« “ムスビの働き”から世界平和へ | トップページ | イスラーム国の問題を考える (2) »

2015年12月 8日 (火)

イスラーム国の問題を考える

 前回の本欄で、11月22日の秋季記念式典での私の言葉を紹介してから、3週間がたとうとしている。その間、世界中で“ムスビの働き”に逆行するような、おぞましく悲しい事件や変化が矢継ぎ早に起こっていることに、私は胸をいためている。これらは、相互に関連し合った出来事で、そのもとを辿れば、十字軍の遠征にまで遡ることができるかもしれない。 
 
 11月13日のパリでの同時多発テロの前にも、ベイルートとバグダッドでテロがあり、10月31日にはロシア旅客機の爆破があった。フランスはパリでの事件に応えて16日からシリアの空爆を開始し、オランド仏大統領は、「これは戦争だ!」と宣言した。あの9・11後に、アメリカの前大統領ブッシュ氏が使ったのと同じ言葉だ。ロシア機の爆破は、シリアでのイスラーム国(以下、ISと記す)攻撃に消極的だったロシアを、西側の対テロ戦に全面参加させる好機会のように見えたが、その後、24日にトルコ空軍が領空侵犯を理由にロシア軍機を撃墜したことで、ロシアはトルコへの経済制裁を発動し、中東とヨーロッパの情勢はかえって複雑化している。そして、これらの戦火を逃れ、あるいは崩壊しつつある祖国を逃れて、中東や北アフリカからヨーロッパへ脱出を試みる大量の難民や移民が、各地で困窮生活を送っている。 
 
 そんな中で、12月2日、アメリカのカリフォルニア州のロサンゼルス市郊外にあるサンバーナディノ郡で、20代のカップルが福祉施設で銃を乱射し14人を殺害する事件が起こった。この2人はイスラーム教徒であり、特に女性はISの影響を受けた形跡があることから、オバマ大統領は6日、2人の行動が「過激化し、テロに及んだ可能性が全面的にありうる」と述べた。米国内のテロ事件としては、9・11以来最も死亡者の多い惨事となった。 
 
 一方、イギリスの首都ロンドンでは5日午後、地下鉄の駅構内で一人の男がナイフを出して周囲の人々を次々と襲い、1人が重傷、2人が軽傷を負った。男は犯行前に「これはシリアのためだ」と叫んだとの報道があり、ロンドン警察は「テロ事件として扱っている」と述べた。英下院は2日に、ISに対する空爆をイラクからシリア領内に拡大する決定をしたばかりだった。さらに6日には、イエメン南部のアデンで、同州知事の乗った車列で爆弾が炸裂し、知事ら7人が死亡、ISは犯行声明を出している。 
 
 止まることのない暴力の連鎖が、世界に広がりつつあると感じるのは、私だけではあるまい。この流れをどこかで止め、逆転させなければならない。そのためには、世界を“悪”と“善”、“敵”と“味方”に二分して、前者の殲滅を目指す考え方をやめなければならないのだ。これは、「テロリストを味方にしろ」というのではない。本来“神の子”である一個の人間に「テロリスト」という全否定の代名詞を被せて、その存在を否定するのではなく、テロが生まれた背景を理解し、その原因を取り除く努力をすることにより、彼らが「テロ」という極端な形で意見表明をする必要をなくすべきなのである。 
 
 そういう問題意識のもと、生長の家の“森の中のオフィス”では、本部講師と本部講師補の勉強会である「BBC(brown bag cafe)」で、去る11月27日にISの問題が取り上げられた。この勉強会では、特定のテーマについて1人の本部講師(補)が発表し、他の本部講師(補)との質疑応答の後、最後に私がコメントをすることになっている。ISの問題が取り上げられたのは今回が2回目で、この日はパリでのテロ事件を受け、「宗教は戦争を止められないのか」との論点から意見交換が行われた。大きな広がりをもった問題を、わずか1時間弱の時間内で検討するのだから、結論を出すのが困難であることはもとより承知だ。結論を急がず、宗教者として世界情勢を考えるためのポイントを、意見交換の中で見出すことが目的である。 
 
 私はその日の発表で不十分だった2つの視点について語った。それは、①イスラーム内部の宗派対立、②インターネットなどの技術革新、という要素だ。これらについて『TIME』誌の11月30日~12月7日合併号が、よい分析記事を掲載している。英語の読解力のある人はぜひ、この14ページにわたる記事を読んでほしい。 
 
 イスラーム内部の対立については、スンニ派とシーア派の伝統的な争いが背後にあることは、多くの読者はすでにご存じだろう。前者は、中東一の富裕国・サウジアラビアを初めとした湾岸諸国。後者は、イランを筆頭にシリアのアサド政権、現イラク政権、レバノンのヒズボラなど。また、シリアと同様に内戦状態のイエメンでは、反政府の武装組織「フーシ」がシーア派であり、この勢力は国境を接するサウジの軍隊とも戦っている。 
 
 中東には、この複雑な宗教対立に加えて、国をもたないクルド人の民族運動がある。クルド人の居住地はトルコ、シリア、イラク、イランにまたがり、彼らはISとの戦闘で最も成功を収めている。彼らは最近では、ISの支配下にあったイラク国内のシンジャー(Sinjar)を奪還した。しかし、これは宗教的な敵対というよりは、イラク内部の多くを自らの勢力下において、クルド人の国家をつくるのが目的である。そんな理由もあり、国内に多数のクルド人を抱えるトルコは、ISよりもクルド人の独立運動を抑え込むことを優先している。 
 
 ISは、スンニ派の過激思想、ワッハーブ主義を奉じているが、この宗派はサウジアラビアの国教であり、サウジ王家は歴史的に、潤沢なオイルマネーを使ってこの思想を普及してきた経緯があるから、サウジは今、ISへの武力攻撃をしてはいるが、その規模は限定的である。また同国は、シーア派の牙城であるイランの勢力拡大や、南に隣接するイエメンの内戦の鎮圧の方を重視していると思われる。 
 
 このような宗教と政治の複雑なからまり合いを概観して、同誌の記事はISの勢力拡大の要因について、次のように述べている--「この地域の重要な勢力のすべてが、他と協力するために何か大きな決定をしようとしても、内部に最低1つの強硬な反対勢力を抱えている。」(p. 23)--これが、ISがこれまで、比較的自由に勢力拡大を進めて来られた原因というわけだ。中東諸国は、1つの目的のもとに団結することが難しいのだ。 
 
 しかし、ISによるロシアの旅客機爆破とパリでのテロ事件により、西側諸国がロシアを味方に入れ、団結してIS掃討に当たることになれば、状況は変わってくる可能性もある。 
 
 谷口 雅宣

|

« “ムスビの働き”から世界平和へ | トップページ | イスラーム国の問題を考える (2) »

国際関係・国際政治」カテゴリの記事

宗教・哲学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« “ムスビの働き”から世界平和へ | トップページ | イスラーム国の問題を考える (2) »