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2011年2月 4日

天照大御神について (8)

 日本の神話とよく似たストーリーが世界各地に散在していることを、どう考えたらいいだろうか? 本シリーズの6回目で、私はこの問題に関連して石田英一郎氏の考えを紹介した。それを再掲するとーー
 
「これらの神話を構成するいくつかの要素が、多くの異なった民族や地域にわたって、量質ともに、とうていたがいに独立に生じたとは考えられない程度の類似を示すときには、われわれはここに神話の伝播という事実を仮定せざるをえないのである」。

 文化人類学や考古学の分野の研究者は、たいてい石田氏のような考え方をする。つまり、世界各地に似たような話が残っているのは、そういう話をする人たちが、永い年月が経過する中で「移動して伝えた」と考えるのである。そこから“北方民族流入説”とか“南方系渡来説”などを唱える人もいる。しかし、神話学や精神分析学のように「人間の心」の仕組みを研究する分野の人たちは、それとは一風違った考え方をするようである。彼らは、人間の心の深層には共通した部分があると考えるから、その共通部分の表現として生まれる(神話や宗教を含む)文化現象は、必ずしも人によって伝えられなくても世界各地に存在しえる、と考えるのである。
 
 ユング心理学の日本における第一人者、河合隼雄氏は、自らの神話研究の態度について、こう語っている--
 
「宗教学、民族学、文学、文化人類学、歴史学などとそれぞれの立場から研究ができるであろう。神話の伝播の経路を推察できるし、神話の類似性から、何らかの文化圏の存在を仮定することもできる。あるいは、神話そのものの成立の過程を類推することもあろう。これらに対して筆者(河合氏)の立場は相当に異なっていて、深層心理学の立場によっている。つまり、それは既に述べてきたように、人間にとっていかに神話が必要であり、それが人間の心に極めて深くかかわっているか、という観点に立って、神話のなかに心の深層のあり方を探ると共に、神話からわれわれが実際に生きてゆく上でのヒントを得ようとするものである。(中略)日本神話を対象とする場合は、そこから日本人の心のあり方について考える、ということが重要な焦点となるものである」。(『神話と日本人の心』pp.17-18)

 上の文章で注目してもらいたいのは、深層心理学の立場では、現代の人間が生きるうえで、大昔にできた神話から学ぶことが多くあると考える点である。神話とは“過去の遺物”ではなく、あくまでも“現代のテキスト”として読むべきだとするのだ。私もその考えに賛同し、それゆえにこのシリーズを書き継いでいる。
 
 それでは、日本神話にある天照大御神から、現代の私たちは何を学ぶことができるだろうか。河合氏の考えを聞こう。
 
【参考文献】
○河合隼雄著『神話と日本人の心』(岩波書店、2003年)

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