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2014年7月 5日 (土)

憲法軽視で「法の支配」を言うなかれ (2)

 3日付の本欄の内容について、何人かの読者から質問をいただいた。本件は、複雑かつ重要な問題なので、前回の私の文章だけで納得する人は多くないのかもしれない。が、本欄のコメントは、本名での書き込みを原則としているので、読者の中にはご自分の立場を考えて質問を躊躇している人もいるだろう。ということで、本名での質問であることが確認された人の分について、稿を改めて本欄で回答することにした。ただし、ご本人の立場を考えて実名は表記せず、また本人が特定できないように、一部文章を改変してある。
 
 まずは、関東地方の男性幹部会員からの質問である--
「総裁先生、ありがとうございます。
様々な情報が交錯しているこの問題について、明確なご教示を頂きましたことに感謝致します。その上で、2点ほど質問があります」
【質問 1】
 1つめは、今回の「集団的自衛権」を巡る問題でFB上などで比較的若い生長の家の信徒誌友の中で“憲法第9条”を良しとする人が結構いるように見受けられたのですが、この点について、昨今の世界情勢を踏まえ、今一度生長の家としての見解を打ち出す必要があるのではないかと感じました。特に「改憲」ということに関しては、今上陛下が「現憲法を遵守する」と明言された経緯もあります。
 年頭のお言葉や新年一般参賀で、国民と世界の人々の安寧を願われた今上陛下の大御心に、総本山の特別請願が「鎮護国家」から「世界平和」へと変わった今の生長の家の運動はピッタリと寄り添っていると感じており、世界平和と環境問題の解決を目指す現在の運動こそ、真の愛国運動であると思っています。ただそのような中で先生がブログに書かれた、谷口雅春先生が否定された第9条を初めとする、現憲法の肉体民主主義を助長する様々な条文について、今後どう理解すればよいか正直悩んでおります。
【回答 1】
 この問題は結局、「現行の日本国憲法をどう評価するか?」という疑問に帰着すると思います。昔の生長の家の考え方は言わば“完全否定”ですが、私は、さまざまな紆余曲折があったものの戦後60年以上、日本国民によって維持され続けてきたという事実は大きいと思います。また、谷口雅春先生は、「明治憲法復元改正」のところまでは仰いましたが、どう改めるべきかは詳しく述べられませんでした。明治憲法には大きな問題がいくつもあって、その1つが天皇と直結した軍部の独走を許したという点ですから、これをどう改善し、その他の問題点(例えば、国民の権利を制限する諸規定)もどう理解し、どう改正するかについて、生長の家はほとんど何も語らず、また検討もしてきませんでした。にもかかわらず、60年以上きちんと機能し続け、その下に夥しい数の判例が積み上げられ、行政上の諸制度が整えられてきた現行憲法を「成立の手続きが間違っていたからすべて破棄せよ」というのは、法理論としては相当乱暴であり、かつ政治問題としても現実無視と言わねばなりません。ですから、今の時代、「明治憲法復元改正」論の政治的現実性は失われていると考えます。
 
 では、「自主憲法を制定せよ」という声が聞こえて来そうですが、私はそれをやるならやったらいいと考えます。ただし、その場合もきちんとした改正手続きを踏んで行うことが民主主義国家としては当然の義務です。それを省略して“解釈改憲”に走るというのは、もってのほかです。現行の日本国憲法は改正要件が比較的厳しい“硬性憲法”ですから、安倍首相などは「手続きをきちんと踏んで改正するのでは、いつ改正できるか分からない」と考えて、「また、解釈改憲で行こう!」と考えたのだと思いますが、これは自分の価値観を最善とし、数に奢った独裁政治家の感覚であり、看過することはできません。
【質問 2】
 2つめは、今回の「集団的自衛権」を巡る最大の問題は、先生が仰る通り、数を頼りに自民・公明が国民に問わずに閣議決定で押し切ったことですが、今後もこのような問題を是正するには、先生が以前にブログで書かれた「二大政党制を育てるために」のように、民主党が対抗勢力として抑止力を働かせること以外にないと考えます。しかし、政教分離や現在生長の家が政治活動をしていない状況から、かつて私がそうであったように、生長の家の信徒誌友の中でも自民党支持が根強く残り、民主党応援には至ってないように思えます。
 私個人の考えとしては先生がブログで「民主党を支持する」と書かれた以上、教区として応援しなくても、個々の支持政党として生長の家信徒誌友は民主党を応援すべきであると考え、私は現在民主党を応援していますが、それで宜しいのでしょうか?
【回答 2】
 それでいいと考えます。私は本欄の前身である「小閑雑感」欄でも2009年8月31日の「民主党政権の誕生を歓迎する」という文章で、二大政党制への期待を述べました。が、これを読めば、私が手放しで民主党を支持するのではないことが分かるでしょう。あれから、ずいぶん時間がたっています。その後、当時の鳩山首相は外交政策などで失敗を繰り返して交替し、民主党は政策をめぐる内部分裂も表面化して自ら墓穴を掘りました。私は、多くの国民と同様に民主党に幻滅しましたが、それでも「二大政党制を支持する」ことに変わりはありません。理由は、すでに前掲の「民主党政権の誕生を歓迎する」に書いた通りです。宗教運動が、政治家や政党に密着することは弊害が大きすぎます。今回の公明党の動向も、そのことを明確に示しています。宗教と政治が異なる大きな点の1つは、宗教は原理原則を尊重し、その実現を誠実に希求するのに対し、政治は原理原則をいかに調整して(曲げて)、社会の力関係をバランスさせるかを目的の1つとします。私たちがもし宗教の信仰者でありたいと願うならば、特定の政治家や政党を全面的に信頼したり、全面的に支援するなどという「all or nothing」の態度をとるべきではありません。宗教と政治は、社会における役割が基本的に違うと心得て、政治には是々非々の態度で臨むのが賢明です。生長の家は、かつて政治運動をして失敗した経験から、そのことを学んだはずなのです。
 
 ではなぜ、現在にいたっても私たちの仲間で自民党を支持する人がいるのかという問題ですが、その理由の1つは、生長の家の側から「自民党を支持するな」という明確な通達なり、発表がないからでしょう。しかし、私自身は機会あるごとに、自民党が進めてきた戦後の政策の、とりわけ経済発展を至上とする考えと政策、原子力発電をめぐる考え方の間違いを指摘してきました。それらの言説の一部は、『今こそ自然から学ぼう』(2002年)、『足元から平和を』(2005年)、『次世代への決断』(2012年)などの著書になっています。にもかかわらず、自民党支持の信徒が多いのであれば、それらの人々の信仰者としての見識を表しているのでしょう。あるいはまた、民主党の政治家に支持するに値いする人物が少ないということでもあるでしょう。その「支持」の問題ですが、民主主義制度では「経済的対価を求めて支持する」というのが圧倒的な潮流です。しかし、宗教運動は、経済を超えた価値の実現とか、神意の顕現とか、大調和の実現などという目標を掲げて進みます。その目標達成のためには、「対価を求めず」に寄付や寄進をすることに喜びを感じる人も多いのです。しかし、そういうレベルに達していない人も、宗教運動に参加することは多々あることでしょうし、私たちはそれらの人々を排除するのではなく、教導することで目標達成に近づくのが正しい運動姿勢だと思います。
 
 谷口 雅宣

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コメント

1950年代の保守合同以来、日本の政権与党は自民党が担ってぎました。以来金権政治や国民を欺き騙した政治手法は日本の一部の一族に利潤と利権の温床となり、その見分けかたは日本新党が派生するまで政権与党は自民党が牛耳る形にもなりました。しかし日本新党もわずか数年で瓦解しその波は民主党に引き継がれました。そして何年か前、民主党が政権与党になり、大多数の国民が期待し希望をかけたのが大失態をヤラカシいつのまにか国民にソッポむかれ信用を失いほとんどが維新やみんなに躍進されわずかな票も共産党に持って行かれ、自民党に政権与党を明け渡す事になるとは予想できませんでした。丁度、外国対策も親中派も多く当時、野党だった自民党にも弱腰外交と罵られて貧弱さが否めません。そして今回の出来事。対中政策では日本は侵略国家だった事もありますが、今はそれを知る人物も少なくなりました。私はまだ青年会を卒業してわずか二年ですが、栄える会で講話して戴いた故・中村粲さんの言っていた言葉が印象深く残っています、閑話休題。まだ未熟な島国ですからアメリカの様な二大政党は無理だと思いますし今はどの政党も信用信頼の回復が条件です。民主党が政権与党復活を待ち望むみたいですけど一度失った信用はそう簡単には消えません。

投稿: 直井 誠 | 2014年7月 7日 (月) 02時01分

【質問 2】
 私個人の考えとしては先生がブログで「民主党を支持する」と書かれた以上、教区として応援しなくても、個々の支持政党として生長の家信徒誌友は民主党を応援すべきであると考え、私は現在民主党を応援していますが、それで宜しいのでしょうか?
【回答 2】
 それでいいと考えます。

上記の部分ですが、生長の家信徒はどの政党を支持しても自由だと思っていたのですが、総裁先生は信徒は民主党を支持すべきとのお考えですか。2大政党体制が理想の形態だとしても、まとまりがなく、親中派の議員もいる民主党を推すのはどうかと思います。

投稿: 近藤 静夫 | 2014年7月 9日 (水) 08時40分

近藤さん、

 質問をよく読んで下さい。そこには「私個人としては……」という前置きがあります。信徒の一人が「自分は個人としてはこう考えて、こう投票した。これでいいか?」と聞かれたので、「それでいい」と答えたのです。そのことが必然的に、「すべての信徒は民主党に投票しなければならない」という意味になるとは、私は思いません。

投稿: 谷口 | 2014年7月 9日 (水) 17時39分

合掌 ありがとうございます。

私を含めてですが、読み手としては、著者の意図を把握せず、自分なりの解釈を進めて行く事ってよくありますよね。 
此の度の件でも、多くの読者はそれなりに解釈し、済ませておられるかも知れません。近藤氏のコメントのお蔭と、それに対する総裁先生のお答えのお蔭で、かなり多くの読者が抱いていた細かな誤解、疑問点に気付かされ、解釈を軌道修正されたのでは、と思わせて頂きました。小さな誤解も放っておくと誤解が誤解を呼んで大きな塊になって動き出す懸念もありますので。 著者と読者が自由に発言出来る事は、素晴らしいですね。 感謝申し上げます。

               再拝 高野洋子  
              

投稿: 高野洋子 | 2014年7月10日 (木) 11時52分

総裁先生、重ねてコメントさせて戴きたいと思います。

先生個人の考え方で民主党を推すのと信徒誌友が民主党を推すのには違いがあると思います。 先生個人の考えと生長の家の信徒誌友とは比例に価しないからです。かつて政治運動をしていた頃の反省点からもこのことはいえます。しかし乍、信徒誌友が支持する政党を選択するなばそれは個人の自由で構わないという事ではないでしょうか。憲法は国が決める最低の国際公約の一つですから、閣議決定だけでは済まされないのも事実です。この問題はもっと尾が引く様で国の在り方が問われる問題だと思います。

投稿: 直井 誠 | 2014年7月10日 (木) 18時39分

私は安倍政権というのは戦後というか戦前を含めて最悪の政権だと思っています。戦前、日本が大東亜戦争にまで至った経路は近衛文麿内閣による日中戦争の拡大に遠因があると思いますがあの頃はまだ欧米列強が群雄割拠していた時代でした。
 しかし、現在は日本は現憲法の下、防衛力は自衛隊により保たれそのままであれば外国は容易に日本などに侵略なんかできっこない。現在の状態であれば日本は戦争に巻き込まれる懸念なんてないはずなのに。ましてや中国も現在の経済関係の枠組みなどを壊したくないから戦争などしたくないはず。
 それなのに勝手に尖閣の保有を石原前都知事が宣言した所からおかしな事になり、その後、野田首相による国有化。これで決定的に先方の心証を損ねて現在は最悪の日中関係になっています。
 その上、安倍政権になってから勝手に中国脅威論を展開し、中国包囲網を画策してASEAN諸国を回っている。これで返って本当に中国が脅威になって来ていると思います。
 そんな中、今回の集団的自衛権の勝手な解釈による内閣決定。これはアメリカの起こす戦争に日本が協力する道を開いたものだと思います。そうなるとアメリカの敵国とかテロ組織と日本は明確に戦争状態になる。そうなると日本の若者が海外に行って戦争を行う事になるばかりか日本にだってミサイルとかが飛んで来る可能性が出てくると思います。そして日本には54基の原発があり、テロ組織にそこを狙われたら日本は終わりですね。
 それで安倍首相は「私は日本国民の生命を守る義務がある」とはよく言えたものだと思います。

 それにこれだけの事故を起こしていながら原発再稼働方針ばかりかそれを同じ地震国であるトルコを始めとして積極的に海外に売りつけようとしている。

 そして、アメリカの多国籍企業が日本国の法律の上に来る事になってしまうISD条項を持つTPPの推進。
 そして、先生もご指摘下さった経済第一の方針による地球温暖化対策無視。まだあります。皇統はもう男系ではやっていけない(男系を維持していたのは側室制度あったればこそ)のに小泉内閣時に出された女系継承に道を開く皇室典範改正案を勝手に握りつぶしてしまったのも安倍氏です。
 まだまだあります。残業代ゼロ法案。これも現在は年収1000万という壁がありますが一旦導入されればそれがどんどん下げられるのは必至。また赤字企業からも法人税を取る事も検討してるらしいし、また女性の社会進出を応援するの美辞麗句の元、専業主婦の配偶者控除の撤廃論。
 そしてもう一つ大きいのが特定秘密保護法。これは「その他」という言葉がいくつもちりばめられていますがこれによりいくらでも政府の官庁のやる事には取材規制が敷かれ、原発事故の状況など国民に知らされなければならない大事な情報も隠蔽される可能性があります。

 これらを鑑みてこの内閣は大変な全体主義国家、ファシズム政府だと断じて良いと思います。
 今回の正式な手続きを踏まないで勝手な憲法解釈により憲法を骨抜きにしてしまうというのはこうした蛮行政府による暴挙だと思います。

 私はこれは本当に日本国の危機だと思っています。

投稿: 堀 浩二 | 2014年7月12日 (土) 13時30分

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