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2012年7月30日 (月)

聖経について (16)

 過去数回にわたり、本欄では主題から少しズレて「生長の家叢書」の製作と発行の問題を考えた。同叢書の奥付が普通でない理由を知りたかったからだ。この叢書を問題にしたのは、それが今日『聖経 甘露の法雨』と呼ばれている谷口雅春先生の自由詩を、先祖供養など信徒の日常的な用途に供するために、『生命の實相』から切り離して手軽に利用できるようにした最初のものだったからだ。つまり、今日の聖経の“原型”とも言える形態が生長の家叢書の第9篇『生長の家の歌』であり、このパンフレットの先頭を飾ったのが「聖経 甘露の法雨」だった。

 この検討の結果わかってきたことを、編年体で表現してみる--
  
 自由詩「甘露の法雨」は、初版革表紙『生命の實相』が発行される直前の昭和6年の秋に、雅春先生ご自身によって生長の家の「聖経」とすることが決定され、この著作物の中で初めて「聖経」という肩書きを付された。「甘露の法雨」はその後、昭和7年12月ごろに発行された生長の家叢書の第9篇『生長の家の歌』の中に収録され、信徒の間で盛んに利用されるようになった。そして、現在見られるような折本型の経本として初めて発行されたのが昭和10年4月で、版元は生長の家京都支部であり、『聖経』という表題だった。この“最初の聖経”と今日の折本型『聖経 甘露の法雨』の編集内容は、ほぼ同一である。このようにして、自由詩「甘露の法雨」は雅春先生の「聖経」としての認定から3年3カ月という長期間を要して、1冊の折本型経本となったのだった。

 このことを指して、「甘露の法雨は聖経として成立した」と表現しても間違いではないだろう。しかし、本欄の第12回で述べたように、詩文の異同を子細に検討してみると、『生長の家』誌に発表されてから5年がたとうとしている昭和10年の時点でも、詩文の変化はあったのである。またその時、私は「実はこの後にも、やや大きな変更が行われるのである」と書いた。「やや大きな」というのは、必ずしも「重大な」という意味ではない。詩文の意味は変わらなくとも、第12回で紹介したように、「押える」を「圧える」に変えるような使用漢字の変更、そして、送り仮名の使い方や句読点の打ち方にも、一部だが変更が行われている。これらいくつもの変更をこの場で網羅的に示すことは、煩雑すぎるのでしない。また、現行の「聖経 甘露の法雨」の詩文がいつ決定したかを調べることも、ここではしない。「甘露の法雨」の中で説かれている真理は、そんなことによって揺らぐものではないからである。ただ、どういう種類の変更が行われたかを示すために、以下に『生長の家』誌発表時のものと現行のものとの異同例を若干記そう--

○「迷い」から「迷」への変更……『生長の家』誌発表の詩文では、前者が多く使われていたのを、後に原則として後者に統一。10箇所。
○「病い」から「病」への変更……上記と同じ。11箇所。
○「第六官」から「第六感」……“神”の項の終りから2行目。(p.12)
○「実在にあらざる者」→「実在にあらざる物」……“霊”の項の中間。(p.16)
○「実在のほかに非ざるなり」→「実在のほかに在らざるなり」……“霊”の項の後半。(p.17)
○「真理のほかに非ざるなり」→「真理のほかに在らざるなり」……“霊”の項の後半。(p.17)
○「光のほかに非ざるなり」→「光のほかに在らざるなり」……“霊”の項の後半。(p.18)
○「現界の生命ことごとく光を仰ぎ」→「現世の生命ことごとく光を仰ぎ」……“霊”の項の終りから3行目。(p.20)
○「非実在なり、仮妄なり」→「非実在なり、虚妄なり」……“罪”の項の後半。(p.55)
○「死を超えて永遠に生きん」→「死を越えて永遠に生きん」……“罪”の項の最終行。(p.60)
○「『真性の人間』に非ず」→「『真性の人間』にあらず」……“人間”の項の前半。(p.71)
○「最初の夢無ければ」→「最初の夢なければ」……“人間”の項の半ば。(p.77)

 このような変更例を見ていくと、「甘露の法雨」という自由詩は、結構長い時間をかけて現在の「聖経 甘露の法雨」の詩文に定着していったことが分かる。このことはまた、宗教上の真理を言葉に表現することが如何に難しいかを示しており、いわゆる“オリジナル”の表現が必ずしも“完成”ではないことを有力に物語っている。
 
 谷口 雅宣

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