自動化は好いことか?
最近、「自動化」というものの価値を疑うようになった。というのも、東京から北杜市の新居に引っ越して来て、毎朝、命令口調の女性の声を聞かされるようになったからである。
妻とケンカしているわけではない。また、口やかましい家政婦を頼んだのでもない。新居に入れたシステムキッチンが、よくしゃべるのである。妻がそういう機能を特に好んでいるとは思えない。だから多分、依頼した工務店の人が、私たちの老後を考えてそういう機種を選んでくれただろう。
新居のキッチンには、ガスレンジがある。いわゆるIH方式を選ばなかったのは、“炭素ゼロ”を目指して電力消費量を抑えるためと、電磁波の問題を避けるためである。IH方式は火を出さないで鍋やヤカンを温めるから、安全度は高いと言われる。だから、今後もの忘れが進行するだろう私たちの安全を慮って、工務店の人はそれを薦めてくれた。私たちも一度は心が傾いたが、先に挙げた理由で採用しなかったのである。
ということで、朝食前には、この三口のガスレンジが活躍する。私はコーヒーをいれるのと配膳を分担しているから、レンジの電源を入れて湯を沸かすことになる。すると、
「電源が入りました」
と、このレンジ女史が言う。
(そりゃ、そうだろう。電源を入れたんだから……)
と私は思う。そして、ポットからヤカンに湯をついで、レンジの右側のコンロに載せ、火を点けるためのスイッチを押す。
「右コンロ点火します」
と同じ声が言う。
(いちいちご丁寧に……)
と私は思う。
パチパチと音がしてガスに火がつくと同時に、レンジフードに付いている換気扇が自動的に回り始める。
(またやり出した)
と私は思う。省電力に関心のある者にとっては、余計なお世話なのである。だから私は、レンジフードに手を伸ばして換気扇を止める。湯が沸く前に、私はコーヒー豆をミルにいれて「ウィーン」と豆を挽き、挽き終った粉をドリップ式のフィルターに入れ、形を整える。
やがて湯が沸くと、ヤカンをコンロから取り上げて、湯をコーヒーの粉の上にチロチロと注ぐ作業に取りかかる。これが案外時間を要するから、その間、ヤカンはコンロから離れることになる。すると、レンジ女史は、
「右コンロ、ナベを置いてください」
と言ったかと思うと、続けて、
「右コンロ、まもなく消火します」
とたたみかける。
(冗談じゃない)
と私は思う。今、コーヒーを入れ始めたばかりなのに、火を消されてはたまらない。そこで、あわててヤカンをコンロの上に戻すのだが、その時、嫌味の一つも言いたくなる。
「これはナベじゃなくて、ヤカンというものだぜ。お利口さん!」
このレンジの指示に従わずに湯を注ぐ作業を続けていると、本当に火が消されてしまうのだ。自動化もここまで来れば、「便利」を通り越して「やり過ぎ」と言わねばならない。
このガスレンジの設計者の善意はよく分かる。しかし、人間は同じ道具でもいろいろな用途に使うし、同じ用途でもいろいろな仕方でできないか工夫する。それを考えずに、「この道具はこの使い方がベストだ」と決めつけ、そうしないと「決めた通りにやれ」と注意するのは、どうもいただけない。まるで子ども扱いされているか、社会主義国にいるようだ。
機械の高機能化にともなって自動化は各方面で進行しているが、私はこの傾向の先に、機械の人間支配が横たわっているような気がしてならないのである。
谷口 雅宣
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コメント
合掌有難うございます。
総裁先生、声を出して大笑いしました。いつも同じことを言われると困りますね。言ってもお返事がなくて・・・。
明日は団参に出発します。
再合掌
投稿: 山本 順子 | 2013年10月23日 (水) 15時53分
全く同感です。
セルフのガソリンスタンドで毎度、給油を終えて帰ろうとすると、
「いらっしゃいませ!油種を選択して・・」
と明るく言われるのが、何故か気に障ります。
「帰るところだよ。」
などと独り言を言ってみたりして、、。
何せ彼らにはノウミソがありませんから、いくら高性能になったところで、人間さまには程遠いですね。
投稿: 片山 一洋 | 2013年10月23日 (水) 21時38分
列車の遅れを取り戻すために、既定のスピード以上の猛スピードで、カーブでも何処でも乗客の安全なんかおかまいなしに列車を走らせることも、[機械に支配されること]と、思いました。 志村 宗春拝
(◎|◎)
投稿: 志村 宗春 | 2013年10月27日 (日) 22時49分