液状食はいかが?
私は、4月24日の本欄で、食事についての生長の家の考え方を書き、食事を単に「栄養補給の手段」としてしか考えない現代の風潮と、食生活の乱れを嘆いた。ところが、問題が多いその現代の食事観の“到達地点”のような食事法が、現代文明の最先端を行くアメリカのシリコンバレーの起業家、技術者の間で行われているらしいのだ。それは「食べる」こともできるだけ省略し、代わりに「飲む」ことで代用して時間を生み出し、仕事に没頭する人々のことだ。5月26日の『インターナショナル・ニューヨークタイムズ』が報じていた。
この記事は、教育関係のベンチャー企業に勤めるアーロン・メロシック(Aaron Melocik)という34歳のプログラマーの生活を取り上げ、次のように描いている--
彼は毎晩、約2リットルの水に、大さじ3.5杯のマカデミア・ナッツ油、480ccの袋入りのシュモイレント(Schmoylent)という商品名の粉末サプリ1袋を混ぜ、その液体を2本の広口瓶に入れて冷蔵庫に保管する。翌朝、彼はその2本を会社へ持っていき、1本を会社の冷蔵庫に入れ、他方をデスクに置いて仕事を始める。仕事は朝の6時半から午後3時半までで、最初の瓶は朝食代わり、2本目の瓶は昼食代わりで、1日に約415ccのシュモイレント・ミックスを消費するという。その間、デスクの前でプログラミングの仕事に没頭するのである。
この液体ミックスのおかげで、彼は午後7時ごろまで、「食べる」ということから自由になる。そういう仕事の仕方が、競争の激しい現代のソフトウエア開発会社では求められているかのように書かれている。
ネットで調べてみると、この種の“飲む食事”用の粉末サプリは、シュモイレントのほかにソイレント(Soylent)、シュミルク(Schmilk)、ピープルチョウ(People Chow)などいろいろあるらしい。これらのセールス・ポイントは、安価で、迅速に作れ(水かミルクを混ぜて振るだけ)、そして栄養価は保障されているという点だ。ハイテク企業が集まるサンフランシスコ周辺では、地価が高く、従って食費もかさむ。シリコンバレー近辺のレストランで食事をすると、1人50ドルもする場合もあるらしい。安い店に入ろうとすると、恐らく長い列に並ばねばなるまい。そういう時間が、彼ら“ハイテク戦士”にとってはムダ遣いに感じられるのだろう。
しかし……と、私は考える。いくら時間の節約といっても、同じ味と食感の液状食を毎日、繰り返し、続けていくことの“コスト”は生じないだろうか? 人間は時間さえあれば、優れた仕事ができるというものではない。豊かな発想や、多面的、多角的応用のアイディアが、単調で変化のない食事から生まれるかどうか、かなり疑問に感じる。が、「食事は栄養補給の手段」だと考えれば、栄養豊か、安価、簡単、の3拍子がそろった液状食は、1つの論理的帰結であるかもしれない。
もちろん私は、この考え方に反対である。理由はすでに述べた。さらに付け加えて言わせてもらえば、人間は、企業の求める効率の道具ではないからだ。「自分は仕事のロボットである」と考えれば、エネルギーが不足してきたら、それを迅速、安価に、そしてフルに補給すればいいという結論が出るだけだ。
ところで最近、初めて「朴葉寿司」というのをいただいた。岐阜県の信徒の方が青々とした朴葉を恵送くださり、妻が料理本と首っぴきで作ってくれたものだ。写真をここに掲げるが、なんと存在感のある食事だろうと思う。しかも、自然界の恵みばかりで構成されてい
る。それを食べることで、様々な素材の味が個別に味わわれるだけでなく、その組み合わせの妙が体に染み入る。酢絞めの魚、シイタケ、フキ、カンピョウ、サヤエンドウ、錦糸卵などがよく酢飯と調和し、その上に生姜と山椒の香りが漂う……もし液状食の愛用者が近くにいたら、ぜひ味わってもらいたい、と思った。そして、「豊かさ」とは何かを改めて考えてほしい。
谷口 雅宣