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2011年1月15日

食糧危機への処方箋

 環境運動家のレスター・ブラウン氏が主宰する地球政策研究所が14日付で「The Great Food Crisis of 2011」(2011年に来る大食糧危機)という文章を配信した。これはアメリカの外交専門誌『Foreign Policy』の最新号に掲載されたもので、同研究所のウェブサイトにも転載された。私はすでに7日の本欄で、世界の食糧価格が高騰しているという国連食糧機関(FAO)の警告を紹介したが、ブラウン氏の文章はその高騰の背後に何があるかを分かりやすく説明している。

 ものの値段を決めるものは需要と供給であるということは、経済学の“初めの一歩”だから読者も十分心得ているだろう。すると、値段が上がるためには、供給が減るか、需要が増えるか、あるいはその双方が重なるか、ということになる。過去にあった食糧価格の高騰は、天候不順による作物の不足(供給の減少)が主な理由だった。その場合、不足分は在庫で補い、翌年に豊作となれば問題は解消する。が、今回の食糧価格の高騰は、従来のような供給減だけでなく、需要増も加わっているから、長期化するに違いないとブラウン氏は言うのである。
 
 まず「供給減」の理由を見ると、天候不順の要素が大きい。この点は前回(7日付)も書いたが、記憶にまだ新しいのは、昨夏、日本を含む世界各地を襲った熱波だ。今年に入っても、オーストラリア北東部で大洪水が起こっているし、ブラジルでも大雨によってリオデジャネイロ州で洪水が発生、350人以上の死亡者が出ている。このほか土地の浸食、地下水の枯渇、農地の減少、都市への水の転換、先進諸国での作物収穫量の頭打ち、氷河や極地の氷の融解など、すべてが収穫減につながっている。
 
 「需要増」の原因は、①人口増加、②経済発展、③バイオ燃料の拡大だ。私が大学に入った年(1970年)から比べると、世界人口は約2倍に増えた。今、その増勢はやや衰えたものの、人類の数は1年に8千万人増える。これは毎日、21万9千人が増えている計算になる。食糧を食べる口の数が増えるだけでなく、経済発展によって、人々は食物連鎖の階段を上る--つまり、肉食を増やし、卵や乳製品を多く摂取するようになる。さらには、バイオ燃料の使用が増えている。アメリカでは2009年に4億1600万トンの穀物が穫れたが、そのうち1億1900万トン--3億5千万人の1年分の食糧--はエタノール生産に回された。ヨーロッパでは車にはバイオディーゼルがよく使われるが、その主原料はアブラナとヤシ油だ。アブラナの生産増は、人間が食べる作物の作付面積を圧迫するし、ヤシの栽培により、インドネシアやマレーシアの熱帯雨林が伐採されている。
 
 これらがすべて加わることにより、人類の穀物消費量は、1990年から2005年までは年平均2千100万トンだったのに対し、2005年から2010年までは4千100万トンへ倍増したというのである。
 
 食糧価格の高騰は当然、インフレ圧力となる。また、食物やガソリンの価格安定のために補助金を出してきた多くの途上国の財政を圧迫する。この価格政策を緩和ないし撤廃すれば、途上国では暴動が起きる場合も出てくるのである。この14日、北アフリカの小国チュニジアで、大規模デモの中、大統領が国外逃亡して政権が崩壊した。このデモは12月中旬、高い失業率や物価高騰に抗議するために始まったが、政府の強圧的なデモへの鎮圧行動が国民の猛反発を招いたものだ。23年間続いた強圧政権があっけなく崩壊したのは、食品高騰だけが原因ではないが、国民の不満の主要因であったことは確かだ。途上国の中には政治的基盤が不安定な国は多くあるから、食品の高騰が引き金となってクーデターや紛争が起こる可能性はあるのだ。日本の隣国・北朝鮮の政治的安定にも関係するだろう。
 
 さて、こういう問題をどうすべきかを考えねばならない。ブラウン氏の処方箋は、明確である--今後の世界紛争は、大量で大規模な兵器をもった超大国間で起こるのではなく、食品不足や食糧価格の高騰によって起こる中小国の政治的混乱が原因になる。だから、各国政府は今や安全保障の定義を見直し、軍事費を削減して、気候変動の抑制や水資源の効率的活用、土地の回復、人口の安定などに国費をつぎ込むべきである。傾聴に値する話ではないか。
 
 谷口 雅宣

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