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2011年3月28日

アメリカ外交は転換するか? (2)

 この題で本欄を最初に書いたのは、2月14日だった。そのとき、アメリカの外交専門家たちが、「オバマ氏は今回の2国の“アラブ民主革命”を目撃しながら、数週間前から中東地域の反政府運動を支援する方向に軸足を移しつつある」と分析していることを紹介した。また、同月24日には、この民主革命がリビアに飛び火していることに関連して、その前日、オバマ大統領が対リビア制裁のために「あらゆる選択肢」を検討するよう関係省庁に指示したことを明らかにしたことを述べ、「これは事実上、リビアの反政府勢力への支持表明である」と私は書いた。そのあと、ニュージーランドと日本で大地震が起こったため、本欄では国際政治について書く余裕がなくなっていた。しかし、読者もご存じのように、この間、国連安保理のリビア制裁の決議が通り、“人道的理由”によるNATOの介入の決定、さらに米・英・仏軍のリビア空爆が立て続けに起こっている。欧米諸国は、リビア内戦に介入したのだ。ということは、アメリカの外交政策は転換したと言えるだろう。

 このことについて、アメリカの外交専門誌『Foreign Policy』は、18日の電子版で「オバマ氏はどうして戦争へと急旋回したか」(How Obama turned on a dime toward war)という解説記事を載せている。それによると、この重要な決定は、現地時間3月15日の夜に行われたホワイトハウス上層部の会議で、激しい論争の後に行われたという。ここでは、参加者からリビア攻撃への賛否両論が提出され、最終的にオバマ大統領が内戦介入を決断したという。この“リビア介入”に対する全般的な考え方は、ホワイトハウスに呼ばれた専門家に対して、その数日前に示されたばかりだったらしい。
 
 ある参加者は、「これは我々が国益と国家価値とを再統合する最大の機会だ」と言い、その言葉は大統領自身が言ったと伝えられた。「これ」とは、中東で起こっている民主化への大きな動きのことで、オバマ氏はこの機会に、アメリカの外交政策を民主主義と人権の方向にもっと重点を移す必要があるといったのだ。アラブ民主化の動きに関して、オバマ大統領は、エジプトやチュニジアについては、政権側から反政府側へとしだいに支持を移し、イエメンやバーレーンでの反政府デモが過激化した際にも、武力介入を思わせる言葉は一言も口にしなかった。しかしリビアに関しては、まったく異なる戦略--軍事力の投入によってアラブ地域の出来事に影響を与える戦略ーーを実行に移したのだった。
 
 オバマ政権内部で軍事介入に積極的だったのは国家安全保障会議(National Security Council,NSC)のメンバーたちで、慎重論を唱えたのは大統領の国家安全保障顧問やゲーツ国防長官らという。後者は、リビアに軍を長期に投入することから生じる2次的、3次的影響を心配していたという。中東を訪問中のクリントン国務長官も、この会議中に電話で意見を聞かれたらしい。同長官は14日、G8の外相会議に出席していたが、その時ヨーロッパ側の外相にはリビア問題についてアメリカの立場を一切明らかにしなかったという。同長官はまた、パリでリビアの反体制派の指導者とも会ったが、彼らの支援要請には肯定的に反応しなかった。このため、周囲の人々は同長官はリビア介入に反対だと考えていたが、事実は逆で、彼女は介入賛成だったが、15日の決定までは態度表明を慎重に避けていたらしい。
 
 この会議の後、オバマ大統領は国連安保理でリビアへの軍事介入を可能にする決議案(1973号決議)のとりまとめをスーザン・ライス駐国連大使に命じた。この“介入”とは、単なる飛行禁止区域の設定に留まらず、カダフィ大佐の権力剥奪をも含めた広範囲の内容のものという。ライス大使は、「カダフィ大佐とその支持者たちは、リビア国民の最も基本的な権利を大々的かつ組織的に無視し虐待し続けている」と非難し、アラブ諸国が12日に安保理に対し、リビア市民保護のために飛行禁止区域の設定とその他の方策を確立するよう求めたことに触れ、「今日の決議は、その要請と、地上からの緊急の必要に対する強力な回答である」と述べたという。

 この国連決議の法的根拠について、国連の播事務総長は17日、“保護責任”(Responsibility to Protect, R2P)と呼ばれる人道上の原則を挙げた。この原則は、「一般市民をその国の政府の暴力から守る責任」のことで、コソボやアフリカのダルフールでの“民族浄化”という苦い経験から生まれた新しい概念である。が、この原則にもとづいて他国の内戦に介入することには、様々な問題がある。日本との関係で言えば、中国で再び天安門事件のようなものが起こった場合、アメリカは本当に介入するのか。また、北朝鮮で反政府運動が起こり、政府の武力弾圧が始まった場合、北朝鮮の市民擁護のために米軍を派兵するのか。そのとき、韓国防衛の義務もあるアメリカは、極東で“二正面作戦”を実行することにならないか。また、日本国内の米軍基地が北朝鮮のミサイル攻撃にさらされることにならないか……などである。
 
 また、アメリカの国益との関係では、武力介入によって“カダフィ後”の政権が成立したとしても、それが民主的である保証はないし、親米的になるかどうかも分からない。そういう“危険なギャンブル”をしたと批判する専門家もいるのである。
 
 谷口 雅宣
 

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