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2013年1月21日 (月)

人類の向かう方向は?

 1月17日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙に掲載された論説で、アリゾナ州立大学の理論物理学者、ローレンス・クラウス氏(Lawrence M. Krauss)が、科学の成果や科学者の意見が国の政策決定に影響力をもたなくなったと嘆いていた。題して「世界の終末なのに耳が聞こえない」。主として、アメリカ社会での傾向について嘆いているのだが、私は日本にも共通していると感じた。同氏によると、アメリカでは戦中から戦後まもなくの時期は、科学者の考えや意見が政策決定者に重要視されたために、核兵器などの強力な科学技術が登場しても、それが悪用されるのを未然に防ぐことができた。しかし、今日のアメリカでは、科学者の意見は尊重されないというのである。具体的に何のことを言っているかというと、➀気候変動、②核の拡散、そして③人類に死をもたらす病原の創造について、社会は注意を払わないというのである。これら3つの深刻な問題が、科学者の警告にもかかわらず野放しにされていることへの怒りが表れた文章だった。何に対しての怒りか? 直接的には政治家だが、間接的にマスメディアも批判しているのだろう。
 
 私は、本欄などでこれら3つの問題のいずれも取り上げて、特に➀について、私たちの子や孫世代のためにどうすべきかを訴えてきた。しかし、日本の政治は、ご存じのように“経済発展至上主義”に逆もどりしつつある。こういう実例を目の前にしつつある昨今、私は現行の民主主義制度の欠陥をヒシヒシと感じるのである。もちろん、私は民主主義そのものに反対しているのではない。それを実際の政治過程で適切に機能させるためには、現行の制度には欠陥がある、と感じるのである。端的に言うと、個人や団体の短期的利益の調整や増進に焦点が集まりすぎ、もっと長期的な、環境倫理や世代間倫理の観点をも取り入れた政策に結びつかないのだ。すぐ先の参議院選挙のための施策は実行されるが、血税を投入して整備した道路やトンネルを、次世代の人間が必要としているかどうかの問題は、考えない。オリンピックを誘致しようと目の色を変えるが、その競技場となる大都市の低地が、やがて海面上昇で使えなくなる問題については語らないか、考えもしないのである。

 昨今、日本列島によく寒波がやってくるが、日本以外の世界各地域でもこのところ異常気象が起こっている。日本のメディアはこのことをあまり伝えないが、上記の新聞は何回も報じている。北極の海氷が9月に最小になったことは、本欄ですでに書いた。日本のメディアの一部もこれを伝えた。が、それ以降は、あまり熱心でない。それに比べて上掲の『トリビューン』紙は、昨年11月30日付の紙面で国連の気象学者の言葉を引用して、2012年が過去160年間では9番目に暑い年だったと報じた。また今年の1月10日付では、アメリカだけを対象にした気温の変化を調べて、2012年は1998年の記録を抜いて平均気温としては最高だったと書いた。「平均気温で最高」という表現があまりピンと来ないなら、より具体的には、夏の熱波でいうと、アメリカ人の3人に1人は、華氏100度(37.8℃)を超える日を昨年10回以上経験したということらしい。さらに巨大ハリケーンや竜巻も起こり、その被害額を推計すると、2012年に起こったこれら11の気象災害は、合計で「10億ドル」を超えたという。それに加えて、年末にアメリカ東部を襲った巨大ハリケーン「サンディー」の被害は「600億ドル」を超えるだろうという。

 600億ドルとは、日本円(1ドル=90円で)にして7兆2千万円だ。この額は、現在のわが国の農林水産業全体の生産額(約10兆円)より少ないが、そこから、日本のTPP参加で農林水産省が減少すると推定している分を引いた額とほぼ同じである。つまり、それだけ大きな被害が気候変動によっても起こり得るのである。少し乱暴な言い方かもしれないが、TPPに反対し加入を阻止できても、地球温暖化を抑制できなければ、日本の農林水産業が蒙る被害はより大きくなる可能性があるのである。ここ数日は、大雪の被害でアメリカやヨーロッパの空港が一部機能マヒに陥ったそうだ。アメリカだけで欠航便の数が1日で数百便というから、旅行や航空業界に及ぼす影響は大きいはずだ。このようにして、経済的被害が深刻になっていかないかぎり、世界は気候変動の存在を「いつもの通り(business as usual)」と考えて無視し続けていくのだろうか。

 最近、本欄の読者からこの地球温暖化の問題に関して“悩み”の相談を受けた。「温暖化の原因に2説あって、そのいずれを信じるべきか……」という悩みである。2説とは、「人間の活動説」と「太陽原因説」である。私は今のこの時期に、この種の悩みをもつ人が日本で多数を占めるとは思わない。大多数は、地球温暖化の原因は「人間の活動」だと信じており、たぶん学校でもそう教えているだろう。科学者の大多数も、もちろん「人間の活動説」を信じている。しかし、悩んでいるご本人にとっては、自分が多数派か少数派かという問題はあまり重要でなく、それよりも自分の心の中にある“疑い”を晴らしてほしいということなのだろう。でも、環境学や気象学など、測定が容易でなく、しかも厖大な量の自然界のデーターを扱う学問では、数学や物理学のように厳密な答えが出る純粋科学とは異なって、不確実な部分がどうしても残る。そのことは、私たちが毎日テレビで見る「気象情報」を思い出せば分かるだろう。その「不確かさ」を取り除くことは、少なくとも今の科学ではできない。
 
 世の中に「不確かさ」があることについて、悩む人もいれば悩まない人もいる。もちろん「不確かさ」にも程度の違いがあり、入試問題に何が出るかなどということは、不確かなのが当たり前である。それに比べ、親が自分を愛してくれているかどうかは、「不確かだ」と思う人は少ないのではないか。このいずれの場合にも、悩む人も悩まない人もいる。生長の家の信仰をもつ人は、これらの現象的な出来事についての悩みをどう解決すべきだろうか? 私は、神の創造になる“善一元の世界”を信じている場合、また、「人間は神の子である」との教えを信じている場合、人間の判断と、それに伴う最終的な結末に対して、その人が不安を感じる度合いは少なくなるはずだと思う。
 
 私が本欄などを通して、気候変動の深刻化について警鐘を鳴らすのは、読者をいたずらに不安に陥れるためではない。方向を示さずに「世界は暗い」と言えば、不安を引き起こす。しかし、方向を示して「こちらは明るい」と言えば、人々は不安なく明かりに向かうだろう。私は、神の御徳の反映としての人類の英知を信じており、それが科学の営みの中にも現れていると思うから、大多数の気象学者が理論と大量の実際データーをもって示す「人間の活動説」を信じている。また、昨今の気候変動は、彼らが何年も前に予測していた通りになっているという事実は、決定的に重要だと思う。だから、この件について悩んではいない。悩んでいるのは、それにもかかわらず、国際政治や国内政治、産業の動きが、科学者の警告に一向に耳を傾けない様子であることだ。そういう点で、私はクラウス氏と静かな“怒り”を共有するのである。
 
 谷口 雅宣

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コメント

地球温暖化に起因する異常気象による災害が起きることによる損失は大きいと思います。 一人ひとりの人々が、このことを自分に関係のない対岸の火災と考えるのではなく、切羽詰まった自分自身の問題として真剣にとらえて対策を講じることが必要であると痛感致しました。

投稿: 志村 宗春 | 2013年1月21日 (月) 23時59分

合掌 ありがとうございます。

今回の記事を読まさせて頂いたことで、環境破壊による経済的な損失が、兆円規模で起こっていることに驚きを覚えました。

どんなに政府が経済再生活動をしても、環境破壊による経済損失が大きければ経済成長率は伸びないので、本当の意味での経済再生はできず、それによって国民の期待には答えられないと言うことになります。ということは、国民はおのずと環境問題を真剣に考えねばならない日が近々来るということになるのでしょうか?
私は、政治を勉強中のため、間違いがあればご指導よろしくお願いいたします。再拝

投稿: 多久剛 | 2013年1月22日 (火) 01時36分

(会釈)

方向性がはっきりすることは とても安心します。

私も神様の叡智を信じます。

奥岡 文

投稿: 奥岡 文 | 2013年1月22日 (火) 11時39分

多久さん、

>>環境破壊による経済損失が大きければ(…中略…)国民はおのずと環境問題を真剣に考えねばならない日が近々来るということになるのでしょうか?<<

 私は、東日本大震災と原発事故が、すでに有力にこのことを物語っていると思うのですが、それに気づかない人がまだ多いのが残念です。「近々来る」と言っても、それが1年後なのか、それとも10年後なのかで、結果はずいぶん違ってきます。その意味で、国の指導者層の人々の意識は大変重要だと考えます。

投稿: 谷口 | 2013年1月22日 (火) 13時21分

合掌 ありがとうございます。
ご回答していただき感謝いたします。
「(…中略…)1年後なのか、それとも10年後なのかで、結果はずいぶん違ってき ます。(…中略…)」
このご文章からあらためて自分が今何をすべきかがわかりました。今後ともよろしくお願いいたします。

ご指導していただきありがとうございました。

投稿: 多久剛 | 2013年1月22日 (火) 23時08分

合掌ありがとうございます!人類の向かう方向は生長の家が説いている素晴らしい「人間神の子」の教えと、大調和の世界に回帰することと僕は思います。若い僕ら青年に総裁先生から語っているかように、そして若い人たちに知ってもらいたいっていうメッセージだと僕は受け止めます!誌友会などの行事で伝えたいです。何か一言メッセージ下さい。よろしくお願いします!

投稿: 辻昭 | 2013年1月23日 (水) 19時21分

総裁先生,ありがとうございます。
やはり,個人レベルでの意識の変革,向上が必要ですね。
今日のニュースで,退職金の減額のために辞職する警察官・教員が出てきているという残念な話題を知りました。どちらも「聖職者」なのにと思います。
私も公立学校の教員ですが,体力が続く限り辞めるつもりはありません。やり甲斐のある仕事ですし,社会的にも責任の大きい仕事ですから。特に「人間神の子」の教えを受けていると,どんな仕事でも楽しいです。そして,次世代のために地球環境を守ることもすばらしい活動だと思います。
本題から外れたコメントで失礼しました。

投稿: 佐々木(生教会・宮城) | 2013年1月23日 (水) 19時46分

ー多久さんのコメントに対してー
東北地方,特に被災3県の県民は,環境問題に対しての意識が大きく変わりました。沿岸部の人は「もともと私たちは自然と調和して生きてきたつもりでしたが,いつしか人間の力で自然を(災害の意)押さえ込むことができるという驕りがあったことを反省しています。」と述べていました。また,東北地方での原発の再稼働は,まずあり得ない(許されない)と思います。

投稿: 佐々木(生教会・宮城) | 2013年1月23日 (水) 20時41分

辻さん、

 「若い僕ら青年」とおっしゃいますが、貴方の若さはどれほどでしょうか? つまり、学年とか年齢とか、もし差し支えなければ教えてください。
 青年へのひと言--期待しています。少々の失敗など恐れずに、何にでもチャレンジしてください。

投稿: 谷口 | 2013年1月23日 (水) 22時05分

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