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2013年10月18日 (金)

自転車通勤

自転車通勤は楽にできると思っていた。
 
  体力を過信していたのだ。父は、70歳ぐらいまで自転車で通勤していた。もちろん、距離は1キロに満たず、概ね平坦な舗装道路だった。一方、私は高校時代にロードバイクを手に入れて、うれしがって都内をよく走ったことがある。遠出にも挑戦し、原宿から10キロぐらいある成城学園前まで往復したりした。また、60歳になっても週2回ほど約3キロの距離をジョギングしていたから、脚力の方は大丈夫だろうと思っていた。しかし、舗装されていない山道を甘く見ていた。また、日頃のトレーニングが不足していた。
 
体力不足の予感もあったので、できるだけ軽いマウンテンバイクを買った。高校以来、自転車といえば妻のママチャリに子供を乗せたことがある程度だったから、昨今の自転車について知識がなかった。だから、選ぶのに自信がなく、本や雑誌を買い、またマニア的な知人に教えを乞うた。その結果わかったことの一つは、私のような用途の場合、自転車は軽ければ軽いほどよく、その代わり値段はどんどん跳ね上がるということだった。自転車を探し始めたのが8月からで、引っ越しの諸準備とも重なって時間的余裕があまりなかったこともあり、少々の値段には目をつむる覚悟だった。そうすれば、還暦を越えた人間にも、山は自転車で軽く登れると思ったのだ。
 
Mybikestyle    販売店の人の話では、自転車は秋にモデルチェンジをするので、夏場は在庫が少ないという。私は体が小柄なので、普通の人向けの29インチのモデルだとフレームのトップチューブが高すぎる恐れがあった。だから、26インチのモデルも探したが適当なものがなく、考えあぐねていた。ということで、良さそうと思われるモデルを入手したのは結局、引越しから3週間前の9月6日だった。夕方前に新宿の販売店で操作法やタイヤの着脱法などの説明を受け、ヘルメットやライトなど最低限の付属品を買い、暗くなってから原宿の自宅まで点灯して“初乗り”を敢行した。最初は、国道20号をおっかなびっくり走っていたが、明治通りに出てからは、下り坂が続くことも幸いし、快適さを感じる余裕も出、どうやら無事自宅まで帰った。その後、引越しまで2回、主として代々木公園のサイクリング・コースを走りながら、ギアチェンジなどの練習をした。
 
  しかし、東京の舗装道路と八ヶ岳の山道では、事情がまったく違った。私の家は、舗装道路から山道へ入ってから300メートルくらい凸凹道を行った先にある。急斜面を上り下りする場所もあって、車なら四輪駆動でないと心配な道だ。まずそこを走るのに息が続かず、一度サドルから降り、車体を押さねばならなかった。車道に出た後しばらくは下り坂なので快適に走れるが、その後、県道に出ると、オフィスまでの約600メートルはずっと上り坂だ。ここが結構の急坂だから、最初の数十メートルで脚が悲鳴を上げる。あとはゆっくりと歩くほかはない。「こんな程度でへたってたまるか!」と思うが、体力の衰えは如何ともし難いのである。
 
  上り坂が多いということは、復路は天国のように快適ということだ。英語で、旅立つ人に幸運を祈って投げかける言葉に「Godspeed」というのがあるが、まさに「神の速度」を得たように走る。被っているヘルメットの紐が風を切る音が耳元でヒューヒュー聞こえるほどだ。これで往路の苦しみが報われる、と感じる。「人生、楽あれば苦あり」とはよく言うが、山でのジテツー(自転車通勤)は「苦あれば楽あり」である。
 
Tamagotake2   この「楽」とは、スピード感だけを指すのではない。楽しいことはほかにもある。それは道中、周囲の自然とじっくり対面し、味わうことができることだ。広い空、青い山々、緑の森、鳥の声、シカの叫び、キツツキが木の幹を叩く音、路傍の花々……そして、キノコ。これらの自然の“仲間”たちに会えるのは、下り坂でスピードを出している時よりは、むしろ、上り坂で喘いでいる時だ。その原理は、新幹線の窓から見えるものと、田舎のローカル線の旅で見るものの違いと同じだ。人間は、進む速度が遅いほど周囲に注目し、観察力が増す。特に、歩いていても見つけにくいキノコなどは、苦しい上り坂で自転車を押している時に目に飛び込んでくるから、不思議だ。
 
Kinobori   今年はキノコの当たり年で、長野県ではマツタケが豊作だったと聞くが、私は10月初旬の約1週間、通勤帰りの上り坂でほとんど毎日、食用キノコに出逢うことができた。多いのは、この地方で「ジゴボー」と呼んでいるハナイグチというキノコだ。カラマツと共生しているらしく、この木が多い北海道では「落葉(ラクヨウ)」という名で売られている。そのほかに、タマゴタケ、キノボリイグチ、アカモミタケ、クリタケなどを見つけて喜んだ。もちろん、ありがたく持って帰り、妻の料理で味わったものだ。特にハナイグチはたくさん採れたので、食堂に差し入れして、オフィスの職員にも味わってもらった。
 
  自転車通勤には、もちろん難点もある。雨天や降雪時には不可能だし、厳冬期には晴天であってもどうなるか心配だ。路面が凍りつけば危険だからだ。しかし、東京にいたときよりも確実に運動量は増えていて、体調もいい。人間、楽なばかりでは喜びは少ない。ありがたいかぎりである。
   谷口  雅宣

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コメント

総裁先生ありがとうございます。
自転車通勤の素晴らしさ、臨場感が伝わってきます。

埼玉教区でも先生のブログの影響で自転車通勤を始めようとする方が増え始めています。

先生はジョギングをされておられるので体力的には問題ないはずです。八ヶ岳の急傾斜もあるでしょうが、それ以上にジョギングと自転車では使う筋肉が違うので最初しばらくは辛く感じると思いますが、一月もすればずっと楽になると思います。
大切なお身体です。くれぐれも怪我にはお気をつけ下さいませ。

投稿: 布谷博之 | 2013年10月18日 (金) 23時24分

私も、たしかに上りの方が自然と、より対面できる気がします。
特に鳥は鳴き声が聞こえるのはもちろん、バッチリ姿を見ることができ、シジュウカラだ、ヒヨドリだ、コゲラだと認識することができます。
歩きながら鳥を見るときより、不思議と鳥たちは逃げない気がするのです。
そのようにゆっくり味わう上りも、風になる下りもどちらも大好きです。

投稿: 岡田 慎太郎 | 2013年10月18日 (金) 23時38分

合掌 ありがとうございます。

私も今の自分にできることを、日々の生活のなかで実行し続けていきます。

総裁先生ありがとうございます。

投稿: 金坂千位子 | 2013年10月22日 (火) 21時41分

総裁先生ありがとうございます

健康のため、炭素0実現のために自転車通勤を選ばれ、冬場は無理ですが今春もまた自転車通勤を再開される事と推察申し上げます。
また太陽光発電できる環境を整備されるなど売電抑制に日々お世話様です。

さて、総裁先生が自転車通勤に使用されるマウンテンバイクですが、坂道を毎日登る事で足の筋肉は相当ダメージをうけていると思います。まだ先生は体力に自信があるとは思いますが今後新しく買い替える時は電動アシスト付きのマウンテンバイクを購入してみてはいかがでしょうか。

私は透析病院の通院手段にママチャリの電動アシストを使用していますが、血圧が低下して帰宅困難時でもこの電動アシスト自転車を運転して帰宅しています。途中急勾配の登坂でも電動アシスト自転車ならぐんぐん登る事ができます。是非一度ご検討くださいますようお願い申し上げます。 また道路交通法改正で基本的に左側通行で右側通行には警察官から赤切符交付されますので注意してください。あと、知ってるとは思いますが、前照灯はバッテリーランプのほうが運転には楽です、
くれぐれも転倒にだけは注意してください。
講習会で先生の講話が拝聴できないと悲しいですから。

長文失礼いたしました。合掌 礼拝。
神奈川教区 直井 誠

投稿: 直井 誠 | 2014年2月 3日 (月) 00時50分

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