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2011年2月 7日

天照大御神について (10)

 さて、本シリーズも10回目となり、前後の脈略がつけにくくなった思われるので、前回までに天照大御神に関して述べたことを簡単にまとめてみる--
 
①日本神話には太陽神が男女2神あり、そのうち女性としての天照大御神が歴史的には強調されてきた。
②太陽神が女性として描かれる例は珍しい部類に入る。その要因は、古代日本人が女性や母性に対して肯定的評価をしていたということである。
③この女神は天皇家の祖神として“最高位”にあるが、無謬でも万能でもなく、平和主義者である。
④深層心理学的に見ると、この女神はスサノヲとツクヨミとを加えたトライアッドを構成する。

 これらの理解の上に立って、前回の本欄では、日本神話(特に『古事記』の神話)に特徴的なものとして、河合氏の言う「中空構造」があることを紹介した。これは日本の神話学者、大林太良氏からも認められた考え方として重要だと思われるので、河合氏の説明をさらに聞こう--
 
「日本神話の構造の特徴は、中心に無為の神が存在し、その他の神々は部分的な対立葛藤を互いに感じ合いつつも、調和的な全体性を形成しているということである。それは、中心にある力や原理に従って統合されているのではなく、全体の均衡がうまくとれているのである。そこにあるのは論理的整合性ではなく、美的な調和感覚なのである」。(p.309)

 この点を今、我々が考えている天照大御神をめぐる神話の文脈でいえば、上記の③のことである。もっと具体的に言おう。この女神は天皇家の祖神でありながら絶対的善でも絶対的権力者でもない。これまで我々が見てきたように、この天上の女神は、荒くれのスサノヲが訪ねてきたときにはその意図を読めず、武装して待ち構える。そして、誓約(うけひ)によって彼の真意を知る競争にも敗れる。勝ったスサノヲが数々の狼藉を働くと、アマテラスはなす術を知らず、怒って岩の洞窟の中へ身を隠してしまう。が結局、周囲の神々のはかりごとによって洞窟から出される。スサノヲは処罰されるが、“悪”として徹底追放されるのではなく、本欄では触れなかったが、後に出雲における文化的英雄となり、王国を建設するのである。
 
 アマテラスは普通、女性原理として考えられるが、出自は「イザナギの左目」であるから男性原理とのオーバーラップがある。また、前回触れたトライアッドを考えた場合は、男神タカミムスヒを“老賢人”として持つ立場にもあるから、男性原理の影響下にあると考えられる。しかし、それらの要素を無視して、スサノヲとの関係を女性原理と男性原理の関係として見ることもできる。すると、アマテラスは結局天皇家の祖神となるのだから、総合的には前者が後者よりやや“優位”だとは言える。が、だからと言って男性原理であるスサノヲは“悪”として徹底排除されることはなく、葛藤はあっても、やがて双方がそれぞれの居場所を得て平和裏に共存することになる。しかも、“中心的”支配者のような神の姿は、ここにはない。そのことを河合氏は「中空均衡構造」と呼んでいるのである。
 
 谷口 雅宣
 
【参考文献】
○河合隼雄著『神話と日本人の心』(岩波書店、2003年)

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コメント

総裁先生,合掌,ありがとうございます。
今回のシリーズを興味深く拝読いたしております。
河合隼雄先生(敢えて先生をつけさせていただくのには理由があります)の著作は大学時代,臨床教育学を学んでいた関係で何冊か読みましたが,神話について書かれている著書は読んでいませんでした。ぜひ読んでみたいと思います。
現在の教育界や医学界に河合先生の提唱されたカウンセリングマインドとその技法を超えた専門性をもつ人材が必要とされていることを感じています。それはまさに「日時計主義」を実践できる教師や医師だと考えます。

投稿: 佐々木 勇治 | 2011年2月 9日 21:48

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