宗教運動と“外部性” (2)
20世紀初めの日本国内の経済に通用することでも、今日のグローバル経済にそのまま適用できないことは、人口の差、資源やエネルギー消費量の差、各国経済の相互依存性などを考えれば分かるはずだ。が、高橋の議論の中で私が最も欠けていると感じたのは、今日の経済学では常識となっている「外部性(externalities)」なのである。それは、この時のブログでも指摘したーー
外部性の一例としては、いわゆる「公害」が挙げられる。消費が増えることで工場生産が増加し、有害物質が河川や田畑に流出すれば、農漁業に悪影響を与え、住民の健康被害にも及ぶ。その場合は、医療費が増加したり、国の財政負担が増えるなどの経済へのマイナス効果となる。(…中略…)特に今日では、ほとんどあらゆる経済活動に付随して「温室効果ガスの排出」という外部性不経済が関与していることを、企業は熟知しているはずである。(前掲書、294ページ)
熟知しているだけでなく、今日の一流の企業は、外部性を社会や消費者から指摘されると、それをいち早く企業経営の内部に取り込んで、セールスポイントの一つにしてしまうことが珍しくない。
例えばアメリカでは、20年前には喫煙の健康被害についてフィリップ・モリス社などは、自社お抱えの科学者を使って肺ガンとの関連性を精力的に否定する戦略を採っていた。しかし、今世紀に入ると、そういう戦略が企業イメージを著しく傷つけることに気づいた経営者は、対応を逆転させるようになっている。その具体例について、モニター・タレント創業者のクリストファー・マイヤー氏(Christopher Meyer)と『ハーバード・ビジネス・レビュー』編集者のジュリア・カービー氏(Julia Kirby)は、次のように述べている。
時代は下って21世紀に入ると、加工食品産業や外食産業の対応はまったく違うものになる。トランス脂肪酸の危険性が明らかになると、主要企業の経営陣は健康への影響を重く受け止めて、事が大きくなる前に素早く対応した。調理法を変え、啓蒙キャンペーンに資金を投じ、低脂肪製品を前面に打ち出したのである。
2005年には、すでに「クラフトフーヅがトランス脂肪酸の改質を完了」したことが業界紙で報じられ、競合他社ももれなく追随した。レストランでのトランス脂肪酸の使用を禁じるアメリカ初の州法が発効したのがこの年であるから、企業は法的に強制されるずいぶん前に、いやそれどころか人々の怒りを買う前に、自発的に方針を変更したことがわかる。(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2011年4月号、11~12ページ)
マイヤーとカービー両氏は、このような新しい動きを「外部性の内部化」と呼んで、これを積極的かつ継続的に行うことが、新世紀における「企業の責任を測る本当の物差し」だと主張している。この背景には、もちろん消費者運動の盛り上がりや企業側のPR戦略の転換がある。
谷口 雅宣
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
ありがとうございます。しばらくぶりに書き込みします。
唐突ですが、予てからGDPという指標に疑問を持っています。それは、先生の文中にあるような「公害」や「医療」の増加もGDPを押し上げるので、国富の増大や暮らしの充実をきちんと反映していないと考えるからです。例えば交通事故を起こして車を買い替えると、GDPは増えますが、本当にそのぶん経済は豊かになったのでしょうか?
一般にある、「GDPの増減に一喜一憂する」考え方が、そもそも「消費」は美徳であるというオイルショック以前のような感覚を内包してはいないでしょうか?
国の経済状態を評価する、何かもう少し、良い指標があれば、良いのにな、と素人考えながら、感じております。 片山一洋 拝
投稿: 片山 一洋 | 2011年5月20日 09:20
合掌ありがとうございます。
ブログと関係のない質問で申し訳ありません。
10年乗車している自家用車の事でお聞きします。今年車検を取るべきか、ハイブリッド車に変えた方がよいのか迷っています。現在の車は走行15万㌔を越えていますが何の問題もありません。出来れば大切に乗り続けたいのですが。物を大切に使い続けるべきか、環境を考えてハイブリッドにするべきか、経済社会の視点からもどう決断したらよいのか迷ってしまいます。私は老舗の小さな会社を経営しております。小さな会社ではありますが、私の選択が社員や地域の人々へ、考え方を示す事になります。社員はハイブリッドにしたほうがよいと奨めてくれます。電気自動車は寒冷地にはまだ無理だそうです。(日産、三菱)
総裁先生のお車(マイカー)も長く乗車されておられる事をブログで拝見した事がありますが、何故でしょうか?御指導お願いします。
投稿: 熊谷 | 2011年5月21日 06:14
片山さん、
お久しぶりです。GDPの経済指標としての問題は、昔からいろいろ言われていますね。ブータンという国では、これに対してGNH(gross national happiness)という指標を提案しているのも有名です。私もあなたに同感です。
熊谷さん、
私はホンダのオデッセイを長年運転していて、小型のSUVのハイブリッドが早く出ないか待っていました。トヨタがRAV4のハイブリッドを出す出すと言って、まだ出ないので、もう電気自動車にしようかとも思っています。古い車を大切に使うのも悪くありませんね。
投稿: 谷口 | 2011年5月21日 13:16