昆虫を食べる
6月22日に長野県で行われた生長の家講習会の午後の講話で、私は「昆虫を食べる」という試みについて少し触れた。私が住む山梨県北杜市は長野県に接しているから、買い物などで長野県へ行くことも少なくない。そんな機会を利用して、長野産のイナゴを買って食べてみたことがある。「ゲテモノ趣味」とか「何を物好きな!」と言われるかもしれないが、私のこの試みは単なる物好きが理由ではない。先日の講習会での講話を聴いてくださった読者には、その理由を理解していただけただろう。が、この日に講習会に来られなかった人も多いので、この場を借りて説明したい。
私が講習会で話題にしたのは、実は私自身のことではない。それは今、アメリカで開発されている“昆虫クラッカー”(=写真)のことだった。5月24日付のイギリスの科学誌『New Scientist』がそれを取り上げて、「Big bug harvest:Taste test at America's first insect farm」という特集記事を載せていたのを紹介した。訳せば、「昆虫の大収穫--アメリカ初の昆虫農場で味を試す」とでもなるだろうか。昆虫を人間の食料とすることを考えているのは、ボストンにあるシックス・フーズ(Six Foods)という会社で、「チャープス」(虫の鳴き声の擬音)という名前でコオロギ・チップを売り出そうとしている。そう、イナゴではなくコオロギを使うのである。記事にはクラッカーの写真が添えられていて、メキシコ料理店で出てくる「ナチョス」によく似た三角形のクラッカーが写っているが、色はチョコレート色だ。 彼らはどうしてそんなことを考えるか……読者の多くは、「飼料効率」の話をすでにご存じだろう。これまで私は講習会などで何回もその話をしてきたし、『足元から平和を』(2005年刊)という本にも書いたし、今年の全国幹部研鑽会でも取り上げられたからだ。簡単に言うと、穀物が動物の肉になる効率のことだ。現代の食肉生産では、家畜や家禽を育てるのに穀物飼料を多用する。また、魚類の養殖にも穀物飼料が使われる。理由は、早く肉を得るためである。ところが、与えた穀物が肉になる効率は動物の種類によって大きく違う。ウシの体重を1キロ増やすのに必要な穀物は7キロ、ブタの体重を1キロ増やすのに要する穀物は4キロ、ニワトリの場合は2キロ、養殖魚は1.8キロ……などと言われている。これらの数字は厳密なものではなく、本によって必ずしも一定ではない。私が挙げた数字はその中でも“保守的”な見積りで、「ウシは10キロ」などという人もいる。が、とにかく、人が穀物をそのまま食べるのに比べ、穀物を動物に食わせてその肉を食する方法は、地球資源の大きなムダ遣いであるということを知っていただきたい。
これに対し、動物性蛋白質は人間の生存にとって必須だから、動物の肉を食べないわけにはいかない--という見解がよく聞かれる。また、子供をもつ親の中には、成長期の人間の体を健康に保ち、勉強や運動に秀でる子とするためには動物の肉が必要だ--と考える人も多い。つまり、「環境を取るか自分を取るか……」というジレンマがあるというのである。これを解決しようという方策の1つが、「昆虫を食べる」という選択肢なのだ。昆虫は獣(けもの)ではないが、立派な動物である。しかも、体内には動物性蛋白質だけでなく、カルシウムもビタミンも豊富に含む。さらに言えることは、昆虫は、種の数では生物界では最大である。ということは、その中には人間の好みに合った味や食感をしているものもあるかもしれない……ということだ。そうして研究を進めた結果、コオロギに白羽の矢が立ったというわけだろう。
しかし、そもそもなぜ昆虫か? と思う人には、飼料効率がすこぶるいいと答えればいいだろう。また、水を効率よく吸収して成長するのも昆虫の特徴だ。それに比べ、ウシやブタは生育過程で相当な量の水がいるし、殺した後の処理にも大量の水を使う。シックス・フーズ社のサイトによると、コオロギの飼料効率はウシの12分の1、温室効果ガスの排出量はウシの100分の1、1ポンドの肉を作るのに必要な水の量はウシの2000分の1だという。この“昆虫クラッカー”は、コオロギだけから作るのではなく、豆と米をベースにし、コオロギの粉末を混ぜるらしい。普通のポテトチップに比べて、脂肪は半分、蛋白質は3倍、そしてグルテンなしと表記されている。
「虫を食べるなんてキモチワルイ」という感想は、もちろんよく分かる。私だってイナゴを食べるのには最初、勇気がいった。が、人間は馴れてしまえば、かなりの種類のもの、またかなりグロテスクのものでも喜んで食べる、というのも事実である。前掲の『New Scientist』の記事は、アメリカの文化・伝統では考えられなかった刺身や寿司が、今や大人気になっているのだから、“昆虫食”もその可能性がないわけではないと、半ば期待を込めて書いている。ちなみに、エビやカニ、シャコなどは、昆虫と同じ「節足動物」に属する。多くの読者は、彼らを「キモチワルイ」とは思わないに違いない。しかし、よく眺めてみると結構、グロテスクである。でも、エビなどは、私たちは大量に養殖してでもほしいと思う。
私は本欄で、読者に“昆虫食”を勧めるつもりはない。が、ぜひ知っていただきたいのは、世の中には、今後の地球の環境悪化と人類の食糧問題について、これほど真面目に、また創造的に考えている人がいるということだ。「肉食を減らす」などという初歩的なことに躊躇している場合ではない。
なお、興味ある人は、以下の宣伝ビデオをご覧あれ!
谷口 雅宣
At Six Foods, we believe six legs are better than four, and we are introducing our first insect-based food - Chirps Chips! (本社の名前「シックス・フーズ」は、6本足は4本足より優れていると信じているのでつけました。 私たちが開発した初めての昆虫ベースの食品です。)

