ドイツでの国際教修会について (2)
マルカス・フォクト氏の基調講演は、教修会参加者が同氏の論文『Sustainability and Climate Justice from a Theological Perspective』(持続可能性と気候変動の正義)を読んだ上で事前に提出した質問に答える形で行われた。この論文の内容については、すでに6月22~23日の本欄で簡単に触れた。論文が難解で多岐にわたるところから、質問も数多く、多岐にわたった。が、それに応える形のフォクト氏の講演は、うまく整理されていた。
最初に氏は、現実問題である地球温暖化などの環境問題に宗教の立場から対応する場合、終末論的な危機や恐怖をあおる悲観主義に陥ることなく、人々が問題解決に勇気をもって取り組めるように積極的な希望を与えるべきだと訴えた。しかし、その希望とは、何か理想的なユートピアが今にも実現するような非現実的な夢であってはならず、人間の弱さや社会の制約などを見極めたうえで、論理的、方法論的にしっかりした目標を掲げるべきだと述べた。ただし、人間は理性的な存在だけではなく、感情や霊性を兼ね備えているから、それとのバランスが取れた方法が求められるという。
その後、フォクト氏は、前回触れた聖書の教典解釈の問題に入っていく。具体的には、『創世記』第1章28節の記述をどのように解釈するか、である。その聖句とは、日本語の口語訳聖書ではこう表現されている--
「神は彼らを祝福して言われた、“生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ”。」
ここで「彼ら」というのは、人間の男女のことである。だから、人間に対して「地に満ちよ、地を従わせよ」という神の命令をどう解釈するかで、人間の行動規範が大きく変化するのである。リン・ホワイトなどの“キリスト教悪玉論”者によれば、この聖句があるために、西洋社会が文化的、歴史的に環境破壊を行ってきたということになる。フォクト氏はこれに対し、「従わせよ」のヘブライ語(原典の言葉)である「rdh または kbs」は、確かに「踏みつける(trample)」「踏みつぶす(stamp)」「征服する(subdue)」などのほか「強姦する(rape)」という意味まで含むけれども、ここでは統治者に相応しい用語として解釈しなければらないという。つまり、責任ある統治者は国民をどう支配すべきかと考えれば、ここの解釈は「責任をもって世話する」ということになるという。そして、この解釈は、2番目の創造物語と調和したものだという。「2番目の創造物語」とは『創世記』第2章に出てくる話で、そこでは、神は人を創造され、エデンの園にすべての植物を生やさせた後に「主なる神は人を連れて行ってエデンの園に置き、これを耕させ、これを守らせられた」(第2章15節)とある。ここの表現と、「地を従わせる」行為とが矛盾していてはいけないということだ。
さらにフォクト氏によれば、『創世記』第1章28節の記述は、その前節にある記述と矛盾して解釈してはならないという。前節には「神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された」とある。この「神のかたちの人」(Man in God's image)が、神の被造物であり神が「良し」とされた他の生物を情け容赦なく踏みつぶしたり、征服したり、絶滅させたりすることを、神が命じられるはずがないというのである。だから、ヘブライ語の「rdh」が原典で使われていたとしても、ここでの「地を従わせる」行為は、神による理想的な支配--導き、飼い慣らす--という意味になるという。また、「従わせる」という言葉は上下関係を示しているから、人間が他の生物を支配する場合も、“上下関係をともなった仲間”(hierarchical partnership)だと考えるべきだという。
人間が他の生物の“仲間”であり、神に準じた特権階級ではないということは、「土のちりで人を造」ったという『創世記』第2章7節の記述にも示されている、とフォクト氏は言う。この「ちり」とは、地上に属するものという意味、つまり自然界に根差すものだという。ただ1点だけ、特権的地位があるとしたら、それは「神を経験する」能力を与えられているということだとする。これが「神のかたちの人」という意味であり、これによって人間は、無条件の愛を実践し、他への責任をもつことができるという。こうして、人間は自然の一部でありながら、自然を支配し、かつ自然に対して責任をもつことが要求されると考えるのである。
谷口 雅宣
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コメント
創世記の言葉通りの解釈を、そうじゃないんだよ、と、どう上手く説明できないでいましたが、これで説明ができます。ありがとうございます(合掌)
投稿: 水野奈美 | 2011年8月17日 20:34