「脱原発」の意思を明確に!
最近、都知事選の投票について私に助言を求めるメールが届いた。私はすでに東京都民でなくなっているが、60年以上も都民であったし、今回の都知事選では初めて「脱原発」が争点の1つになっているため、関心は大いにある。本欄の読者で東京都民の方々には、私の従来の主張から考えて、どんな投票行動をお勧めするかは簡単に想像できるだろうと思っていた。が、必ずしもそうでもないようである。
まずは、そのメールを転載させていただこう--
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合掌ありがとうございます。
都民である吾々にぜひご教示ください。
都知事選についてです。
神想観をしても答えがでません。
フェイスブックでは、本部員の家族や一部信徒の方が、
細川氏支持を訴える書き込みが目立ちますが、
口八丁の小泉氏がバックについていること、
首相職を途中で投げ出した人をまた信じてよいものか、
など甚だ疑問が残ります。
自公推薦の桝添氏には投票する気はありませんし、
かといって脱原発を同じく唱える
共産党支持の宇都宮氏に投票するのも違和感があります。
先の総選挙では、先生の明確なご指導があり、
スッキリした気持ちで投票へ行けました。
どうか再度ご指導ください。
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この質問に答えるため以下、私がまだ都民だったら、どう考えて投票するかを書くことにする--
まず、前提と考え方の筋道を明確にしよう。
①今回の選挙で信頼できる政治家は「いない」。
②しかし、「脱原発」は必要である。
③誰が、それを政策としているか?
④誰への投票が、自分の意思を最も効果的に政治に反映しそうか?
①と②が前提であり、③と④の筋道をたどれば選択肢は1つしかない、と私は思う。
東京都民にとって、①の前提は驚くほどのことではないだろう。細川氏も小泉氏も、かつて政治家として引退宣言をした人たちだ。にもかかわらず、今回、ぞろぞろとカムバックを狙っている理由は、たぶん「脱原発」で集票できると判断したからだ。つまり、東京都民の大多数である「支持政党なし」の浮動票が大量に獲得できる旗印として「脱原発」が使えると考えたのだ。2人とも首相時代は原発に何も疑問をもたず、むしろ「日本経済に必要」と思っていたに違いない。原発関連企業や、経団連とのパイプも太かったか、今でも太いかもしれない。だから、彼らの「脱原発」は信用できない、と考える都民の気持はよくわかる。私自身だって「何たる朝令暮改か!」という気持がある。しかし……、彼らがもし当選したならば、「やっぱり脱原発はむずかしい」と言って公約を取り下げることができるだろうか? 私はできないと思う。これだけハッキリ宣言して、「あれはウソでした」とは言えまい。すると、自公推薦の桝添氏が当選した場合と比べ、「脱原発」への可能性は拡大するのか、縮小するのか? 私は、前者だと思う--こう考えていくと、④の答えは、①の前提があったとしても、おのずから2人に絞られてくる。
では、最後に残るのは、宇都宮氏と細川氏との間の選択だ。これはなかなか難しい。私は、人間的には前者の方に信頼感を抱いている。しかし、ご存じのように、彼を応援する政党の中には日本共産党が含まれている。「お前、共産党に協力するのか?」という声が聞こえてくるようだ。これは、④の要素への大きなマイナス要因である。つまり、日本共産党や社民党が(また、両党が掲げている政策が)都政において有利になることが、自分の意思を効果的に反映することになるのかどうか、を考えた場合である。ということで、「細川+小泉組」に軍配が上がりそうだ。
だが、ここで1つ別の観点を紹介しよう。それは、「細川+小泉組」は、本当は「自民・公明・経団連連合」の別働隊かもしれない……という視点である。エエッ! と驚かれるかもしれないが、前者はもともと後者と一体だったという事実を忘れてはいけない。東日本大震災以後、東京都では「脱原発」の市民運動が勃興し、それがまだ続いている。加えて世論調査では、「脱原発」の支持者が「原発擁護」の支持者の2倍を維持する状態がずっと続いている。この事実に“連合軍”が危機感を抱かなかったといえばウソになるだろう。そこに突然の「猪瀬辞任」である。これは「オリンピック誘致成功!」で湧いていた“連合軍”には、予想外の展開だったに違いない。「五輪成功のため!」という“錦の御旗”の威力をもってすれば、東京都民の中に多い脱原発派は、そのうちに「五輪のためなら仕方ない」という妥協派に変わっていくと考えていたのに、その“五輪の旗手”が突然消えた。後任候補などまったく考えていなかったところへ、宇都宮氏が早々と名乗りを上げて「脱原発」と「五輪縮小」を訴え始めた。この2つのスローガンは、“連合軍”にとっては最悪のものだ。そこで、考えあぐねた結果、先輩である小泉氏と細川氏に頭を下げて、“別働隊”の旗揚げをお願いした--こういう視点である。
これはあくまでも「視点」であり「観点」である。私は、これが事実であるとは言わないし、事実など分からない。しかし、まったくあり得ないことではないと思う。何のための“別働隊”であるかは、賢明な読者には説明の必要などないだろう。が、あえて説明すれば、それは「脱原発」の世論を分断するためだ。票が割れて、“連合軍”が漁夫の利を得る。政治の世界にあっては、権謀術数は当たり前だ。
しかし、である。仮に上に掲げた“別の観点”が事実であったとして、そして、“連合軍”の勝利に終わったとしても、細川氏と宇都宮氏が獲得した都民の票は、脱原発の支持票だという事実は明確に記録されることになる。この両候補の獲得数の合計が桝添票を上回る結果になれば、桝添氏が仮に都知事になったとしても、新知事は「脱原発」の都民の声を無視して突っ走るのは難しいと思う。なぜなら、彼としても次期選挙を考えるだろうから。
というわけで、「脱原発」を訴えている私としては、今回の東京都知事選では、この旗印を明確にしている候補者に投票することをお願いするほかはない。
谷口 雅宣