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情報将校--アブダル。「マキャヴェリスト」と「悪者」とは同じ意味じゃない。ほとんどの政治家はマキャヴェリストだと言っていい。政治家がマキャヴェリストであることは普通のことで、必ずしも「特に悪い」わけじゃない。ましてや“悪の根源”なんかじゃない。例えば、サウジアラビアの国王は、国内の原理主義勢力とアメリカとのバランスをうまくとって、これまで上手に政治を進めてきた。彼は、アメリカに軍事基地を提供しながら、国内の原理主義勢力を満足させるために、宗教警察によってリベラルな考えを厳しく弾圧してきた。しかし、アメリカの国益とは、サウジの石油がコンスタントに入手できることと、イスラエルを防衛するための軍事基地が中東に得られることだ。この二つを、サウジの国王は保障してくれている。だから、彼は“よいマキャヴェリスト”だと言ってもいい。
導師--その論法だと、“よいテロリスト”があってもいいのだな?
情報将校--そういうことになる。
導師--君がそれに満足しているなら、悩むことは何もないんじゃないか?
情報将校--アブダル。私の悩みは……今言ったアメリカの中東での国益が、テロリストたちの行動によって、しだいに失われていると同時に、わが国やヨーロッパの同盟国内では、テロリストたちに同情的な勢力が拡大していることだ。武力的にはビンラーデンの相手ではないアメリカが、9・11のようなメチャクチャな攻撃を仕掛けられていて、効果的な報復と処罰ができていない。“テロとの戦争”は負けているように見える……。
導師--ビンラーデンがつかまらないからか?
情報将校--ヤツは年をとってきたが、別の人間が現れてテロを扇動している。
導師--アフリカへ逃げたアメリカ人の指導者のことだな?
情報将校--そうだ。アメリカ人がなぜ、アメリカを破壊しようとするのだ! ヤツラの背後には、何かとんでもない“悪の根源”がいる。だから、ヤツラの手に核兵器が渡れば世界は破滅する。それが分かっているのに、我々はどこを叩いていいのかわからない……。
導師--ジョン、“悪の根源”なんてものはないと私は思うよ。それは、君の心の産物じゃないか?。それから、「9・11の仕返しが効果的でない」という言い方には簡単には賛成できない。アメリカのアフガン攻撃とイラク戦争によって、この地域の人々がどれだけ損害を被ったか……情報将校の君は知ってるだろう! コラテラル・ダメージが大きすぎる。そういう意味では報復は効果的でない。かえって反米感情を燃え上がらせたからだ。しかし、二つの国を破壊され、十年近くも戦火に怯えている人々は、十分に制裁を受けているんだ。
谷口 雅宣
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コメント
サウジの宗教警察のことは知っていましたが、このような内政的意図があったとは思いもよりませんでした。
サウジアラビアはお酒には厳しいのに、アメリカには甘いので変だなとは思ってましたが、納得できました。
投稿: 辻井映貴 | 2010年12月30日 08:08