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2010年12月17日

信仰者の“過激化” (2)

 今日(17日)付の『朝日新聞』は、16日にオバマ政権が発表したアフガニスタン戦略の評価について、次のように報じている--
 
「駐留米軍3万人の増派などで、反政府武装勢力タリバーンや国際テロ組織アルカイダの勢いを弱めたと成果を強調。来年7月から米軍が“責任ある撤退”を始める条件整備が進んだとし、2014年末をめどにアフガン側に治安権限を完全移譲する方針も再確認した」。

 これだけを読むと、アメリカのアフガニスタン戦略は成功しているように思える。しかし、事実はそれほど単純ではない。『日本経済新聞』の記事の方が、この点を明確に記している--

「タリバン掃討作戦の効果については“タリバンの影響力が及ぶ地域が減少”と高く評価した。いくつかの主要地域ではタリバン支配が終了したとの認識を示した。タリバンの牙城の南部カンダハル、ヘルマンド両州の掃討作戦は“明白な進展”があったと指摘した。(中略)ただ、増派による治安の好転は“元に戻りうる”とも指摘し、タリバン掃討の成果は“脆弱”と認めた」。

 この引用の後半部分が、アメリカのアフガン戦略の難しさをよく表している。タリバーンとの戦闘は、「一時的に進展しても逆戻りする可能性がある」というのが本当のところだろう。そう言える理由は、この評価発表前に出された『国家情報評価』(National Intelligence Estimates、NIE)という機密文書が、まさにアフガン戦略の困難さを強調しているからだ。NIEという文書は、アメリカ軍を除くCIAなど16の情報機関の共通した状況認識を示しているもので、軍の評価と異なるのは珍しくないという。16日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙は、NIEの内容を次のように要約している--
 
「この戦争においてアメリカとNATO側に有利な進展はあったものの、パキスタン北西部の無法地帯にある武装勢力の隠れ家を、同国政府が攻撃したがらないことが深刻な障害になっている。米軍の司令官によると、武装勢力はこの地域からアフガニスタンへ自由に移動し、爆弾を仕掛けたり、米軍と戦闘したりした後、パキスタン領内に戻って、そこで休み、補給を受ける」。
 
 ここにある「無法地帯」とは、「パキスタン政府の権限が及ばない地域」という意味である。ここは、パキスタンという国家の力が完全には及ばない、いわゆる“部族支配”の地域で、その部族はアフガニスタン国内にも多く住んでいるのである。そんな地域をパキスタン軍が攻撃すれば、反米感情の強い国民からは「アメリカの片棒をかついだ国民弾圧」と見なされるだけでなく、国内の部族対立を先鋭化することにもなる。ということで、パキスタンが“テロリスト”掃討に消極的なため、CIAなどは無人攻撃機を飛ばして直接、パキスタン国内の“テロリスト”に攻撃を加えてきたのである。パキスタンは、国としてはアメリカと同盟を結んでいる。にもかかわらず、その国民をアメリカが攻撃するのだから、パキスタン国民から見れば、それは「イスラームへの攻撃」以外の何ものでもない。こうして、イスラーム信仰者の“過激化”の種は尽きることがないのである。

 私は、アフガニスタンはアメリカにとって“第2のベトナム”になりつつあると思う。だから、オバマ大統領は多少の困難はあっても、期限を切って米軍の撤退を強行しようとしていると見る。その背景には、アメリカ国民の6割もがアフガニスタンでの戦闘に反対していること、さらには同政権の人気が低迷したまま、次期の大統領選挙が近づいていることも、今回のアフガン戦略評価の、半ば強引な内容に反映されている気がする。

 谷口 雅宣

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コメント

総裁先生、お誕生日おめでとうございます!
また、ブログでの尊いご論稿、いつもありがとうございます。

このご論考で『国家情報評価』(National Intelligence Estimates、NIE)というものの存在を初めて知りました。ご教示ありがとうございます。

先生の広い視野に立ったご見識について行くためにも、よく引用されるヘラルドトリビューンを購読したいと思いますが、先生は紙で読んでおられますか、
それともオンラインでしょうか?

日本で購読するのに適切な形があればご教示ください。

投稿: 辻井映貴 | 2010年12月24日 08:00

辻井さん、

 『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙はアメリカのニューヨークタイムズ紙の国際版です。ネット上では、
http://global.nytimes.com/

 で見れます。また、紙の新聞は別名『ヘラルド朝日』といいますから、朝日新聞の販売店経由で購読申し込みができると思います。

投稿: 谷口 | 2010年12月24日 13:27

総裁先生、早々のご回答、誠に恐れ入ります。

インターネットでは購読のリンクが見つからなかったので、「日本で購読するのに適切な形」という表現になってしまいましたが、ご教示に従い朝日新聞社に確認したところ、インターネットでの販売はやっておらず、
オンライン購読はキンドルなどを経由してとのことでした。

ご論考中の「16日付」を見るためにはキンドル等を使う必要があるようなので、しばらくインターネットで読み慣れてから、キンドル等を検討したいと思います。

ご指導ありがとうございました。


投稿: 辻井映貴 | 2010年12月24日 17:51

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