« 原子力発電について (3) | トップページ | 香川教区の“ど根性” »

2011年3月25日

原子力発電について (4)

 私は3月20日の本欄で今、大事故になっている福島第一原発と同タイプの原子炉は、「構造上の問題が1972年ごろから繰り返し指摘されてきたらしい」と書いた。この原子炉は、米GE社が開発したBWR(沸騰水型軽水炉)というタイプで、その後に現れたPWR(加圧水型軽水炉)よりも構造上、圧力容器の強度が低いという点を指摘した。私は原子炉の専門家ではないから、この評価は17日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』(IHT)紙から借りたものだ。ところが、その後も、IHTは23日付で、また『ウォールストリート・ジャーナル』(WSJ)は24日付で、さらに米誌『タイム』も3月28日号で、今回の大事故の背後には、このような構造上の問題以外にも、いろいろな問題があることを指摘している。
 
 23日のIHTの指摘には、福島第一原発の1号機の予備用ディーゼル発電機に強圧によるヒビ割れが発見されていたことが挙げられている。この1号機は、大震災の約1カ月前に10年間の使用期限延長が認められたばかりだったという。さらに、この政府の承認後7~8週たって、東京電力は、6基の原子炉の冷却水ポンプ、ディーゼル発電機を含む原子炉冷却システムに関連する33カ所の点検を怠っていたことを認めたという。このことは原子力安全委員会のウェブサイトに発表され、その後に大地震と大津波が福島第一原発を襲ったのだ。
 
 この事実を取り上げて、同紙は「原発の運営会社と政府監督官庁の不健全な関係」があると指摘している。具体的には、旧式の原発の使用延長を認めた同委員会の専門委員は、監督官庁から雇用されていて、その決定にお墨付きを与えこそすれ、反対することなどめったにないという。さらに、原発に対する抵抗が強い日本では、新規の原発建設は年々難しくなっている。このため電力会社は、旧式原発に問題があっても、原子炉の「40年」という法定使用期限を延長することによって、しのいできた。一方、政府も、海外の化石燃料への依存度を減らす目的で原子力発電の拡大を進めてきたから、電力会社のこの措置には概ね同情的だったという。
 
 同紙はまた、福島第一原発の原子炉の設計を担当した技師の話として、この原子炉で特に問題なのは圧力抑制室が小さいことで、そのため原子炉内の圧力が上昇しすぎる危険性があると指摘している。この欠陥は、改良型の原子炉ではなくなっているという。が、この技師は、そういう点が改善されたとしても、システム全体が--配管も、機械類も、コンピューターも原子炉自体が--古いから交換時期に来ていたのだという。そういう原発に、今後10年間の使用延長を認めた監督官庁を、我々は信頼してきたのだ。
 
 九州大学副学長の吉岡斉(ひとし)氏は、25日付の『朝日新聞』に原発事業者と政府との“癒着”の危険性を次のように指摘している--

「日本の原子力発電事業の特徴は、政府のサポートが、他の国に比べてずっと強いことだ。所轄官庁と電力業界がほとんど一体になっている。(中略)他の国では、支援することはあっても、政府が事業計画まで細かく介入したりはしない。
 原子力安全・保安院は経産省傘下だから、安全行政も経産省が事実上握っている。特に2001年の中央省庁の再編以来、(中略)経産省が推進も規制もするという今の仕組みができてしまった」。

 24日付のWSJは、これとは別の「非常用復水器(isolation condenser)」の増設の必要性について書いている。これは、電力に頼らずに原子炉の冷却を行う装置で、今回のように地震と津波によってすべての電源が失われた場合、数日間、原子炉の加熱を和らげることができるとされている。だから、この間に外部電源を復旧しなければならない。昨年10月、原子力安全委員会で長期計画を検討する会合があったとき、ある関係者がパワーポイントを使い、この技術が「地震と津波から来る危険を追加的に減らす」効果があると説明したという。が、この発表は、福島第一原発のためではなく、今後の新規増設の際のものだったそうだ。非常用復水器は、すでに同原発の1号機に設置されていた。ただし、他の5基にはなく、1号機のそれも、今回は高熱のため使用不能となったと思われている。つまり、危険性は認識されており、それを回避する技術もあったのだが、残りの5基に設置する必要性は認められていなかった。
 
Bwr_structure 『タイム』誌が注目しているのは、予備電源を供給するためのディーゼル発電機の位置のことだ。福島第一原発では、これを1階のレベルに置いたことで、4台あったすべての発電機が津波によって使用不能に陥り、原子炉の冷却が不能になった。1階レベルに置いたのは、津波が来ても防潮壁で防げると考えたからだ。これを2階レベル以上の高さに設置しておけば、今回の惨事は防げたかもしれないというのである。また、放射線漏れを深刻化させた要因の1つに、使用済み核燃料プールの位置と形状が指摘されている。福島第一原発では、原子炉の加熱によって水素爆発が起こり、原子炉建屋の屋根が吹き飛んだ。このため、覆いのない核燃料プールが外部に露出することになり、冷却機能の停止もあいまって、プールから放射性物質が直接外気に発散される事態が疑われているのである。

 このように見てくると、「原子力発電は安全」という主張には相当な誇張があると考えねばならないだろう。
 
 谷口 雅宣

|

« 原子力発電について (3) | トップページ | 香川教区の“ど根性” »

コメント

図解では海水ではなく、真水です。

海水を使うと配管や電気設備の腐食を起こすおそれがあります。

韓国から被災地の一刻も早い復興を心からお祈り申し上げます。

投稿: Kim yong-su | 2011年3月25日 23:54

感謝、合掌礼拝
原子力発電については、私の学校時代の恩師も反対運動をしていました。島根県の松江市でのことです。高専の電気機械の教授でした。松江にも原子力発電所があります。電気機械とは発電機(ジェネレイター)や電動機(モーター)の事です。その専門家が反対するのですから、それなりの理由があってのことだと思います。ただ、時代の流れとして原子力発電への動きがあるのは、歴史的必然でもあり、政府の政策でもあると思います。今の時代に原子力に頼らずに、生活できるのかどうか...。冷静な対応が求められます。しかし、これだけ被害が拡大すると、今回の教訓を生かした、新規の原子力発電の建設は大変困難になったと言えるのではないでしょうか。中国やインドなどは、日本での教訓を生かして、原発の建設を予定通り進めてゆくとのことでしたが。核廃棄物の処分をどうするかなど、その国だけの問題ではない、世界人類(ほかの生物や自然環境も含めて)共通の問題もあります(ソ連は核廃棄物を日本海に投棄していました)。発電した電力を送電線で家庭や工場に送り、モーターなどの動力源として使って生産活動をしたり、家庭用の空調などに使用しています。総裁先生が書かれている通り、それを実現しようと思えば、今の生活の(経済活動も含め)大幅な見直しが必要になってくると思います。それを理解し推し進めてゆく知恵や活動が必要になる所以だと思います。分かりやすく問題点を解説下さり、大変ありがとうございます。今後ともご指導の程、宜しくお願い申し上げます。
追伸、今回の事で天地万物に感謝すること(電気やガス水道、住宅も含めた生活必需品などの有難味とその見直し)を教わったのではないでしょうか。「当たり前は奇跡以上に素晴らしい」という清超先生の言葉を思い出します。また徳川家康の家訓に、「不自由を常と思えば...」というのがありました。全文を覚えてはおりませんが、百年前には、今と比べればずっと不自由な生活をしていたのではないでしょうか。(当時の人がその生活を不自由と思っていたかどうかは知りませんが、きっと与えられたものに感謝をしながら生活をしていたと思います)便利で恵まれすぎた生活をしてきた私達への教訓ともなるのではないでしょうか。
合掌再拝

投稿: 田原健一 | 2011年3月26日 00:07

老いたる馬は路(みち)を忘れず

(老馬之智可レ用也。乃放二老馬一而随レ之、逐得レ道。による)
道に迷った時、老馬を放って、その後を行けば道に出るものだ。
転じて、経験を積んだ者は、その行なうべき道を心得ているの意。
今日本は高齢化社会と云われている。
高齢者とは、人生経験(今風に云えばスキル/手腕、技量)を一杯持って居られる筈。今こそ新高齢化社会(年長者が一杯活躍する時代。)の訪れでは無いか。もっと手を差し伸べよう。(もちろんマイペースで)

投稿: 渡邉憲三 | 2011年3月26日 12:49

原子力発電について (4)を読んで!
官民癒着の構造があってはならない原子力発電に関してこのような事が存在するなんて信じられない気持ちです。
私自身、自民党の体制に不満を感じ、民主党に一票を投じたのですが、”貴方も同じ事をやっているのか”政府に対し国民は何を信じたらよいのか解りません。
東電の職員が安全性を強調して報道をやっているのを見て苛立ちさえ感じていました。
このような事態になっても、まだ原発を必要だと言っているテレビ報道を見て、評論家だと思うのですが、さらなる失望さえ感じております。
何が、国民にとって安心・安全であることが大切で大事なことである、真摯に国会議員はその事を受け止め考え直してほしい、私利私欲の為でなく・・・そのような事が一番大事なのではないかと思っています。
ありがとうございます・・合掌

投稿: 渡部 博喜 | 2011年4月 1日 00:11

渡部さん、
 原発の場合に「官民癒着」といえば、経産省(官)と電力会社(民)です。政党がその関係にどれだけ関与しているかは別の問題だと思います。しかし、民主党は政権をとってまだ歳月がたっていませんから、原発の場合に政党と東電の間に癒着があるとすれば、それは自民党のことだと考えるべきでしょう。日本経団連と民主党との関係は、まだ始まったばかりです。しかし、福島原発はできてからもう40年たっていますから……。

投稿: 谷口 | 2011年4月 1日 13:47

この記事へのコメントは終了しました。

« 原子力発電について (3) | トップページ | 香川教区の“ど根性” »