ネコなどペットと人間の関係については、本欄でも何回も触れてきた。例えば、5月26日にはノラネコに餌をやるべきかの話、8月25日には飼いネコに避妊手術をするより、生まれた子ネコを殺すという人の話などだ。人口の多い都会などでは、人間との関係が近いペットとのつき合い方が社会問題になる場合もある。また、人間のペットへの愛着が“ペット市場”や“ペット産業”を成立させ、ついにはペットの“不死”を夢見て、クローンを得たいと望む人も登場している。そんな中で、カリフォルニア州サンディエゴ市のバイテク企業が最近、人間にアレルギー反応を起こさない種類のネコを提供すると発表して話題を呼んでいる。10月6日付の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。
それによると、この企業は「アラーカ(Allerca)」という名前で、この計画を10月初めに発表して以来、85カ国から問い合わせが殺到した。1匹の値段は4千ドル(約47万円)もするが注文が多く、入手までの期間は米国内で12~15カ月、ヨーロッパでは15~18カ月という。購入も簡単ではない。事前に同社の社員からインタビューを受けて、ネコを飼う動機、ネコへの態度、家族の状態、家の構造から敷物にいたるまで、飼い主の側の“適合度”がテストされるそうだ。ネコ好きの人はアメリカにも多く、推定で3千万匹のネコが飼われている。しかし、家に出入りする親戚や友人の中にネコ・アレルギーの人もいるから、飼いネコに薬を与えたり、空気清浄機を設置したりする出費がばかにならないという。だから、アレルギーを起こさないネコに4千ドルを支払うことは、さほど不合理ではないらしい。
ネコが起こすアレルギー反応のほとんどは、ネコが体内で産生する「fel d 1」という蛋白質が原因だという。アラーカの科学者は、ごく少数のネコがこれを生み出す遺伝子に変異があることを発見し、その場合、変異遺伝子が生み出す蛋白質に対しては、人間がアレルギー反応を起こしにくいことを突き止めた。アラーカでは、多くの種類のネコの遺伝子を調べて、変異遺伝子をもつ種を特定して、その繁殖を行った。この変異種のネコを通常のネコと掛け合せると、子ネコはアレルギーを起こしにくいことも分かった。そこで、ここ数カ月間というもの、アラーカ社のネコたちは、秘密の場所で子孫の繁殖のために忙しい毎日を送っている。生まれた子ネコたちは、10~12週で去勢手術をされたうえで、注文先へ送られるという。
ところで、9月23日付の『New Scientist』誌に、ペットと子どもの健康について興味ある話が載っていた。ネコやイヌを飼っている家の子どもは、そうでない家の子よりも健康状態がいいという結果が出ているのである。ウエスタン・オーストラリア大学(University of Western Australia)の研究によるもので、『Epidemiology and Infection』という医学誌(vol 134, p.926)に発表された。研究者らは、オーストラリア南部の4~6歳の子ども1千人近くにインタビューして、吐き気、下痢、嘔吐がないかどうかをを6週間にわたって調べたという。その結果、ペットのいる家の子はそうでない子に比べて、こういう症状が30%も少ないことが分かった。また、これより先に行われた研究(New Scientist, 7 September 2002, p. 24)では、最低2匹の動物を飼っている家の子どもは、そうでない子よりも最高で77%もアレルギー症状を示す確率が少ない、という結果が出ているらしい。
アレルギー源であるはずのペットを飼っている家の子どもの方が、健康状態もよく、アレルギー反応も少ないという研究結果と、アレルギー源となる蛋白質を産生しないネコを売る商売は、矛盾しているように思える。イヌやネコは人間の胃腸炎の原因になるとの一般的な見方があるが、上記の研究をした科学者の解釈では、ペットのいる環境で育った子どもは、幼い頃から低レベルの細菌と接触してきたことで、免疫系が強化された可能性があるという。読者だったら、どちらの対策を講じるだろうか? (イヌ・ネコを飼わない私にとっては、興味本位の質問で申し訳ないが……)
谷口 雅宣