“手紙月”への挑戦 (2)
2月初めに本欄に同じ題で書いたが、2月を「手紙を書く月」と決めて、毎日誰かに1通ずつ手紙を出すという企画に参加した。そして、当初目標だった「24人」への絵手紙/絵封筒の郵送を今日、終わった。どんなものを送ったかは、フェイスブックやポスティングジョイ上で発表している。この体験の感想をひと言でいえば、「大変だった」ということになるだろう。が、この大変さには、予想外の収穫を得た満足感が含まれている。
多くの読者はすでにご存じだが、私は絵が描くのが趣味だ。そして、生長の家講習会へ行くと旅先から絵封筒を出すことをノルマにしてきた。その理由は、人間というものは、環境が変わることで心がリセットされ、普段は「当たり前」だと感じてあまり注目しないことに注目したり、日常の惰性から離れて新しい事象や分野に興味をもつ可能性が開けるからである。いわゆる“旅人の目”で世界を見ることは、新しい発見や、深い洞察に達するよい機会になる。そういう機会があれば、自分が成長するのだからうれしい。また、それを絵や文章に表現することができれば、自分の喜びを他の人とも共有することができる。こうして社会に喜びが拡がっていくことは、生長の家の「日時計主義」の実践でもある。
そんな理由で、私は旅先からの絵封筒を描いてきたのだが、今回の挑戦は、「旅先」ではなく「日常」において同じことを実践するという点で、一つの挑戦だった。しかも、ほぼ毎日、何かを形にして、自分で眺めるのではなく、他人に送る--つまり、自分の手から放してしまうのである。大げさに言えば、これは仏の四無量心の表現の練習でもある。ということで、描いたものは結局、日常生活で当たり前に出会うものがほとんどだった。まず、絵手紙は干支のヘビの置物から始まり、使い古した歯磨きチューブ(2枚)、日向夏の切り口、妻が焼いたパン、街で配られていたサプリメントの小瓶、店で見つけた小型のランタン、シクラメンの花、紅い饅頭、十字架をモチーフにした錯視の例、古い文房具、陶製の小物入れ、ハート型煎餅、シイタケ2態、プリムラの鉢植え、南アフリカの求婚人形、湯たんぽ、旅行用文具、マフィン、陶製の雛人形、ブラジルの夫待ち人形、雪ダルマ、木製コインの23点。絵封筒は非常用のパンの缶詰、竹製箸置きの2点で、全部で25人に送ったから、目標を1人突破したことになる。
受け取った人たちは、ポスティングジョイ上で絵手紙の写真やスキャンした画像とともに感想を書いてくださったので、私の喜びは倍加したし、中にはご自分で撮影した写真や絵手紙を私宛に送ってくださった人もいる。これまたありがたく頂戴した。
これらのやりとりを通して学んだことは多いが、その1つは、人形をめぐる人々の考えの類似や相異である。生長の家講習会のために乗った飛行機の機内誌で「南アフリカの求婚人形」の写真を見つけ、それを絵手紙に描いたところ、サンパウロに住む人がブラジルにも似たような習慣があると教えてくれた。3月は日本でも雛祭りがあるから、それでは……というわけで、私が陶製の姫の雛を絵手紙にしたところ、同じブラジル人が、今度は自分の国の“夫待ち人形”の写真をメールで送ってくれた。そして、私はそれを絵手紙に描いた。この人形は、日本のコケシとそっくりな形をしているが、目鼻立ちや衣装はまるで違った。また、南アフリカの求婚人形とも形は違った。
形だけでなく、使い方も南アとブラジルでは微妙に違った。南アでは、男性が女性の家の前に“求婚人形”を置いてプロポーズをするが、ブラジルでは逆に、女性が“男の人形”を買って、それを枕元に置いて寝たり、もっと真剣な場合は、この“男の人形”を逆さまに土に埋めて、結婚相手の出現を待ち望むのだそうだ。そして、“本命”が現れたならば、土から出してあげるという。つまり、この人形に“未来の夫”の出現を頼む思いが強烈になると、「早く出現させてくれないと、ずっと土の中で逆さのままよ」という、一種の脅迫じみた思いとなるようだ。これを教えてくれたブラジル人がさらに言うには、この人形は「聖アンソニー人形」と呼ばれ、ポルトガルの首都、リスボンの守護神が聖アンソニーであることと関係があるという。かの国では聖アンソニーは“結びの神”の役割をするらしく、ポルトガルの植民地だったブラジルでは、だから聖アンソニーの日(6月12日)をバレンタインデーとして祝うそうだ。
男女関係に関連させて「人形」をどう見立て、どう扱うかが、日本、南アフリカ、ポルトガル/ブラジルの間でずいぶん違うことが分かる。これらの違いをより深く研究すれば、各国の文化の違いがさらによく分かるだろう。私が“手紙月”に挑戦しなかったならば、こんな観方を教わる機会がはたして来たかどうか、疑わしいのである。
谷口 雅宣
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コメント
合掌いつもありがとうございます。
かわいい南アフリカの求婚人形の絵手紙をいただきありがとうございました。「大変だった」と感想をお聞きしまして、もっと感謝の気持ちが湧いてきました。大切にします。
求婚人形について似たような習慣について、すぐブラジル人の友人にFBで聞きましたら、そのような男性からの習慣は、ないと言われました。が、確かに女性が、結婚したいときには、聖アンソニー人形を土に埋める習慣があることを聞きました。
また、ヴァレンタインデイにあたるのは、どうも6月12日らしいです。季節が逆ですから、きっと涼しい時期なのでしょうね。
立教記念日おめでとうございます。
東京は、春一番でしょうか。出雲は、雨になりました。
再拝
投稿: 柳光 貴代美 | 2013年3月 1日 (金) 11時30分
柳光さん、
ブラジルのバレンタインデーについてのご指摘、確かにそうでした。訂正しました。どうもありがとうございます。
投稿: 谷口 | 2013年3月 1日 (金) 13時15分