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2011年1月28日

アラブ諸国が揺れている

 北アフリカのチュニジアで起こった民主革命を契機にして、北アフリカ、中東周辺の国際情勢が流動的になってきた。私はかねてから、現代では「環境」「資源」「平和」の問題が“三つ巴”の密接な関係にあることを指摘してきたが、このうち「平和」に関する国内・国際紛争が、こんな形で起こってくることは予測できなかった。私が予想していたパターンは、①地球温暖化による気候変動で農産物が不作となり、同時に②新興国の経済発展で資源獲得競争が激化、③バイオ燃料の需要増大とともに途上国の食糧事情が悪化、④食糧や希少資源をめぐる国際紛争が多発する--というものだった。ところが、今回のチュニジア革命は、②と④の間に「若者世代の拡大」と「民主政治への欲求増大」という2つの要素が隠されていることを教えてくれた。今後は、アラブ系の途上国で起こる民主革命が、より広い地域を含んだ国際紛争につながらないように各国、国際機関による努力が必要となる。

 チュニジアの政変は今月半ば、高い失業率と食糧価格の高騰などに抗議した反政府デモに参加していた青年が、焼身自殺したことをきっかけにして一挙に拡大し、23年間も政権を握ってきたベンアリ大統領が国外に逃亡したことで起こった。この国は、外交では親欧米路線を採り、外国資本を導入して経済発展を進めた一方、国内政策では国民の民主化への要求を力で抑え、支配層の温存と利権維持を図ってきた。このため、経済成長が進む一方で失業が拡大していた。18日付の『日本経済新聞』によると、チュニジアの1人当たりのGDP(国内総生産)は、1990年に1600ドルだったものが2010年には4100ドルに達したというIMF(国際通貨基金)の推計がある。また、同国に進出している外国資本には、サンローラン、ラコステ、ベネトン、カルバン・クライン、YKK、NECなどがあるという。
 
 そして、チュニジア情勢が重要なのは、周辺のアラブ諸国が、多かれ少なかれ似たような状況にあるからだ。つまり、長期に強権的政治が続く中で貧富の差が拡大し、若者の失業が顕著である点で共通している。こういう中で、“暴動”や“革命”が起こる1つの重要な契機は、食糧価格の高騰だ。人間は衣・食・住のような生きる上での基本的条件が脅かされれば、やはり自衛の手段として暴力に訴える人も増えてくるのだ。25日付の『日経』は、国連食糧農業機関(FAO)のジャック・ディウフ氏の寄稿文を取り上げ、本欄でも述べたように(1月7日同15日)、世界の食糧価格が過去最高値になったことを“危機”としてとらえ、先進国が食糧増産のための投資拡大を行わなければ、「食糧価格高騰が数年にわたり続き、各国で政情不安を招くことになる」などと同氏が指摘したことを伝えている。
 
 25日以降の新聞各紙は、チュニジアの政変が周辺国等の途上国にも影響しだしたと伝えている。遠く離れた南米ボリビアでは、ジャジャグアという人口4万5千人の町で24日、食料品やガソリンの値上げに怒った人々が商店を襲撃して略奪を行ったという。同国では昨年末、燃料価格が83%上がったため、各地で反対デモが起こっていたという。アラブ諸国ではアルジェリア、イエメン、ヨルダン、エジプトで反政府の抗議デモが続き、チュニジアの例に倣って焼身自殺を図る人々の数は、24日までに未遂を含めて10人を超えたという。

 これらの国の中で日本を含めた西側諸国が注目しているのが、エジプトの政治情勢だ。ここはアラブの大国であり、1979年にイスラエルを承認するなど、伝統的に親米路線をとって中東情勢安定のために重要な役割を果たしてきた。しかし、国内的には強権政治によりムバラク大統領の治世が29年も続いてきた。27日の『日経』によると、同国の経済発展は続いており、2010年の成長率は5.3%に達する見込みだが、貧富の格差は大きい。国民の4割が1日2ドル以下で生活する貧困層に属しており、18~29歳の失業率は22%に上るとの推計もあるらしい。アメリカにとってここは中東政策の“要”だから、クリントン国務長官は25日、「エジプト政府は国民の正当な要望に対応する方法を探っていると理解している」と“ムバラク支持”の態度表明を行った。しかし、翌26日には、エジプト政府がデモ禁止を打ち出したことに反対し、「平和的な抗議活動や、ソーシャルメディアを含む通信を妨害しないよう求める」と述べたという。これは、エジプトのデモが、SNSの「フェイスブック」を使って組織されたことに危機感を抱いた同国政府への牽制である。
 
「フェイスブック」はチュニジアの政変でも重要な役割を果たしたことが分かっている。28日付の『朝日新聞』は、エジプトでの反政府抗議デモがこの新媒体を使って「ムバラク政権下で最大規模の動員力を示した」ことに注目し、次のように報じている--

「25日に始まった抗議デモをフェイスブックで呼びかけた主なグループは“4月6日運動”と“ハレド・サイード連帯”。チュニジア政変の直後にそれぞれがファンページを作り、エジプトでの大規模デモを呼びかけた。
 いずれも約8万~41万人が登録し、それぞれ2万~3万人以上が事前にデモへの参加をネット上で表明していた。これらのグループは、イスラム教の休日(金曜日)に当たる28日にも新たな抗議デモを呼びかけており、すでに6万人以上が参加表明している。多くは若者で、双方に掛け持ちで加わっている人も多い」。
 
 インターネットが政治に影響力を発揮することはアメリカの大統領選挙で証明ずみだが、強権政治を続けている途上国においても、政変を引き起こす道具になりえるということは、驚くべきことではないだろうか。
 
 谷口 雅宣

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