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2012年9月24日 (月)

北極海の氷、最小になる (2)

 9月15日の本欄に表題のことを書いたが、21日の『日本経済新聞』には同16日の衛星データを分析した結果、この日が1978年に観測を始めて以来の海氷の最小記録だったと報じた。アメリカの国家雪氷データーセンターとNASA(航空宇宙局)の共同発表によるもので、この最小海氷面積は341万平方キロメートル。8月末の観測データからさらに61万平方キロメートル減少したことになる。ニューヨークタイムズの国際版である『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙も、21日付の紙面で同じことを伝えた。海氷の最小を記録した16日からデータの発表が数日遅れたのは、17日以降、北極海が再び氷結し始めたことを確認するためだったという。

 北極海の氷の融解が何をもたらすかについては前回書いたが、これと併行して起こったグリーンランドの氷床の融解について、少し書こう。両者はともに温暖化によって起こるが、その影響には大きな違いが1つある。それは、前者は温暖化の促進効果があるものの、海面上昇には至らないのに対し、氷床の融解は海面上昇の直接原因となる点だ。なぜなら、海氷は海水が凍結したものであるのに対し、氷床は長年にわたり陸上に凍結し、固定していた氷であるからだ。氷の入ったコップのことを考えてみるといい。海氷は、もともとコップの中にあった水を凍らしたものに該当するから、それが解けてもコップ内の水の総量は変わらない。しかし氷床は、コップ内になかった新しい氷をコップに入れることに等しい。それが解ければ当然、コップの水の総量は増える。これが海面上昇である。
 
Greenlandicemelt  異常に暑い今年の夏は、実はグリーンランドの氷床にも異変があった。7月26日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』がそれを伝えている。グリーンランドとは、大西洋の北限から北極圏に位置する世界最大の島で、日本の約6倍の広さがある。その巨大な島の上には1年中雪が降っていて、それが積もりに積もって平均で1690メートルもの氷の層(氷床)が島の5分の4を覆っている。氷床の厚みは最大で3350メートルもあるというのだから、富士山大の氷の山が聳えていると考えていい。通常、ここの氷床は夏季に約半分の表面が解ける。ところが今年の7月8日から12日のわずか5日間で、氷床の表面の融解面積は40%から一気に97%にまで拡大したというのだ。科学者によると、このような大規模な融解は150年に1度の割合で起こっているらしいが、それでも大きな変化であることに変わりはない。
 
Arcticdivide  さて、前回の本欄では、夏場に北極の海氷が解けることで、短期的には経済的利益が生じることを挙げた。が、それが中期的には資源争奪や“領土問題”に発展する可能性についても触れた。20日付の『ヘラルド・トリビューン』紙は、最近の中国の動きに焦点を当てて、そのことを書いている。北極圏に領土をもつ国は、ロシア、アメリカ、カナダ、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、アイスランド、スウェーデンの8カ国だ。この8カ国は「北極海会議(Arctic Council)」という緩い国家グループを構成して、北極海をめぐる諸問題を検討してきた。このグループにはこれら正式メンバーのほかに「オブザーバー」という地位があり、オブザーバーには「常任」と「非常任」の別がある。現在の常任オブザーバーは、フランス、ドイツ、オランダ、ポーランド、スペイン、イギリスの6カ国で、非常任オブザーバーとして中国、EU、イタリア、日本、韓国が席を連ねている。この中国が今年から、1クラス上の常任オブザーバー入りを目指して熱心に外交攻勢をかけているというのだ。

 中国は今年8月、まず新たにできた“北極海航路”経由して初めて船をヨーロッパへ派遣した。そして、自ら“近北極国”と称して「北極領域はすべての人類のための富の遺産である」という論理を使ってロビー活動を展開した。同国の大臣級の高官はデンマーク、スウェーデン、アイスランドを訪れて、通商関係の改善を提案し、その下のレベルの高官たちもグリーンランドを訪れ、同国の会社がすでに投資している鉱山開発のために中国人技師の派遣を提案した。グリーンランドはデンマーク領ではあるが、大幅な自治が許されている人口の少ない国で、近年の氷床の融解により稀少な鉱物資源の存在が明らかになってきた。とりわけ注目されるのは、ハイテク機器に必要な「レアアース」と呼ばれる鉱物資源だ。これを独占的に開発する権利を中国に与えないために、EUは6月に副大統領を派遣して多額の開発援助を約束した。グリーンランドは地政学的にも、重要な位置にある。北アメリカ大陸の北に隣接するからカナダやアメリカとも近く、アメリカの空軍基地がある。イギリスや北欧とも近い。過去18カ月の間にアメリカのクリントン国務長官も、韓国の李明博(リ・ミョンバク)大統領もここを訪れた。
 
 北極海会議の常任オブザーバーの地位は、もちろん中国だけが狙っているのではない。日本も韓国もEUも“1クラス上”への昇格を希望している。なぜなら、このクラスに昇格すれば、北極海会議での投票権はないが、意見の表明は許されるからだ。この会議での議案は、これまで北極圏での動物の生息数の調査などが主だったが、最近では将来にわたる港の使用料や石油漏出事故の補償交渉など、経済的な影響を伴う事案が討議されるようになっている。中国も日本も韓国も、今後、資源供給地としても、貿易ルートとしても重要になる北極海をめぐり、こういう経済交渉から排除されないように“先手を打つ”ことに力を注ぎ出したのである。環境、平和、資源の問題が、ここでも密接に絡み合っていることが分かるだろう。環境問題の深刻化は資源問題を生み、平和(安全保障)の問題を複雑化させるのである。

 谷口 雅宣

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