改憲に積極的な野党を支持しない」という方針が出された事につながった事が今回の結果につながったと思っております。
投稿: 堀 浩二 | 2016年7月12日 (火) 09時49分
合掌 選挙の時は、わかる限り説明して、とりあえず身内だけには、野党に入れて!とお願いしました。まだまだ、先生のお話がわからなくて、批判しているかたもいると思いますが生長の家の目的は「国際平和」だと伝えています。私も人に伝えて行きながら自分が納得しているような状態です、が、改めて先生の的確な、ご指導に感謝します。再拝
投稿: 津田寿美 | 2016年8月 4日 (木) 08時32分
「自民党不支持」の教団としての発表は、実に勇断でありました。大きな宗教組織で、政府に迎合しない方針を明確にした団体は稀有でしょう。現時点の自民党政権は真の「愛国者」とは到底思えません。美しい日本の国土を長期間に渡り汚し続ける事態を引き起こした原発を更に推進させ、日本の文化や人々を荒廃させる結果を生じさせる戦争の準備体制の布石としての新憲法案などからは日本を愛する心は感じられません。今の政権と日本会議は米国追従の輩でしかありません。米国から提出されるアミテージ報告や年次改革要望書(もはや公表されませんが)に忠実に従った政府方針を作っています。生長の家は、「浪費と廃棄物を大量に生み出す過剰な資本主義」と「破綻した共産主義」を凌駕する新たな社会の方向性を示す神の力となる存在です。ますますのご健闘を願っています。ありがとうございます。
投稿: 三上クニ | 2016年8月 6日 (土) 19時14分