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2011年1月 7日

食糧価格が上がっている

 昨年来、世界の食糧価格が高騰している。2007~2008年には、これが原因でカメルーン、エジプト、ハイチ、ソマリアなど各地で暴動が起こったが、昨年12月には食糧価格がそのレベルに近づいたとして国連の食糧業機関(FAO)は6日、警告を発した。7日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』が、これを大きく扱っている。同紙の記事によると、食糧価格高騰の要因には昨年来の天候不順がある。猛暑に襲われたロシアが穀物禁輸をしたことは本欄(8月20日)にも書いたが、大洪水に見舞われたパキスタンに日本も自衛隊のヘリコプター部隊を派遣したことは、まだ記憶に新しい。これらが影響して、昨年1年間で小麦の値段は47%上昇し、アメリカのトウモロコシ価格は50%、ダイズは34%、それぞれ上昇しているという。
 
Foodprices  昨年8月23日の本欄では、世界の食糧事情の悪化についてまとめて書いたが、その後、9月15日には飢餓人口が減少したことを報告し、一見、矛盾した形になった。その際、食糧事情の将来について“楽観論”と“悲観論”を紹介し、私としてはレスター・ブラウン氏などが唱える“悲観論”を支持したのだが、どうやら悪い方の予測が当たってしまったようだ。ただし、前回の食糧危機に比べて、まだよい点もある。その1つは、ここに掲げたグラフにあるように、穀物の値段が2008年のレベルに比べてまだ大分低いことだ。また、アフリカ南部の国々の作物の生育が比較的に良好なこともある。ただし、オーストラリア北東部の洪水の影響はマイナス要因である。また、同紙の記事では、FAOの経済学者、アブドルレザ・アバッシアン氏(Abdolreza Abbassian)が、旱魃になっているアルゼンチンでのトウモロコシとダイズの収穫量を心配している。
 
 天候不順だけでなく、食糧価格の高騰の要因で見逃せないのは、経済発展が進む中国、インド、インドネシアなどでの消費拡大である。日本もこの道を歩いてきたからわかるだろうが、経済状態が向上してくると、人間は肉食を増やすようになる。肉食の弊害はすでに何度も書いたが、食糧価格高騰との関係で改めて言えば、肉食が増えると、家畜の飼料に回される穀物の量が増大することになり、穀物消費全体が増える。そして、この動きは長期にわたって続くもので、簡単には止められない。しかも今、経済成長を続けている国はどこも人口が膨大であり、若年人口も多い。そして、これらの国々での経済成長は、深刻な環境破壊を伴っている--こう考えていくと、従来型の「経済成長」は、問題の解決よりは、問題の増幅に寄与する要素が大きいということがわかるだろう。

 2008年の“食糧危機”で被害が大きかった国のいくつかは、すでにインフレ対策に着手している。中国では、何カ所もの市で食糧価格の統制を始めた。コメ輸出国であるベトナムでは、昨年11月に国内価格安定のために輸出量を制限することを宣言した。インドネシア政府は、1月6日の会議で食糧価格の安定について審議し、貿易相がインフレ抑制のため、国民に自家消費のトウガラシを植えるよう求めた。昨年1年間で食糧価格が18%上昇したインドでは、政府が今月、銀行の貸出金利を上げると見られている。
 
 パキスタンでは政変が起こりそうになった。とは言っても、これは食糧価格の高騰によるのではなく、ガソリンなどの燃料価格との関係である。しかし、バイオ燃料が大量に使われるようになった今日では、燃料価格は食糧価格と連動している。ちなみに世界の原油価格は、1バレル3桁台に上がった2008年のレベルに近づいている。しかし、先進諸国の不況のおかげで在庫量が増え、精製施設の整備や新規油田の発見などもあって、すぐには3桁にはならないというのが、大方の専門家の見方だ。が、パキスタンを含めた途上国の多くは、国内の灯油やガソリン価格を低く抑える統制をしている。この政策のおかげで財政の負担が増しているため、パキスタンのギラニ首相は、昨年暮れにガソリンなどの燃料の小売価格を引き上げる決定をした。ところがこれに反対して、連立を組んでいた民族運動(MQM)が政権から離脱してしまったのだ。そこで同首相は、6日になって値上げ撤回を表明し、MQMとの連立が復活したということだ。

 パキスタンの政権安定は、アメリカのアフガニスタン作戦にとって大変重要であり、それとの関係で日本の外交政策にも影響がある。パキスタンでは最近、イスラーム過激派に批判的なプンジャブ州知事が暗殺されるという事件があり、これを機に国内の対立が増大している。このようなつながりを考えていくと、「気候変動 → 作物の収穫減 → 食糧価格高騰 → インフレ → 政治の不安定化」という関係が見えてくると思う。だから、平和の維持や国の安全保障のためには、軍事力の増強だけでなく、CO2の排出削減や農業の振興も重要な政策なのである。
 
 谷口 雅宣

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コメント

合掌ありがとうございます。
明けて早々無気味な情報が飛び交っています。


http://www.excite.co.jp/News/society_g/20110108/Kyodo_OT_CO2011010801000596.html

 【昭和基地】南極・昭和基地の南、約20キロにある水くぐり浦のペンギン繁殖地で、親鳥が抱卵を放棄する例が目立っている。アデリーペンギンは今が子育ての時期。しかし、昨年12月1日に繁殖の兆候が確認できた435の巣は、同月27日の調査で170に減少。今月6日は95に減っていた。繁殖地には“空き家”が目立ち、ふ化できなかった卵が無造作に転がる。

原因は不明でしょうが、不憫なものです。
しかし、人類の進む道の険しい事を予感させます。

投稿: 渡邉憲三 | 2011年1月 8日 22:17

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