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2011年12月15日 (木)

薪ストーブのこと

Breakfast121511  休日を利用して、例のごとく北杜市大泉町の山荘に来ている。フェイスブックの私のページに、今日の朝食を薪ストーブの上で作っている写真を載せたが、ここにも掲載しておこう。何の変哲もない目玉焼きとトーストが写っているが、妻はこのほか昨夜からストーブの上でジャガイモ、タマネギ、ニンジン、ゴボウ、レンコンをグツグツ煮て、野菜のスープ煮を作ってくれた。また、写真に写っているヤカンの湯で、私はコーヒーを入れた。だから結局、今日の朝食はかなり“炭素ゼロ”に近いエネルギーでいただいたことになる。もちろん、完全な“炭素ゼロ”ではない。なぜなら、これらの食材の成長過程、収穫から自宅への運搬過程、そして私たちが東京から山荘まで運ぶ過程でもCO2は出ているからだ。
 
 前回の本欄でCOP17の結果を嘆くようにして書いたら、“炭素ゼロ”運動に賛同してくださる読者から、「この冬は雪が降らない限り凍死しない程度に節電を心掛けようと思います」とのコメントをいただいた。そこまでしていただくのは何か気の毒な感じがしたので、私は薪ストーブの使用を勧めてみた。それを読んだ別の読者からもコメントをいただき、“薪ストーブ談義”にしばし花が咲いた。そこで話が出たのは、「日本の家庭がみな薪ストーブを使うことになったら、国内で薪が充分確保できるか」ということだった。私はこの疑問に対して、薪の値段が高いということを指摘して、そういう事態は現実には来ないという意味の答えをしてから、「しかし、山を持っていたり、安価な薪を入手できる人にとっては、この選択肢は魅力的です。また、中・長期的には、多くの人々が薪を使うようになれば、林業が復活し、コストも安くなるでしょう」などと書いた。この発言は、前半はともかく、後半は間違いだったので、この場を借りて訂正させていただきたい。
 
 まず、前半の発言に関連して、私がどうやって薪を都合しているかを話そう。多くの読者はご存じと思うが、私が住まわせてもらっている東京の住居は“お山”と呼ばれている。つまり、文字通り小高い丘の上にあり、樹木が多く茂っている。この樹木の中には渋谷区の「保存樹木」に指定されているものが何本もある。そんな大木でなくても、実生から育った若い木や、ツツジなどの灌木も多くある。こういう樹木は定期的に剪定する必要があり、また台風などで枝が折れたり、倒れることもある。それらを処分せずに、適当な長さに切りそろえて縁の下に置いて乾燥させておけば、1年後にはよい薪になるのである。これは大変ありがたいことで、冬場にはそういう薪を車に積んで山荘へ運んでいる。

 しかし、こういう個人レベルのことと、それを日本人が全員でやったらどうなるかということは、別に考えなければならなかった。それをせずに、「多くの人々が薪を使うようになれば林業が復活し、コストも安くなる」というのは完全な間違いではないが、不完全な答えだったと思う。つまり、もっと薪が使われるようになれば林業が復活するという予測は正しくても、すべての家庭が薪ストーブを導入した場合、日本の森林は薪の需要にはとても応えられない。“炭素ゼロ”のためには、他の自然エネルギーを併用することがどうしても必要になるのである。

 “薪暮らしの伝道者”を自任する岩手県の森林官、深澤光氏は、次のような数字を示してこのことを説明している--
 
「日本人1人あたりの森林面積は約0.2haです。これは国立公園などの自然公園や保安林、人が近づくことができない奥地や崖のような急峻な山岳林など、木材生産に使えない森林も含んでいます。したがって、木材を利用できる森林は、実質的にはその半分の1人あたり0.1ha(1000㎡=300坪)くらいにすぎません。この森林資源を持続的に利用しようとすれば、森林の幹材の年間成長量は1haあたり3~5tですから、1年間に1人あたりの使える木材は国民の平均値でいえば、多く見積もっても300㎏くらいでしょう。その木材エネルギー量を灯油に換算すれば100l程度、灯油ポリタンクで5~6個分ですから、どれほど森林の持つエネルギー供給力がつつましいものかおわかりいただけるでしょう」。(深澤光著『薪暮らしの愉しみ』、pp.162-163)

 これらの数字が正しければ、森林を含むバイオマス・エネルギーだけで現在の日本のエネルギー総需要をまかなうことは不可能なことはもちろん、家庭内のエネルギー需要にも応えられない。太陽光を初め、風力、地熱、潮力、波力など、それぞれの地域の特徴に合った再生可能の自然エネルギーを動員して需要に応え、応えきれない分は、エネルギー効率の向上(省エネ)と節約で補うほかはないだろう。

 ところで、ペレット・ストーブの話が出ているが、これも個人の使用程度なら問題は少ないが、大量に長期にわたって使用する場合は、熱効率の悪いものはかえって森林破壊につながる恐れがある。なぜなら、木質ペレットは木を粉末にして固めたものだから、生産時にエネルギーを使っている。木質チップも同様である。だから同氏は、これらを「重工業などの産業用、大規模発電用の燃料として使うことは間違っている。たとえば、石炭火力発電所の燃料として数%の木質チップを、ましてやエネルギーをかけて生産する木質ペレット(粒塊)を混焼することなど、愚かなことと言わざるをえない」と言っている。傾聴に値する意見だと思う。
 
 谷口 雅宣

【参考文献】
○深澤光著『薪暮らしの愉しみ』(創森社、2009年)

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コメント

私が初めて木質ペレットのことを知ったのは10年前でした。人工林の値段が安くなって、林業では生計が成り立たなくなりました。それで放置される山が増えました。
色々理由はありますが、元気な山が地球環境を良くする大きな鍵をにぎっていると思っています。そんな時にペレットストーブを知り、「これだ!」と思いました。山に放置されたままの廃材、間伐材の有効利用になります。

今は確かに状況が変わってきています。エネルギーの一つとして木材を使うなかで、木の取り合いになっているとか。これで、まさかありえないと思いますが、大量の森林伐採なんてなったら、本末転倒です。地球の人口が増えましたから、木質エネルギーだけでまかなうのは、とうてい無理でしょう。

ペレット生産時のエネルギーがどれくらいかかるのかは調べたことはありませんでした。私は、薪ストーブ、ペレットストーブ、を勧めています。勧める者として調べなければなりませんね。
どちらにしても、林業の活性化、使い道の一つとしてペレットストーブはいいと思います。石油はじきに無くなりますし。都会では薪は燃やせないでしょうし(煙がでます)、ペレットストーブなら、煙が出なくて石油ストーブと同じように使えますから。ただし、雅宣先生の話の通り、家庭に限ったほうがいい気がします。ここら辺も含め、データー集めてみます。
ありがとうございます。

投稿: 水野奈美 | 2011年12月16日 (金) 15時39分

合掌ありがとうございます。私が変なコメントをした事で谷口家の薪ストーブが登場するはめになったようですね。実家からは雪の便りが届きました。今夜から明朝にかけて1メートルぐらい積もるかもしれないという事です。薪ストーブの写真を見て小学校で使っていたストーブを思い出し、懐かしく思いました。薪ではなく石炭ですが。煮物をしたり、餅を焼いたりした覚えがあります。岐阜県教化部の来年の行事予定が発表されました。11月に総裁先生ご夫妻による大講習会があるという事で今から楽しみです。その前に3月に愛知県で大講習会があるのでぜひ行きたいと思います。再拝

投稿: 横山啓子 | 2011年12月16日 (金) 21時14分

合掌有り難うございます。
環境問題については、様々な角度から考え、学んでいく必要があるのだな、と感じました。


以前、民放の朝の情報番組で「電気もガスも!藻で自給自足の街づくり」として、うまくエネルギーを循環させ得るシステムを説明していたのを思い出しました。その藻とは、「ボトリオコッカス」「オーランチオキトリウム」といって、前者は光合成はせず有機物(ex,=し尿)を食べて増える従属栄養生物で、後者は光合成をするそうです。どちらも油をつくることができ、もし日本で必要な油を全部賄おうとすると、20万ヘクタールくらいの土地があればできるできる可能性があり、日本が「産油国」になるのもそう遠い未来の話ではないとか。 宮城県出身の筑波大学生命環境科学研究科 渡邉 信 教授が、被災地にでっかい藻類バイオマスファームを作りたいと考えている、と話されていました。
そのシステムが炭素0につながるか?の話は出ていませんでしたが、もし実現したら凄い話だと思いました。

投稿: 前川 淳子 | 2011年12月19日 (月) 02時30分

合掌有り難うございます。
先日載せて頂いた自身のコメントのなかで「ボトリオコッカス」と「オーランチオキトリウム」について説明させていただきましたが、一部訂正いたします。
光合成をしないのは「オーランチオキトリウム」のほうでした。すみませんでした。

これらの藻から油をつくる技術は世界でも注目されており、アメリカではすでにその油でジェット機を飛ばす実験も済んでいるそうです。

でも、どんなに優れた技術であっても、それを自然と調和したかたちで扱うようにしなければ何にもならないだろうなと思います。

日本が世界に先駆けてその手本となるようなやり方で開発を進めてくれたら‥て願うばかりです。

投稿: 前川 淳子 | 2011年12月19日 (月) 21時11分

総裁先生、ありがとうございます。

久しぶりに先生のブログを読ませていただきました。
最近の私のネットライフは、先生のリアルタイムリーなご文章を拝読できるフェイスブックに移行しつつありまして、ブログの拝読は疎かになっていました。
また、この薪ストーブに関連して、私自身の〝炭素ゼロ〟運動に関する、ある疑問の解消とさらなる知識の向上に(先生の)フェイスブックを通じてのご助言くださりまして、誠にありがとうございました。
先生の山荘での生活ぶりを拝見させていただいて、私も将来は山荘(もしくはド田舎の山中)で暮らしてみたいと思っています。

それでは、今年の冬は例年より寒いようなので、体調管理にお気をつけて過ごしていただきたいと思います。

感謝礼拝

投稿: 阿部裕一 | 2011年12月21日 (水) 12時36分

阿部さん、

 ご丁寧なあいさつ、ありがとうございます。
 あなたも風邪などひかれぬよう注意し、よい新年をお迎えください。

投稿: 谷口 | 2011年12月22日 (木) 23時22分

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