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2010年11月20日

都市化は環境にやさしい?

 イギリスの科学誌『NewScientist』の11月号を興味深く読んだ。「都市ユートピア(Urban Utopia)」という特集記事を掲載していたからで、副題で「なぜ都市は田舎よりも環境にやさしいか?」と問いかけている。「本当かなぁ」という疑問がすぐに出てきて、記事を読みたくなる上手な副題だ。で、結論を先に言ってしまえば、この見出しにあるように、「一人当たりの二酸化炭素排出量は、都市の方が田舎より少ない」という研究結果をいくつも並べて、「都市化は環境にやさしい」という逆説を述べているのである。もしこれが真実ならば、生長の家が国際本部を山梨県の八ヶ岳南麓に移転することは、その意図とは裏腹に「環境破壊につながる」ことになる。これは一大事だ、と思った。
 
 この記事で取り上げられている研究は、みなきちんとした学術誌に発表されたものだ。ただし、実際のデータは示していないので、データの取り方等の細部については調べて確認することができない。が、そういう点は学術誌の編集部がきちんと判断して掲載を決めたのだろう。だから、一応はそれらの研究結果を容認すべきと思う。それで、どのようにしてこの結論が引き出されるかを紹介しよう。
 
 この結論にいたるのに、それほど難しい論理は使われていない。我々が普通に考えてみても、都市と田舎との交通手段を比べてみれば、都市では電車やバスによく乗り、田舎では自動車に頼ることが多い。これは人口密度の差から来るもので、密度が高い都市では、空間を多く使う手段は交通だけでなく、住居や会社などでも非効率的(高コスト)となる。だから交通の場合、非効率な渋滞を嫌って、都市の人々は自然に公共交通手段を利用する。ということは、一人当たりのCO2排出量は田舎の人より減る。また、人口が密集している都市でのエネルギー利用は、人口が拡散した田舎よりも効率的だといえる。短い距離で多くの人々にガスや電気を供給できるからだ。そうなると、個人のエネルギー消費だけでなく、地域全体のエネルギー利用についても、都市は田舎より優れているという結論が導き出される。
 
 この論理を支持するデータとして取り上げられているのが、2009年に国際環境開発研究所(International Institute for Environment and Development)のデービッド・ドッドマン氏(David Dodman)が発表した研究で、世界の代表的な都市での一人当たりのCO2排出量を調べたものだ。それによると、ロンドンの居住者は、イギリス国内の一人当たりのCO2排出量の半分しか、CO2を排出しない。また、ニューヨーク市の居住者は、アメリカ人の平均排出量の30%しかCO2を排出せず、サンパウロ市民のCO2排出量は、ブラジル人の平均値の18%しかないという。
 
 これに加えて、深刻化している人口問題の緩和にも、都市化は役立つという。なぜなら、都市は田舎よりも教育機会に恵まれ、託児所や学校などの社会施設も整っているため、子供の教育を支える意味でも、女性が教育を受けて仕事につく機会が多い。また、都市では、産児制限の手段が田舎よりも整っている。ということは、子供を生み育てる機会を減らす女性が多くなるから、一人当たりの子供の数は田舎より少なくなる。これに対し田舎では、子供を労働力の一部として見る傾向があるだけでなく、居住空間も都市より広いため、都市の家庭より多くの子供を生み育てる傾向がある。だから、都市化が進めば、そうでない場合よりも人口の増加数は減るというのである。
 
 このように考えていくと、都市化は環境保護にも人口増の緩和にも貢献するという結論になる。これを日本に当てはめて言い直せば、東京や大阪が、大間や嬬恋村よりも“環境にやさしい”ということになり、人々はこれまでと同じように、都市へ都市へと移り住むことが環境問題の解決に最も有効だという結論になりそうである。が、しかし、本当にそうだろうか。これまでの人類の動向が都市化だったのだから、この結論が正しいなら、なぜ地球温暖化などが起こっているのか、それが説明できない。この論理の、いったい何が問題だろう?
 
 谷口 雅宣

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コメント

総裁先生、ありがとうございます。


この論理には、ある程度の都市化が完成された時点での人々の生活を、田舎の生活と比較して論じているように思います。


先生が、今までにおっしゃって来たように、このある程度完成された都市を創出する過程で排出される二酸化炭素について考えると、ある田舎を新たに都市化するには、生長の家の本部移転のような努力が必要だろうと思います。


だから、この科学雑誌に掲載された逆説の本当の意味は、現に存在する都市に内在しているエコな一面を紹介することによって、単に先進国の発展してきた歴史を悲観して未来を築いていくのは、必ずしも最善ではないという風に受け止められます。


この記事には、総てを生かしながら、新しきを得る!というような姿勢も必要ではないか?と問いかけられているような気がします…。


感謝礼拝

投稿: 阿部 裕一 | 2010年11月20日 23:31

少なくともスクラップアンドビルドを繰り返すことが環境にいいとは言えない、都市の形も変わっていかなければならないと思います。

世界の代表的な都市での一人当たりCO2排出量が都市が位置する国全体の半分から5分の1、という数値には疑問を感じました。

原文を読んでものを言うのが本来だとは思いますが、
「田舎で出ている排出量は全て田舎に含めていいものでしょうか?」
「一国、一都市の範囲内だけで考えて正しい排出量を計算できるでしょうか?」
という疑問をもって計算し直す必要がありそうですね。ともすれば安物買いをしてしまう誘惑が都市には多いですが、自戒します。

記事をご紹介いただき、ありがとうございます。

投稿: 加藤裕之 | 2010年11月21日 01:17

谷口雅宣先生

 これは一種の数字のマジックだと思います。阿部さんの仰る通り、都市は建設する時に炭酸ガスを沢山排出するし、又、都市化を進める事自体が紛れもなく森林などの自然を破壊する行為であるから、その事自体温暖化を促進してますね。

投稿: 堀 浩二 | 2010年11月21日 19:06

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