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2011年2月14日

アメリカ外交は転換するか?

 チュニジアに続きエジプトでも独裁的な長期政権が倒れたことで、アメリカの外交政策に変化が生じる可能性が出てきた。これは、現在のオバマ大統領の登場に、前任者のブッシュ氏の“失政”--とりわけ外交政策の失敗--が深く関わっていることによる。つまり、9・11に遭遇したブッシュ氏は、“テロとの戦争”の旗を掲げてアフガニスタンに続き、イラクの政権を武力で打倒したが、テロは一向に収まらず、ヨーロッパやインドなどに拡大した。イラク戦争は、フセイン政権が ①テロリストを国内にかくまい、②大量破壊兵器を所持しているとの前提により、“ブッシュ・ドクトリン”と呼ばれた先制攻撃論を採用して行われた。だが、後の調査により、この2つの前提のいずれも存在しなかったことが分かった。するとブッシュ氏は、大統領2期目の就任演説で、2つの前提は間違いだったかもしれないが、アフガニスタンとイラクで旧政権が倒れたことは、アメリカが“圧政”(tyrany)を倒したのだから、中東の民主化が推進され、両国の国民にとっても、アメリカにとってもよいことだと述べたのだ。そして、イラクとアフガニスタンに民主主義を導入することを次の目標に掲げた。この論理に「ノー」と答える国民が多かったことが、オバマ氏の登場の要因の1つとなった。
 
 だから、オバマ政権の外交政策は、できるだけ早期に2つの戦争をやめて中東から軍隊を引き揚げることとなった。また、ブッシュ政権の“唯我独尊”的な外交ではなく、ヨーロッパや中東の友好国、さらにはイランなどの旧敵国とも話し合いをしながら合意点を探る方向を目指してきた。ということは、短期的にはアラブ諸国の現状を追認することだから、その強権的政府ともうまくやっていかねばならない。こうしてアメリカは、エジプトにもチュニジアにも多額の支援を続けてきたのである。もちろんオバマ氏は、民主主義の良さを讃えてきた。が、それを世界に広めることを自分の政策課題として掲げなかった。今回の2国での長期政権崩壊は、そういうオバマ氏の“現実主義的”な政策にアラブの国民から「ノー」を突きつける格好になった。チュニジアやエジプトの国民は「圧政に反対!」を唱えて、ついに政権を倒したのだ。この点をとらえて、アメリカの“右派”の人たちからは、「今回の大変化で、ブッシュ氏の方針が正しかったことが証明された」という声が上がってきているという。14日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙が、その分析記事を載せている。

 それによると、オバマ氏は今回の2国の“アラブ民主革命”を目撃しながら、数週間前から中東地域の反政府運動を支援する方向に軸足を移しつつあると、外交専門家たちは分析しているらしい。しかし、この方向への急旋回は、既定方針であるイラクやアフガニスタンからの兵力撤退と矛盾する。また、この地域にのめり込み過ぎると、ブッシュ氏の過ちを再び繰り返すことにもなる。さらには、イエメン、イランなど他の諸国で、民主化勢力がアメリカを頼って反政府運動を激化させた場合、難しい問題が起こるだろう。それはかつて、欧米のかけ声に勇気づけられ、ウクライナで“オレンジ革命”が起こった後、ロシアの圧力に対抗する行動を欧米がとらなかったため、親欧米派のユーシェンコ氏の政権が長続きせず結局、親ロシア派のティモチェンコ氏に権力が移ったことからも予想できることだ。加えて、今回の政権転覆の主力となったチュニジアやエジプトの若者たちは、政治運営の経験もないし、経済的、政治的基盤もない。それに引きかえ、モスレム同胞団などのイスラーム主義勢力は歴史も、組織も、経験もあるから、新政権はイスラーム主義者に“ハイジャック”される可能性もある。

“民主主義の推進者”や“民主主義の擁護者”を言葉で言うのは簡単である。しかし、その言葉が真実であることを示すためには、軍事介入を視野に入れた実際行動を起こす覚悟がなければならない。その難しい立場を今明確にするべきか。それとも、民主革命後の新政権の行方を、あくまでもアラブ諸国の自己決定(self-determination)に委ねるのかどうか。アメリカには、この態度表明をしなければならない時期が近づいているのである。

谷口 雅宣

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コメント

エジプト人タレントのFIFIさんが
公式ブログで詳しいコメントを発表しています。

一言でいうと、
「要するに民主化を求めているならリビアでも同じように革命が起こっておかしくないですよね?つまりこれは民主化運動とは違うんです。親米政権にウンザリなんです。」
と、かなり反米なご意見です。

FIFIさんのお母様は日本で国際政治の博士号を取ってるらしいですが、ブログの文章がすごく長くてしっかりした日本語なのでびっくりしました。

FIFIさんの意見によると「ムスリム同胞団は孤児院や病院などを設立し古くから民衆をサポートしてきた団体、組織であって、過激派とは全く異なる」そうです。

このような団体であれば次の政権を取っても
安心できるのでしょうか。

投稿: 辻井映貴 | 2011年2月18日 11:47

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