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2011年3月30日

アメリカ外交は転換するか? (3)

 アメリカ時間の28日夕に、オバマ大統領がワシントンの国防大学(National Defense University)で国民に向けて行った演説で、アメリカ外交方針の転換とその理由づけが明らかになった。これは“オバマ・ドクトリン”とも呼べる新しい考え方である。29日の『日本経済新聞』夕刊、30日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』などが伝えている。
 
 この演説には、2つのポイントがある。1つは、「“世界の良心を汚す”ような大量虐殺を防ぐことがアメリカの国益になる」という観点である。もちろん、ここで問題になっているのはリビア内戦のことで、武力において優勢なカダフィ政権が、反政権側を攻撃して大量の死者を出している現状を放置できないという意味だ。同大統領は、これを「私は、虐殺と大量の墓が現実化するのを、何もせずに待つことを拒否する」と表現した。しかし、だからと言って、虐殺をしている政権を武力で転覆をするのはやりすぎだ、とも述べている。つまり、限定的な武力行使によって人権上の悲劇の拡大を阻止することが、アメリカの国益にかなうと考えているのである。
 
 オバマ氏は、これに関連してブッシュ前大統領が行ったイラク戦争を例に挙げ、「そこで行った政権交代に、我々は8年かかり、何千人ものアメリカ人とイラク人の命が失われ、10億ドル近くを費やした。これをリビアで繰り返すことはできない」と述べた。つまり、限定的でない全面的な武力介入は、かえって国益にかなわないという判断である。

 もう1つのポイントは、この人権擁護を目的とする限定的武力行使に際しては、アメリカが単独で行うのではなく、「国際的な合意と協力」を必要とするという考え方だ。もちろん、アメリカが直接攻撃されたり、アメリカの核心的利益(core interest)が脅かされたりする場合は、アメリカは単独で行動する。しかし、それほどの脅威ではなく、しかも正当な理由がある場合--大量虐殺の阻止、人道的支援、地域の安全保障、あるいは経済的利益の保護のために、アメリカは単独で行動してはならないとしている。端的に言えば、「正しいことをしないのはいけないが、単独でしてはいけない」ということだ。

 その理由づけは、なかなか興味がある。オバマ氏は、こう述べる--「なぜなら、アメリカの指導力というものは、単に自分独りで実行してその重荷をすべて引き受けるという種類のものではない。本当の指導力があれば、他国もそれを引き受ける状況と協力態勢とを形成できる。同盟国やパートナーとともに行動することで、彼らもその重荷と応分のコストを分担できる。それによって、正義と人間の尊厳の原理が、すべてのものによって支えられるだろう」。--つまり、「徳、孤ならず必ず隣あり」ということだろうか。しかし、これを言うためには、国際政治の分野にも世界全体に共通する正義や原則が存在するという前提がなければならないから、アメリカ理想主義の伝統がここに垣間見えるのである。

 ところで、こういう考え方を理解したのちに、国際社会が“リビア介入”を行っている現状を眺めてみよう。新聞報道などによると、リビア介入に最も積極的なのは仏・伊・英などのヨーロッパ諸国で、特にフランスはリビアの反政権組織である国民評議会を国家としていち早く承認しているため、カダフィ政権の転覆まで狙っていると思われる。また、フランスのほかにイタリアなどもリビアに莫大な資源権益を保有しているため、リビア東部の油田地帯に勢力をもつ反政権側の支援に熱心である。そして、英仏2国は28日、カダフィ大佐に即時退陣を求める共同声明を出した。翌29日には、ロンドンでリビア情勢を協議する関係国の外相級と国際機関代表による会合が行われたが、これの呼びかけも英仏両国によるという。ここで注目すべきなのは、こ会合に参加したのが欧米諸国だけでなく、カタールやアラブ首長国連邦も含めた37カ国であり、これにアラブ連盟やEU、アフリカ連合などの6つの国際機関も加わったことだ。この中のカタールは、すでに28日に、リビア反政権組織の国民評議会を同国の正当な代表として承認している。
 
 このように見てくると、今回の“リビア介入”については、アメリカの政治的役割は確かに前面に出ているようには思えない。しかし、29日のロンドンでの会合では、アメリカのクリントン国務長官は「安保理決議にリビアが完全に従うまで多国籍軍の攻撃を続ける」と強調しているし、これまでリビア攻撃に使われた巡航ミサイル「トマホーク」の96%は米軍が発射しているというから、情勢の変化しだいでは、アメリカの指導力が求められる可能性はある。が、とにかく、30日中に飛行禁止区域設定の指揮権はアメリカからNATOへ委譲されるから、形の上ではオバマ大統領の発言どおりの態勢ができているのである。
 
 谷口 雅宣

【参考文献】

リビアに関するオバマ演説全文

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コメント

ありがとうございます。

日本で東日本大震災の最中、世界では国連のお墨付きをもらった戦闘行為が勃発していたことに驚いていました。リビアとは、てっきり話し合いの座につく合意ができていたと思っていましたのに、この度のイスラム社会で起こった民主化要求?の波がリビアに来てとうとう大統領が自国民に銃どころか空から攻撃しているなんてびっくりなのですが、それにしてもどういうわけで今回は仏英がそんなに前のめりで、米国がイマイチ前面に出ていないのか不思議に思っていました。

その謎はまだ解けませんが、先生がおっしゃる「世界全体に共通する正義や原則が存在するという前提」があると信じてアメリカが行動しているし、今までもしてきたように思えてならないのですが…違うのでしょうか。彼ら(米)は、己が言う正義が世界共通かどうかなんて本当に考えたことがあるのだろうかとも。

オバマ大統領が武力を使うことを正当化すればするほど、米の二元外交が強調されているようで疑問符ばかりが増えていくのです。

投稿: 谷口 美恵 | 2011年3月31日 14:03

谷口さん、
 米国がイマイチ前に出ていないのは、恐らくコストと国内世論の問題です。このブログのシリーズを(1)から読んでもらえば分かりますが、米国は今、アフガンとイラクから撤退する途中の段階にあります。ですから、ここと目と鼻の先にあるリビアへ陸軍の戦闘部隊など送れば、兵員が割かれるし、中東へより深く関与することになり、撤退できなくなる可能性が十分あります。だから、ヨーロッパ勢に関与してもらうのが国益にかなうと判断したのだと思います。
 それから、世界全体に通用する正義があるという考え方は、アメリカでは民主党が好んできたものです。共和党は、どちらかというと、国家と国家は価値観も違うし、一方の正義は他方の悪でありえるという考え方を容認してきました。これがいわゆる現実主義であり、リアルポリティークの考え方です。

投稿: 谷口 | 2011年4月 1日 13:56

先生

ありがとうございます。お返事いただき感激です。

そうなのですか。共和党は違うのですか?私のBush大統領のイメージは、オバマさんより悪いのですが…9.11の最初の演説でWe are at war!って言ったでしょ。そうしてすぐアフガン・イラクと行ったでしょう。
「訳わからへん」と批判しながら見ていました。

それまでは、Pearl Harborだったから私たち苦労しましたよ。アメリカ人悩むとすぐPearl Harborの兵士になった夢を見てはりました。

すみません。余談ですね…

でも、おそらく私が出会った方達の支持政党はどうやら民主党だったみたいなのですが、彼らのいう価値観を絶対のものとして、遅れている日本を教育しに来たって堂々と言いましたよ。

少しこわもての日本人の社長(お金を払う側)の怒りにふれた時、土下座させられ、「頭を剃れ!」って言われてしまったのです。これをShave your headと訳しましたが、アメリカ人は????の顔。後でじっくり説明したら、後々アメリカ人同士の会議でちょっと失敗したら(コーヒーをこぼしたら)Shave your headと突っ込んだりするくらい流行り言葉になりました(笑)。

すみません、余談の余談でした。

ありがとうございます。

投稿: 谷口 美恵 | 2011年4月 2日 21:38

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