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2010年11月16日

ハナミズキとイチョウ

 東京の町のある坂道に、1本のハナミズキの木が立っていました。そこは、幹線道路に続く上り坂の狭い道で、幼稚園の子供たちが、お母さんの手を握ったり、自転車の後部座席にまたがったり、あるいは自動車の助手席から、窓に顔をつけて外をのぞきながら通う道でした。

Amdogwood  ハナミズキの木は苗で植えられてから、もう5年がたっていました。春には、赤いチョウの羽のような愛らしい花をいっぱいつけ、夏には下を行く園児やお母さんに涼しい木陰を提供し、秋には、真っ赤に紅葉して人々の目を楽しませ、冬には銀の綿毛の芽を陽光に輝かせて、元気に育ってきました。そんなハナミズキにも、心躍らせる時が来ていました。それは今、秋だからです。
 
 ハナミズキが立つ坂道を上りつめたところに、幹線道路への出入口がありました。そこに1本のイチョウの木が立っていました。幹線道路の両側には若いイチョウ並木が続いているのですが、その1本のイチョウだけが、ハナミズキの心を奪っていました。その木は、アスファルトの下に拡がる大地にしっかりと根を張り、まっすぐな幹をスックと天に伸ばしていました。樹形が整っているだけでなく、葉のつき具合、幹を覆うゴツゴツとした樹皮の色つやもよく、ハナミズキをほれぼれとさせるのでした。特に秋になると、その木は幹線道路沿いのどのイチョウよりも早く、葉を黄色く変えて、「私はここにいるよ」と全身で誇らしげに語りかけてくるのでした。

 そのイチョウの木が早く黄葉するのには理由がありました。幼稚園から幹線道路に出る上り坂は、ビル風の通り道でした。また、幹線道路への出入口では、背の高いビルが途切れていて、南の空がひらけて見えるのでした。そこにしっかりと根を下ろしたイチョウは、朝夕は冷たいビル風に耐え、日中は暖かな陽射しに照らされて、マラソン選手のように鍛えられてきたのです。厳しい環境にいて、美しく生きる--そんなひたむきな求道者のような姿を見て、ハナミズキは時々熱いため息を漏らすのでした。

「疲れをとってあげたい。心をなぐさめてあげたい……」

 でも、植物である木が、自分の気持を相手に伝えるのは簡単でありません。動物のように動くことができれば、すぐにでもそばへ行って、紅葉した自分の葉をイチョウの全身に振りかけて暖めてあげたい、とハナミズキは思いました。その望みはかなわないのですが、ハナミズキには別の方法がありました。それができるのが、この秋の季節なのでした。

 谷口 雅宣

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コメント

花ミズキのラブコール、すてきな秋のひとこまですね。
一年の季節の移り変わりを、物言えぬ花ミズキの気持ちが、そのまま伝わってきました。そんな思いをすべての
大自然が、私たちにラブコールしてくれていますね。
「ありがとう」のうたを、つい大きな声で歌ってしまいます。

投稿: 諌山 | 2010年11月18日 23:26

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