原発問題への視点
休日を利用して、妻と渋谷で映画を見た。『ミツバチの羽音と地球の回転』(鎌仲ひとみ監督)という題で、美しい自然の風景が映し出されそうに聞こえるが、実は原発問題をテーマにしたドキュメンタリー映画だ。妻が19日の新聞記事を見て提案したので、私はタイムリーな主題に惹かれて二つ返事で賛成した。135分のその映画を見て、私はぜひ本欄で内容を紹介しようと思った。原子力をめぐる日本のエネルギー問題を真面目に考える人は、この映画が訴える視点を無視してはいけないと思った。
瀬戸内海の西側の入り口近くに「祝島」(いわいじま)という小さな島がある。現在の人口は500人足らずだが、昔はその10倍あったという。山口県上関(かみのせき)町に属し、日本の田舎の例に漏れず、人口減少と高齢化が進んでいる。ということで、“地方の振興”を旗印にして、祝島の対岸3.5kmの上関町内に中国電力が原子力発電所を建設する
計画が、2008年9月に町議会で承認された。祝島の人口が同じ町の他の地域より少ないので、反対票が多数にならなかったのだ。しかし、島民にとっては死活に関わる問題なので、計画承認後も、島民は団結して反対運動を展開する。
その反対運動が描かれていく途中で、映画の舞台はスウェーデンに飛んで、同国のエネルギー政策に焦点が合わされる。特に、そこのオーバートオーネオ市は、同国最北にあり、26年前には失業率も高く、平均収入も同国最下位だった。が、市民は同国で最初に持続可能都市になると宣言し、風車を建て、豊富な森林資源を利用して木質ペレットによる地域暖房のインフラを造った。これによって化石燃料の使用は劇的に減少し、持続可能な自然エネルギーだけに頼る生き方の実現が見えてきている。同国には原発も存在するが、1980年の国民投票で「脱原発」を決めたから、残存の原発は政府の援助もなく、事故の際の補償は無制限とされたため、廃炉になっていくらしい。
この2つの国の差は、どこにあるのか?--というのが、この作品の訴えようとするものだ。最大の違いは、スウェーデンが電力会社の独占を廃して、配電送電の電力線を公共物として開放したことだ。これに対して日本は、ご存知のように、戦後一貫して10の電力会社が発電・配電・送電を地域的に実質独占している。そして、原発や火力発電所のような大規模・集中型の施設を造ってきたので、小規模・分散型の自然エネルギーの活用は、構造的に排除されているのである。今回の原発事故により、この産業構造の問題に加えて、政治や行政との“癒着”の問題も大きいことが実感されている。
日本ではまだ原発への支持率が高いが、これは恐らく「それ以外に選択肢がない」と思っている国民が多いからだろう。しかし、この作品ではずいぶん違う側面が描かれている。風力や太陽光はもちろん有望だが、「波力」というのに注目している。自然エネルギーによって高効率で電力を得ることができる方法は、現在は風力が一番だが、その風が海水を動かした波力は、物理学的にいうと発電効率もエネルギー効率も風力より高いという。そして、日本が“島国”であることを考えれば、“資源”がいかに豊富であるかがわかる。しかも、この分野の技術面でも日本はトップクラスにあるらしい。
本作品の上映は、オーディトリウム渋谷(03-5459-1850)で4月26日まで。
谷口 雅宣
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コメント
総裁先生、
ぼくもその映画を昨年の11月に見ました。
妻の実家が山口県の柳井市で上関町の隣にあります。上関町には毎夏帰省した折に子供達を海水浴に連れて行っていたので、他人事には思われませんでした。
総裁先生が書かれておられましたように、原発を推進する人はそれ以外に選択肢はないと思い込んでいる、もしくは思い込まされているように感じます。
ここ青森の下北半島は現在、東北電力東通原発1号機が運転しています。六ヶ所再処理工場が試運転中です。建設中の原発は東京電力の東通原発、電源開発の大間原発の2つ、使用済燃料中間貯蔵施設も建設中です。
むつ下北の商工会などは、原発の工事見合わせによって地元の経済活動が停滞し、解雇が増えているなどとし、早期着工を求めています。
地元が推進している理由には多額の地元交付金も関係しているようです。
今回の原発の事故を契機に吾々がもっと原発やエネルギーへの理解を深め、数年先の未来ではなく、もっと長いスパンであるべき姿を描いていく必要を強く感じました。
投稿: 田中道浩 | 2011年4月22日 20:15
田中さん、
この映画、青森でも上映したのですか?
>>地元が推進している理由には多額の地元交付金も関係しているようです。<<
そのようですね。映画では、「お金は絶対受け取らない」とガンバッテいた人が大勢いましたね。これは一種の買収ですから、困った制度です。
六カ所村については、同じ監督による『六カ所村ラプソディー』というのがあるそうですが、ご覧になりましたか?
投稿: 谷口 | 2011年4月22日 21:56
3~4日前でしょうか。テレビで、街の人100人に原子力発電所のことでアンケートをとった結果、を見ました。原子力発電所を今後も稼動したほうがいいと思うか? 減らすべきか? 全て停止するべきか? と言った質問内容でした。私は、原子力発電所を全廃するのがいいか?の質問に、「当然でしょう!!今すぐ止めるべきです」とテレビを見ながら思っていました。当然ほとんどの人々も同じ意見だと思っていました。詳しい数ははっきり覚えていませんが、アンケートの結果は、過半数の人が原子力発電所を支持していると言うものでした。ショックでした。
投稿: 水野奈美 | 2011年4月22日 23:00
総裁先生、
この映画は昨年の11月に盛岡で見ました。
妻の実家のすぐ近くの上関原発に関することであったので、興味がわき行きました。確かではないのですが、八戸でも上映していたような気がします。
『六カ所村ラプソディー』はつい最近、DVDを買って見ました。こちらの映画は、原発(再処理工場)に反対する人だけでなく、そこで働く人やそのおかげで潤っている人も登場します。まだ東大教授だった斑目春樹・原子力安全委員会委員長や、今雑誌やネットでよく登場している原発反対の京大の小出裕章助教授が登場しています。
海外の情報としては、世界で2カ国でしか運転していない再処理工場について、イギリスのセラフィールドの実情が紹介されています。
『ミツバチの羽音と地球の回転』のように未来への明るい展望という面はなく、再処理工場に反対という視点を持ちながら、賛成、反対を含めた六カ所村の現状を追ったドキュメンタリーだと感じました。
投稿: 田中道浩 | 2011年4月23日 07:17
雅宣先生
タイムリーな話題ありがとうございます。
本日のTBSの報道番組では、その発電・配電・送電の独占状態を問題にしていました。
日本の8割の太陽光発電が住居用なのに対し、ドイツかスウェーデンは、3割~4割がそれぞれ住居と事業者で残りが何でしたか忘れましたが均等だそうです。それは、余剰分の電力を購入するというシステムが阻んでいるそうです。ドイツでは100%電力会社が購入するので、売上算定が容易であるため銀行からの融資も受けやすいとか…よって、個人あるいは事業者がお金儲けとして自宅や事業所にソーラーパネルを取り付け、結果的に2002年6%であった全体に占める自然エネルギー電力が2007年かに17%に伸びたようです。
また、日本企業のソーラーパネルの保証が10年が一般的なのに対し欧米では25年が一般的。通常10年で初期投資が回収されるらしいですが、これを25年間保証してくれるなら手が出やすいですよね。中国のソーラーパネル企業が日本に進出し、25年保証で急激に売り上げを伸ばしているとのことでした。
行政ができることは山のようにあり、奇しくも3月11日これに関連した法律(民主党のマニフェストにあったもの)が閣議決定されたのですが、今回の震災で否応なくそちら(自然エネルギー発電促進および発電事業の自由化)に舵を取らざるを得ないと思うのは、私たちだけなのでしょうか。
福島県知事は、昨日福島県の他の東電の原発の再開許可も含め絶対出さないと語気を強めていました。
震災のおかげ?で国民も節電意識が高まっている今こそ機は熟したのではないでしょうか。
投稿: 谷口 美恵 | 2011年4月23日 21:44
田中さん、
どうもありがとうございます。あなたは私より進んでいますね。また教えてください。
水野さん、
谷口さん、
もう自分で何かやるしかないですネ!
投稿: 谷口 | 2011年4月23日 22:05
総裁先生、
もったいないお言葉をありがとうございます。
ちょうど映画で取材された場所が妻の実家と現在住んでいる所であったため、見ることができました。
投稿: 田中道浩 | 2011年4月24日 08:15
総裁先生
合掌 いつも素晴らしいご指導ありがとうございます。私も日本での原発指示率が高いのは、他に選択肢が無いと考えていることだと思いますが、もう一つ、私が考えていたことですが、「想定外と言われるような事態は発生しないだろう。こんな危険を孕んだものを作るのだから、国や電力会社も「絶対的に大丈夫」と言えるような備えをしているのだろう」と。他にもこのように考えている人があるのではないでしようか。しかし、今回「想定外」なことが発生し、無関心だった方々も、無関心ではいられなくなり、全国民が根本から考え直す機会になったのではないでしょうか。
私は、これを機会に、総裁先生のご指導くださる「地上系エネルギー」「自然エネルギー」へのシフトが早まることを期待してやみません。
ヨーロッパでの二酸化炭素の削減が進んでいる情報の裏に、原発の効果もあると思っておりましたが、この映画でのスウェーデンのように、健全なエネルギー政策がとられている国のことを知り、心強く思いました。
今後とも、わかりやすい情報をご提供していただき、ご指導くださいますようお願い致します。
機関誌『生長の家』23年4月号の「質疑応答集」でご指導いただいております「現象世界は実相の完全円満さを表現する場として与えられている」と云うことが、いろいろな現象処理に当てはまるように思い、この原発のこと、エネルギー源のことも、そう考えていけば、わかりやすいと思わせていただきました。ご指導ありがとうございます。再合掌
投稿: 石田 盛喜代 | 2011年4月24日 08:50
本日全国幹部研鑽会(宇治会場)で、ご講話を拝聴しました。
原発問題については、考えかたを変えなければならないと思いました。
参加者の後の感想でも、「それでは、日本の産業がなりたたない」、「いや、現実関東の水は危険なんだ」など
色々議論がありました。
「安全ではない」から「反対」だけではなく、「では代替エネルギーは今後どうするのか」を、今後世界の事例をまじえて詳しくご発表いただくとありがたいと存じます。四国の広さの太陽光パネルの面積があれば、エネルギーをまかなえるというような内容では、充分ではないように感じます。
投稿: 長部 彰弘 | 2011年5月 2日 19:31
長部さん、
全国幹部研鑽会へのご参加、ありがとうございました。「四国の広さ」の話は、ずいぶん前のことですね。今後はもっと具体的に“炭素ゼロ”を進めるために、生長の家は国際本部を移します。ここでの“炭素ゼロ”は一応、計算上はできることになっています。貴方が要望さあれていることは、恐らく、“炭素ゼロ”のための産業政策の立案なのでしょうが、それは第一義的には政治家の仕事ですよね。
私は宗教家として、できることを一歩一歩進めていくつもりです。もちろん、産業政策についても考えること、実行することは、宗教運動の立場からやっていきます。「すべての答えが出てから動き出す」という考え方もありますが、多少のリスクがあっても行動することも必要な場合があり、今回はそういう場合だと判断しています。
投稿: 谷口 | 2011年5月 3日 16:34
ご丁寧なコメントありがとうございました。
そうですね。政策は、政治家の仕事ですね。
そういうことを考えていく政治家を選んでいきたいと思います。
また、「まず動きだすこと」私も同感です。
今後ともご指導よろしくお願い申し上げます。
投稿: 長部 彰弘 | 2011年5月 5日 22:45
合掌有り難うございます。
「ミツバチの〜」の映画が観たくてネットを検索しておりましたら、これからの社会の在り方を考える上で参考になりそうだな、と思う映画のことが紹介されているブログ(以前月刊誌で連載の記事を書いておられたその枝廣淳子さんの)見つけました。
その映画のタイトルは『幸せの経済学』(ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ氏制作)といいまして、5/22が国際生物多様性デーなのでこの日に合わせて全国一斉公開上映されるそうです。
その枝廣さんが、「『幸せ』と『経済』と『社会』の連立方程式を解く大きなヒントがここにある。持続可能性を損なうグローバリゼーションの彼方にあるのは何か…?この映画を観ながら、きっとわくわくすることと思う。」と、評しておられました。
この映画も残念ながら、その日に私の住む地域では観ることができないので、願わくは雅宣先生のブログで「ミツバチの〜」の映画のときのようにコメント頂けると非常に有難いと思います。
勝手を申し上げて申し訳ございません。
前川拝
投稿: 前川 淳子 | 2011年5月 7日 12:36
度々すみません。
ドキュメンタリー映画「幸せの経済学」ですが、渋谷アップリンク(03-6825-5502)というところでは、5/21(土)以降連日12:45〜上映されるとのことでした。
先行上映日の21日のみ、15:30〜トーク付きの上映会もあるようです。
投稿: 前川 淳子 | 2011年5月 7日 23:37
遅ればせながら浜松の映画館で見させていただきました。
そこに住む人々の生きた姿とちゃんと科学的な見地から原発の危険性を示してくれているのがいいですね。例えば、海水を取り込んで7℃上昇した状態で放出する。地球温暖化を抑制するなんて全くの嘘で、事故が起こらなくてもあってはいけないものだというのがよくわかります。
様々な観点から今日の運動をご指導下さり、ありがとうございます。
ところで、nifty動画のサービス終了で、サイトのトップから動画メッセージが見れない状態です。久しく更新されていない状況ではありますが、再度登録し直す、あるいはメニューから外してくださるとありがたいです。
投稿: 加藤裕之 | 2011年9月 6日 01:03