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2013年1月11日 (金)

“笛吹き男”に見えないこと

 新年もすでに10日が過ぎ去った。時間が過ぎるのはなんと速いことか……と思うのだが、世の中は変わっているようで変わっておらず、変わっていないようですごく変わりつつある。こういう実感は、私たちがどこを見るかによるようだ。大ざっぱに言えば、前者を感じるのは世界の大きな流れを見渡した時であり、後者を感じるのは、社会の細部や自分の周りの出来事を観察するときだ。今回は、前者について語ろう。
 
 昨年末の総選挙で、日本は変わったことになっている。民主党政権が倒れ、自民党(+公明党)政権が復活したからだ。が、それは政治の“細部”を見た場合で、「戦後日本」という大きな流れと比べて見た場合は、日本全体の動きは“元の流れ”にもどっただけだ。円高では輸出産業が衰退するとの発想のもとに、大声で“金融緩和”を叫び、“経済優先”の旗印の下に大型の公共事業に税金をつぎ込む。こういう政策は、ひと昔前の自民党の政治そのものだ。だから、今後は当然のことながら、大量のエネルギーを使う重厚型産業の利益代表である日本経団連の意向を重んじて、「原発の再稼働」が進められるだろう。エネルギー政策にも大きな変化は起こらない。なぜなら、原発再稼働は、電力の地域独占傾向を強めこそすれ、弱めることはないからだ。ということは、自然エネルギーの利用拡大は遅々として進まないことになる。となると、農林漁業の振興もかけ声だけになる可能性が大きい。
 
 人々が「従来通りの生き方をしたい」と思う気持は、よく理解できる。人間は、特に高齢になると変化を嫌うようになるから、その気持はさらに強まる。日本社会は急速に高齢化しつつあるから、社会全体が「これまで通りがいい」という風潮で染まるかもしれない。昨今、“保守的”な考え方が人気があるのも、そういうことが一つの原因だろう。しかし、人類が「これまで通り」の生き方を継続すればどうなるかは、世界中の気象学者がかねてから警鐘を鳴らしているとおりなのだ。化石燃料の使用量がさらに増加して、海面上昇とともに気候変動が一層深刻化する。環境難民が増加し、海岸近くに位置する大都市は被害が深刻になる。昨年のニューヨーク市の洪水被害のようなものが常態化するのだ。“コンパクト五輪”などという甘い夢は、打ち砕かれるかもしれない。

 そういう“終末論”的な話は聞きたくないという人がいるかもしれないが、「原因を変えなければ結果は必ず来る」というのは、終末論ではなく、科学の基礎である因果関係そのものなのだ。結果が好ましくないことが事前に分かっているのであれば、できるだけ早く、その原因を是正していくことが理性ある人間のなすべきことである。それを、原因には手を触れずに「結果はありえない」と考えるのは愚者であり、理性のない感情論にすぎない。「まず経済を立て直せば強い日本が再生し、日本の地位が向上する」などというのは、戦後の貧しい時代に吉田茂や岸信介が言うのであれば理性的であるが、その孫が、環境破壊と地球温暖化のただ中で繰り返すのであれば、現実無視のノスタルジーにすぎない。私は今、安部自民党総裁が“ハーメルンの笛吹き男”の役割を演じるのではないかと、ハラハラしながら日本の動向を注視している。
 
 昨年9月の本欄で、私は北極海の氷が史上最小になった話を書いた。それ以降も、すでに触れたアメリカ東部を襲った巨大ハリケーンのように、温暖化と関連した異常気象は続いている。その中で、世界唯一の気候変動防止のための国際条約「京都議定書」が期限切れを迎えた。そして日本は、昨年末、同議定書からの実質脱退を決めてしまった。温室効果ガス排出削減のための国際的義務は、もうない。そして、「経済、経済」と連呼する総理大臣が現れたのだ。
 
 イギリスの科学誌『New Scientist』は、昨年11月17日号に「気候変動」の特集記事を掲載した。副題には、こうある--「5年前、我々は最悪の事態を危惧したが、今はそれより悪い状況に見える」。これは2007年、国連の気候変動に関する政府間パネルが予測した“最悪のシナリオ”--「2℃の平均気温上昇」が起こったときの状況について語っている。そして、気候変動が現在の勢いで進めば、それ以上の気温上昇と被害が起こる可能性が大であるという、気象学者たちの最近の評価を示している。同誌によると、そうなると考えられる理由は、5年前と比べて、次の7つの「予想以上」が現実に起こっているからである--
 
 ➀北極の海氷が予想より速く融解している
 ②極端な気象現象は予想以上にヒドイ
 ③食糧生産へのマイナスの影響は予想以上
 ④海面上昇は予想以上
 ⑤自然界からの温室効果ガスの排出は予想以上
 ⑥人間による温室効果ガスの排出も予想以上
 ⑦気温上昇による人体への被害も予想以上
 
 これらを示す具体的データについては、今回は省略する。しかし、ここで読者に知っておいてほしいのは、私たちの目の前で今起こっている気候変動は、5年前の“最悪の予測”より悪い方向に進んでいるということと、日本の政治は、それからまるで目を背けるように“経済成長一辺倒”に進み出したということだ。
 
 谷口 雅宣

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コメント

>「原発の再稼働」が進められるだろう。

前から疑問に思っておりましたので質問させていただきます。
今回、自民の原発再稼働を総裁先生は明確にご批判されておりますが、昨年2月 民主が大飯原発の再稼働の決定をした際に党をご批判なさらなかった(それにあたるご文章を掲載されなかった)のはどのようなお考えからでしょうか?

 私も原発反対です。

投稿: 鈴木雅臣 | 2013年1月13日 (日) 12時50分

合掌ありがとうございます!総裁先生、ご指導ありがとうございます!この場を借りて質問します!森の中のオフィス移転後、講習会や相愛会、白鳩会幹部研鑽会や青年会の全国大会はどうされるのですか?総裁先生、ブログでお考えを教えて下さい。今後も今まで通りにやって行くのか?ブログで書いて頂けますか?よろしくお願いします!再拝

投稿: 辻昭 | 2013年1月13日 (日) 19時19分

鈴木さん、
 お久しぶりです。

 私が民主党を支持した最大の理由は、二大政党制を育てたいからです。そのことは、昨年12月10日の本欄にも書いたし、民主党政権が誕生した後の2009年8月31日の「小閑雑感」にも、2010年7月12日にも、同年11月15日にもハッキリ書きました。
 私は、民主党が掲げるすべての政策に賛成なのではなく、特に原発の増設には反対でした。もちろん、再稼働にも反対でしたが、それをあの時点で書かなかっただけです。そうなると予想していましたから。また、そう書くことが何かをもたらすとも思いませんでした。(アキレていたという面もあります)

投稿: 谷口 | 2013年1月13日 (日) 22時39分

辻さん、
 ご心配なく。みな継続します。でも、やり方がまったく同じということには必ずしもならないと思います。

投稿: 谷口 | 2013年1月13日 (日) 22時43分

>そうなると予想していましたから。また、そう書くことが>何かをもたらすとも思いませんでした。(アキレていたと>いう面もあります)


お忙しい中ご返答いただきありがとうございます。
私は自民党の掲げる政策に色々疑問を持ちながらも、どちらかというと保守支持ですが、先生の民主支持の理由は理解しております。
 民主の掲げる制作のどれについて先生が賛成されていないのか、今後もさらに明確にして頂ければ指標になります。

 原発に関して言いますと、震災前からCO2削減を目的に原発推進を唱えていらっしゃた山本良一先生(現在は日本においては反原発の立場にいらっしゃいます)の講演を聴きながら、「生長の家の考えはどうなのだろう。」と疑問を抱いておりました。

 震災がおこる一月前、道場の勉強会で地方講師の方に「生長の家はCO2削減運動をしていますが原発には賛成ですか?」という質問に対し「谷口雅春先生は反対でらっしゃったと思います。」というご解答をいただき納得していました。

 正直「CO2原因説」に対する懐疑もまだありますし、「原発」も防衛面で重要だという声を聴くと心が揺らがないわけではありませんが、色々考慮の末、今は「原発反対」の立場におります。

 私の性格の頑固さ故、なかなか先生のお考えと一致しません、それによる度々の無礼をお詫び申し上げつつ、今後とも真理探求に向けご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します。


投稿: 鈴木雅臣 | 2013年1月13日 (日) 23時36分

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