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2012年9月

2012年9月30日 (日)

北海道の漁獲に異変

 生長の家講習会のために北海道の北見市に来たが、台風17号の影響で北見空港からの羽田便がすべて欠航してしまった。そこでこのブログを書く時間ができたことは、ありがたい。実は、本欄で2回にわたり「北極海の氷、最小になる」を書きながら、気になっていたことがある。それは、日本周辺の漁業への影響についてだ。このテーマで最初に書いたとき、私はそれを「海流の変化にともなう漁場の激変」という言葉で表現した。そして、このことが起こる可能性については、「科学者が研究する気候変動のモデルの中」の1つのシミュレーションとして言及した。つまり、「今後起こるかもしれない可能性の1つ」として書いたのである。しかし、北海道に来てみて、それが実際に起こりつつあるのではないかとの危惧を抱くにいたった。

 今日(9月30日)の『北海道新聞』のトップ記事の主見出しは「秋の漁 異変次々」である。脇見出しは、「道沿岸 サバ、カジキ、ボラにフグ」と「残暑で高水温 サケは振るわず」だった。つまり、すでに秋に入っているこの地では、本来ならばあまり獲れない暖水を好む種類のサカナが次々と獲れ、例年なら獲れるはずのサケの収量が減っているというのである。特に顕著なのはサバの豊漁で、同紙によると「前年にほぼゼロだった水揚げ量は27日現在、6,640トンに上り、1978年(2万2,730トン)以降最多となっている」という。このため、市場でさばききれないと判断した道まき網漁業協会(釧路)は、1日200トンまでという初の水揚げ制限に乗り出したそうだ。これに対し、本来獲れるはずの秋サケは27日現在の累計漁獲量が3万579トンに留まっているという。この量は前年とほぼ同じで、前年は記録的不漁だったから、問題は深刻だ。

 『朝日新聞』もこの問題を今日の「北海道版」で取り上げ、「秋サケを中心に扱う釧路市内の加工業者の中には、パートを臨時に休ませるなどの対応を始めたところもある」と報じている。また、日本海側の石狩湾でも秋サケの漁獲は不調で、「今年の漁獲量は前年同期比の約6割ほど」という石狩漁協の数字を伝えている。さらに、この不漁の影響で、9月22~23日に開かれた「石狩さけまつり」では、例年の目玉行事だった秋サケの即売会が中止に追い込まれたという。そして、気象庁の次のような観測データと予測を掲げている:
 
「気象庁によると、道周辺海域の9月中旬の海面水温は22.5度と平年よりも4.6度高く、過去最高を記録。水温が高い状態は8月下旬から続き、とくに釧路沖では平年より5~7度高い海域も出ている。10月以降は、次第に平年並みに下がっていく見通しという」。

 問題は、この異常高温の原因が何であるかということだが、『朝日』は29日の第2社会面に載せた記事で「太平洋高気圧の勢力が9月以降も日本の東海上で維持。海に熱が蓄積され、海水が風でかき回されにくくなった」ことが原因だとの気象庁の分析を紹介している。しかし、「その太平洋高気圧の勢力が衰えない原因は?」ということになると、たぶん不明なのだろう。気象現象は非常に複雑で、第一線の科学者はスーパーコンピューターを駆使していくつもの気象モデルを走らせるのだが、それでも予測や原因究明にいたっていない。私のような素人は、単なる“直感的”な感想を述べるしかないが、「北極海の水温が上がれば、北海道周辺は暖かくなる」という因果関係に、何も不自然なところはないと思うのだ。
 
 谷口 雅宣
 

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2012年9月24日 (月)

北極海の氷、最小になる (2)

 9月15日の本欄に表題のことを書いたが、21日の『日本経済新聞』には同16日の衛星データを分析した結果、この日が1978年に観測を始めて以来の海氷の最小記録だったと報じた。アメリカの国家雪氷データーセンターとNASA(航空宇宙局)の共同発表によるもので、この最小海氷面積は341万平方キロメートル。8月末の観測データからさらに61万平方キロメートル減少したことになる。ニューヨークタイムズの国際版である『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙も、21日付の紙面で同じことを伝えた。海氷の最小を記録した16日からデータの発表が数日遅れたのは、17日以降、北極海が再び氷結し始めたことを確認するためだったという。

 北極海の氷の融解が何をもたらすかについては前回書いたが、これと併行して起こったグリーンランドの氷床の融解について、少し書こう。両者はともに温暖化によって起こるが、その影響には大きな違いが1つある。それは、前者は温暖化の促進効果があるものの、海面上昇には至らないのに対し、氷床の融解は海面上昇の直接原因となる点だ。なぜなら、海氷は海水が凍結したものであるのに対し、氷床は長年にわたり陸上に凍結し、固定していた氷であるからだ。氷の入ったコップのことを考えてみるといい。海氷は、もともとコップの中にあった水を凍らしたものに該当するから、それが解けてもコップ内の水の総量は変わらない。しかし氷床は、コップ内になかった新しい氷をコップに入れることに等しい。それが解ければ当然、コップの水の総量は増える。これが海面上昇である。
 
Greenlandicemelt  異常に暑い今年の夏は、実はグリーンランドの氷床にも異変があった。7月26日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』がそれを伝えている。グリーンランドとは、大西洋の北限から北極圏に位置する世界最大の島で、日本の約6倍の広さがある。その巨大な島の上には1年中雪が降っていて、それが積もりに積もって平均で1690メートルもの氷の層(氷床)が島の5分の4を覆っている。氷床の厚みは最大で3350メートルもあるというのだから、富士山大の氷の山が聳えていると考えていい。通常、ここの氷床は夏季に約半分の表面が解ける。ところが今年の7月8日から12日のわずか5日間で、氷床の表面の融解面積は40%から一気に97%にまで拡大したというのだ。科学者によると、このような大規模な融解は150年に1度の割合で起こっているらしいが、それでも大きな変化であることに変わりはない。
 
Arcticdivide  さて、前回の本欄では、夏場に北極の海氷が解けることで、短期的には経済的利益が生じることを挙げた。が、それが中期的には資源争奪や“領土問題”に発展する可能性についても触れた。20日付の『ヘラルド・トリビューン』紙は、最近の中国の動きに焦点を当てて、そのことを書いている。北極圏に領土をもつ国は、ロシア、アメリカ、カナダ、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、アイスランド、スウェーデンの8カ国だ。この8カ国は「北極海会議(Arctic Council)」という緩い国家グループを構成して、北極海をめぐる諸問題を検討してきた。このグループにはこれら正式メンバーのほかに「オブザーバー」という地位があり、オブザーバーには「常任」と「非常任」の別がある。現在の常任オブザーバーは、フランス、ドイツ、オランダ、ポーランド、スペイン、イギリスの6カ国で、非常任オブザーバーとして中国、EU、イタリア、日本、韓国が席を連ねている。この中国が今年から、1クラス上の常任オブザーバー入りを目指して熱心に外交攻勢をかけているというのだ。

 中国は今年8月、まず新たにできた“北極海航路”経由して初めて船をヨーロッパへ派遣した。そして、自ら“近北極国”と称して「北極領域はすべての人類のための富の遺産である」という論理を使ってロビー活動を展開した。同国の大臣級の高官はデンマーク、スウェーデン、アイスランドを訪れて、通商関係の改善を提案し、その下のレベルの高官たちもグリーンランドを訪れ、同国の会社がすでに投資している鉱山開発のために中国人技師の派遣を提案した。グリーンランドはデンマーク領ではあるが、大幅な自治が許されている人口の少ない国で、近年の氷床の融解により稀少な鉱物資源の存在が明らかになってきた。とりわけ注目されるのは、ハイテク機器に必要な「レアアース」と呼ばれる鉱物資源だ。これを独占的に開発する権利を中国に与えないために、EUは6月に副大統領を派遣して多額の開発援助を約束した。グリーンランドは地政学的にも、重要な位置にある。北アメリカ大陸の北に隣接するからカナダやアメリカとも近く、アメリカの空軍基地がある。イギリスや北欧とも近い。過去18カ月の間にアメリカのクリントン国務長官も、韓国の李明博(リ・ミョンバク)大統領もここを訪れた。
 
 北極海会議の常任オブザーバーの地位は、もちろん中国だけが狙っているのではない。日本も韓国もEUも“1クラス上”への昇格を希望している。なぜなら、このクラスに昇格すれば、北極海会議での投票権はないが、意見の表明は許されるからだ。この会議での議案は、これまで北極圏での動物の生息数の調査などが主だったが、最近では将来にわたる港の使用料や石油漏出事故の補償交渉など、経済的な影響を伴う事案が討議されるようになっている。中国も日本も韓国も、今後、資源供給地としても、貿易ルートとしても重要になる北極海をめぐり、こういう経済交渉から排除されないように“先手を打つ”ことに力を注ぎ出したのである。環境、平和、資源の問題が、ここでも密接に絡み合っていることが分かるだろう。環境問題の深刻化は資源問題を生み、平和(安全保障)の問題を複雑化させるのである。

 谷口 雅宣

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2012年9月22日 (土)

人生が“終わる”ことの意味

 今日は午前10時から、東京・原宿の生長の家本部会館ホールで「布教功労物故者追悼秋季慰霊祭」が執り行われた。私は斎主の立場で奏上の詞を述べ、祭の最後に、概略以下のような挨拶をした:

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 皆さん本日は、秋季慰霊祭にお集り頂きましてありがとうございます。ご存じのように、この慰霊祭は、生長の家の幹部として私たちの光明化運動に尽力された方々のうち、ここ1年から半年のあいだに霊界に旅立たれた人をお招きして、運動の大先輩として、また同志として感謝の誠を捧げるためのお祭であります。今日招霊させていただいた御霊さまは合計で186柱であります。その中には、私が存じ上げている方の御名前もいくつかあり、感慨深く聖経を読ませていただいたのであります。

 昨年3月の東日本大震災から早くも1年半たちましたが、あの大震災と原発事故の中にあっても、日本人は大規模な略奪や暴動など起さず、秩序を重んじ、忍耐と相互協力の精神を守りとおしたので、世界の人々から讃嘆の声が上がりました。これについてはお隣の中国も例外ではなく、香港では「雨ニモ負ケズ」という宮沢賢治の詩に曲をつけて、日本人を讃える歌を大勢の中国人が歌ってくれたのを見て、私は感動したことを覚えています。しかし、それから1年半たって、メディアが伝える最近の中国人の様子は、暴力的な反日デモを行なって日本大使館や日本企業に対して憎しみをむき出して破壊活動をしています。この人々が、1年半前と同じ中国人だとは信じられないほどです。

 しかし、現象というものはこのように激しく移り変わるものです。ですから、表面の変化に心を捕らえられていては、変化のたびごとに「善だ、悪だ」といって心を動揺させ、相手に感謝したり、はたまた憎んだりで、自ら定見なく、信じられる人もいない不安で、寂しい人生を送らなくてはいけないでしょう。しかし、これに反して、そのような現象の奥にある“動かない価値”を見出している人は、表面の変化に心動ぜず、悪現象を前にしても相手の“神の子”の実相が現れる時を信じて待つことができます。生長の家では、「世界の実相は善一元なり」という大信仰を基本としていますから、その信仰をもつ皆様方はきっと心穏やかな生活を送られていると思います。

 今、私は国と国の関係のことを申し上げましたが、同じことは人と人との関係についても言えます。現象的な人間関係は、常に良好で、平和で、与え合いの関係であるとは見えないかもしれません。意見の対立があり、利害が一致しなかったり、時には激しい感情の衝突があることもあります。しかし、このような移り変わる現象の奥には、“変わらない価値”があるのです。それは、私たちがこの世に於いてある人との関係を持てるということ自体が、価値があり、掛け替えがなく有難いことなのです。その関係が、たとえ“敵と味方”の関係のように見えたとしても、です。それを教えてくれる1つの重要な機会が人の「死」というものです。

 巷では普通、死というものを“悪い”と考えるのですが、宗教の世界では「死はない」と教えています。もちろん、「肉体が滅びる」という意味での“現象の死”はありますが、それは人間の本当の終りではないと信ずるのであります。先ほど皆さんと一緒に読誦した聖経『甘露の法雨』にも、そのことが各所で説かれているのに気づかれたと思います。例えば「物質」の項の最後には、こうあります:
 
 真の“健康”は物質に非ず、肉体に非ず、
 真の“生命”は物質に非ず、肉体に非ず、
 真の“汝そのもの”は物質に非ず、肉体に非ず。
 物質の奥に、
 肉体の奥に、
 霊妙きわまりなく完全なる存在あり。
 これこそ神に造られたる儘の完全なる“汝そのもの”にして、
 常住健康永遠不滅なる“生命”なり。
 
 先ほど合唱した聖歌『永遠に』にも、「人はどこまでも生き続ける」という生命不滅の真理が説かれていました。肉体の死が本当の死ではないということが分かれば、死は一つの「教化の機会」であるということも理解できるでしょう。

 生長の家では、私たちの一生をよく演劇における「舞台の一幕」に喩えます。この喩えのポイントは、①舞台は必ず終わるということと、②演劇に“一人芝居”はないといことです。演劇での役柄は、役者の“本当の姿”ではないけれども、その役柄になりきって真剣に演じることで、役者は人間というものへの理解を深め、人間としての幅や深さを開発し、また体験することができます。つまり、人間の幅が拡がるのです。しかし、その「舞台の一幕」は「終わる」ということが重要です。これが「終わる」ことによって、初めて役者は自分の演技を振り返ることができる。うまく演じられたことが実感でき、また不足だったところは反省し、向上させることができます。また、演劇は役者が一人ではできません。人生には「一人芝居」というのはあり得ないのです。他の役者の存在が必要です。別の言い方をすれば、自分の役柄は、他の役者の役柄と密接に関係して決まるのです。このことをごく簡単な例で言えば、“正義の味方”を演じるためには“悪役”が必要だということです。もちろん、実人生においては、誰かが一方的に完全な“正義の味方”で、別の誰かが完全な“悪役”だというような単純なケースは少ないでしょう。私たちはそれぞれ、ある一面では正しくても、別の一面では間違っているということがほとんどです。

 しかし、そのことがはっきり理解されるのは、自ら役柄に没入し、感情を込めて演技をしている時よりも、舞台の一幕が終わって、反省や回顧ができる時です。その時、自分がこの“善の役割”を演じることができたのは、彼または彼女が“悪役”に回ってくれたからだと気がつくのです。また、自分の失敗は、あの人の助言や援助によって被害を最小限に抑えられた、などということもしみじみと感じられるでしょう。そうすると、本当の意味での“悪”などというものは、人生において存在しないことに気がつきます。私たちは皆、より多くの善を現そうとしている練習中の役者である。一見“悪役”と見える人も、実は自分を“善導”する役柄を自ら買って出てくれた人である、と感謝の思いとともに振り返ることができるでしょう。生長の家では、こういう自覚を“観世音菩薩の教え”と呼ぶことがあります。
 
 肉体の「死」は、このような観世音菩薩の教えが説かれるよい機会となります。もちろん最愛の人が他界した場合などは悲しみに暮れる時期はありましょう。しかし、皆さまにはぜひ悲しみを克服され、「本当の人間は神の子であり、不死である」という信仰を高く掲げ、それをまた人々に伝えていただきたいのです。
 
 このたび、ブログに発表した「観世音菩薩讃歌」という自由詩が経本の形になりました。この中には、今申し上げた観世音の働きについて詳しく書いてありますから、皆さまにはそれを日常的に読むことで、これからもさらに希望をもって実相顕現の活動に邁進していただきたいと心から念願するしだいであります。それが、先に旅立たれた御霊さまの遺志を継ぐことであり、何よりのご恩返しだと思うのであります。秋季慰霊祭に当たって、所感を述べさせていただきました。ご清聴、ありがとうございました。
 
 谷口 雅宣

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2012年9月15日 (土)

北極海の氷、最小になる

Arcticsea082612  9月1日号のイギリスの科学誌『New Scientist』は、「特別記事」として北極海の氷の融解を取り上げ、「地球は今、ここ300万年中に最大の変化を迎えている」との見出しを掲げた。そして、論説記事の最後でこう述べている--「北極海の氷が解けることは、かなり前から予測されていた。そして今、それが徹底して起こることにより、人類が起こす気候変動で、これまで何が起こるか予測できなかったいろいろな事象が、今後より明確になってくるだろう。その多くは、関係者の目を見張るようなものとなる。短期的な利益を除外すれば、我々の生活を豊かにするようなものはあまりない。地球温暖化時代にようこそ!」

 このニュースは、8月26日のNASA(アメリカ航空宇宙局)のウェブサイトで発表され、それを『ニューヨークタイムズ』などが8月末に一斉に報じた。日本でも『朝日新聞』が8月21日と28日に、『日本経済新聞』は同月22日にJAXA(宇宙航空研究開発機構)の観測結果として伝えた。しかし、いずれも「300万年中最大の変化」などという大事件としてはとらえず、この変化の重要性を解説する記事も掲載していない。『日経』にいたっては、中国の第5次北極探検隊の隊長から取材して、夏場に北極海を通過する“新航路”が出現することに注目し、「予想を上回る温暖化により航路が利用可能になるのは、当初の想定より格段に早まるとの見方が強まっている」などと8月10日の紙面に書いた。

 それに比べれば、国としては地球温暖化の抑制に熱心でないアメリカだが、この事件の重要性をきちんと書いている新聞があるのは、ありがたい。以下の文章は、8月29日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙の記事の最初の部分である--
 
「北極海の氷の量が、記録をとり始めて以来最小になった。これは、北極地域の異常な温暖化を示すもので、さらに大きな気候変動の“前触れ”になると思われる。
 海氷の面積の変化をモニターしている気象衛星は、この週末の間、海氷が410万平方キロメートルにまで縮小していることを観測した。この広さは、北極海全体の30%以下である。これまでの最小記録は、面積的には2007年に観測されたが、今回の数値はそれをわずかに下回る。しかし、海氷の縮小は9月に入っても継続するため、今年の縮小記録は2007年を大幅に下回る見通しだ。
 アメリカのコロラド州ボルダー市にある国家雪氷データーセンター(National Snow and Ice Data Center)は27日、NASAと共同でこの事実を発表した。夏季の海氷の量は、1970年代後期に記録をとり始めて以来、40%以上縮小しており、この主な原因は人間による温室効果ガスの排出だと、ほとんどの科学者は信じている。」
 
 私はこの北極海の氷の変化についてかなり前から注目していて、本欄の前ブログ『小閑雑感』では2005年9月30日に「縮みゆく北極の氷」と題し、2008年9月19日には「北極の海氷は残った」と題して取り上げた。前者に書いたのは、「日本列島の約3.5倍の広さの氷が、ここ数年で消失した」ことであり、さらにその影響について「年間にわたって氷結している領域が溶けると、これまで氷によって太陽の光が反射されていた部分が海水となって熱を吸収することになるため、再び凍結することが難しくなる」と書いた。また、後者では2007年の減少記録に触れ、「昨年の9月に北極の海氷は過去最小になっただけでなく、この年の氷の減少率は、ここ数十年間の平均を大幅に超えていた」と伝えた。そして、その影響は極地の温暖化の加速に加え、「これまで氷で閉ざされていた極地への海上ルートができるから、資源開発が容易となり、それに伴って極地は誰のものかという“領土問題”が起こる」ことだと述べた。

 北極の海氷が夏場になくなることの“短期的利益”は容易にわかる。日本とヨーロッパを結ぶ海上航路は、相当短縮する。北極圏の資源開発が可能となり、海産資源や化石燃料の収量が一時的に増えるだろう。しかし、これらの直接的な“利益”を得る国は、ロシア、カナダ、アメリカ、デンマーク、ノルウェーなど北極圏に領土をもつごく一部の国々である。これに対して予測が難しい“被害”を受ける国の数は圧倒的に多い。科学者が研究する気候変動のモデルの中には、熱波や寒波などの極端な気象の多発、海流の変化にともなう漁場の激変、温帯の北上とそれに伴う寒帯の生物の絶滅など、あまりいい話はない。ラットガース大学の気象学者、ジェニファー・フランシス博士(Jennifer A. Francis)などは、北極の海氷の減少によってすでに気候変動が起こっているとの研究結果を発表している。日本やアメリカ、ヨーロッパを含む北半球の中緯度地域は、近年、極端な気象の変化に見舞われているが、これは北極海の氷の大量融解で大気の流れが変化した結果だというのである。
 
 本欄の読者なら、今夏アメリカを襲った熱波によって、トウモロコシなどの穀物価格がかつてない上昇をしていることをご存じだろう。世界の食糧生産地で、自国内の消費を超えて大量の穀物を輸出する余力のある国は、実質的にアメリカとブラジルだけである。そして、世界第一の穀物輸出国はアメリカだ。ということは、アメリカでの穀物生産量の減少は、ただちに世界の穀物価格の上昇につながる。2012年の夏は、記録に残るかぎり最も暑い年となり、北アメリカは1956年以来の深刻な旱魃だった。8月13日号の『タイム』誌によると、アメリカ農務省はこの時点でのトウモロコシの生産のうち、わずか24%が「良(good)」ないしは「優(excellent)」であり、48%は「劣(poor)」または「貧(very poor)」の出来ばえだと発表した。「良」と「優」が62%を占めた前年の収穫との違いは歴然としている。そして、同省による今年のアメリカのトウモロコシ生産量の予測は、前年比12%減だった。その後、ブラジルでの穀物生産が好調であることから、価格上昇は一段落しているものの、在庫量が慢性的に少ないため、世界の穀物価格は予断を許さない状況である。

 穀物価格の上昇は、日本などの先進国の人間にとってはさほど深刻な影響はない。収入全体に対する食費の割合が小さいからだ。しかし、地球上の大多数を占める途上国の人々の中には、その割合が3割から5割に達する場合も少なくなく、生活全体に深刻な影響を及ぼすのである。昨今、アラブ諸国、東南アジア、ラテン・アメリカの一部で人々が荒れているのは、この食糧不安の問題が深く関係していると考えねばならない。だから、世界の平和を考える場合、今日では防衛力や外交の分野だけに注目しているのでは足りないのである。

 谷口 雅宣
 

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