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2010年11月15日

最近の日本外交について

 横浜での生長の家講習会で出た“政治的質問”に対しては、前回の本欄に書いた前提のもとで、若干のコメントをしよう。44通の質問のうち3通が、昨今の中国やロシアとの関係についての不安の表明だった。

 川越市から来られた30代の女性は、「このまま民主党政権が続くと、日教組や反日勢力が勢いを増し、中国、韓国、ロシアに日本が侵略されてしまうのではないかと心配です」と、まるで明日にでも日本が侵略されてしまいそう悲観論を表明された。埼玉の川口市から受講された51歳の男性からは、「最近の中国やロシアからの尖閣諸島や北方領土に対する圧力について、政府の弱腰の対応が批判されたりしていますが、生長の家の立場から見た政府の対応へのコメントや良きアドバイスは、ありますでしょうか?」との質問をいただいた。また、81歳の女性は、「近頃、中国、ロシヤの態度が非常に気になっています。国内の政治についても、これでよいのか? と案じられてなりません。しかし、不安な心でいれば、体調を悪くします。こんな時の心構えをご指導くださいませ」と悩みを訴えられている。
 
 私は、これらの人々が国際情勢についてどういう媒体から情報を得ているのかを、まず疑問に思った。かつて私は(例えば、昨年9月24日に)『産経新聞』が民主党政権に明確な反対の意思表示をして、その観点から記事全般を書いていることを指摘し、ジャーナリズムの態度として疑問があると述べた。私が本欄などで疑問を述べても、もちろん『産経』が自らの報道姿勢を改めることはないだろう。しかし、生長の家の読者が、『産経』の報道内容をそのまま事実として信じているとしたら、日本を取り巻く国際問題を誤って理解することにもなるので、「産経はニュートラルではないよ」ということを明確に示したかった。その後、私はついに『産経』を購読することをやめてしまった。かつては『産経』の記者として紙面作成に自ら関与し、その後は30年近くも購読し続けていた人間として、きわめて後味の悪い決断だった。が、記事を読んでいると気分が悪くなるような新聞は、もはや購読する価値はないと思う。
 
 『産経』の購読をやめたからといって、私は『朝日』や『毎日』の報道姿勢がニュートラルだと考えているわけではない。彼らは彼らなりの“姿勢”をもっているが、その姿勢の根拠をきちんと書いていることが多い。根拠が書いてあれば、私はそれを読んで記事の内容の信頼度を推定することができる。それに対して『産経』は根拠を示さずに断定して記事を書くことが多い。記事だけでなく、見出しを独断でつけることも多い。私は、ジャーナリズムは口ゲンカでないと信じているから、それを教えてくれた『産経』が、レベルの落ちた記事を掲載し続けるのを見ていられなかったのだ。
 
 さて、『産経』の問題点を指摘するのはこのくらいにして、質問へのコメントをしよう。川越市の30代の女性の心配は、全くの杞憂である。というよりは、国際関係について、この女性はほとんど間違っている。現在の国際環境下で、中国やロシアが日本を侵略することで得られるものは何もない。民主党政権も日米安保条約の意味を十分理解し、日米関係は日本外交の“基軸”だとしているから、日米安保は存続する。アメリカもアジア外交を重視しているから、日本を手放して中国と組むことはない。だから、中国やロシアが日本を侵略しようとすれば、必然的にアメリカとの戦闘を考えねばならない。両国はいったい何のために、そんなことをするのだろうか? 外交問題に関しては、そういう論理的な筋道でものごとを考えてほしいのである。どこの国でも、実際に外交をしているのは、たいていきちんと高等教育を受けた冷静な頭の人々である。すぐに歯を剥いて襲いかかってくる動物を、我々は相手にしているのではない。

 川口市の51歳男性の質問に対しては、私はこう答える。今回の中国、ロシアとのゴタゴタの原因は、日本の外務省の無策によるところが大きい。また、前原氏が外交のやり方を勉強中であるという残念な事態のおかげである。前半の問題は、自民党政権下でも十分起こりえることだ。なぜなら、役人は当時からそんなに変わっていないからだ。後半の問題は、もちろん民主党の責任だ。が、私は、2大政党制を望む立場から、初めて政権運営をさせようとしている民主党に、ある程度失敗があることは国民として容認すべきだと思う。もちろんこれも程度問題で、日本の“国益”が大きく損なわれる事態に至れば、政権交代はやむを得ないだろう。ただ、今回のゴタゴタから出た“ヒョウタンの駒”もある。それは、アメリカが尖閣諸島の中国からの防衛を名言してくれたことと、北方領土に対する日本の立場を改めて支持してくれたことである。これによって、民主党政権はアメリカに大きな“借り”を作ったから、鳩山時代のような“寝言”はもう言わなくなるに違いない。
 
 さて、81歳の女性の不安についてのお答えだが、私は購読新聞を代えたらいかがかと思う。ロシアのメドベージェフ大統領の国後島訪問に関しては、外交経験の長い東郷和彦氏が11月11日付の『朝日新聞』上で優れた分析を語っている。その記事を読むと、ロシアはいきなり日本との関係を自ら悪化させたのではないことが分かる。日本外務省は、ロシアがここ1年ほど小刻みに投げてきた“警告”のボールを無視しつづけてきたのだ。東郷氏の分析は、こうだ--「ロシア側の最高レベルから、真剣な交渉をやろうというメッセージが出されたときに、2回にわたり、相手の感情をことさら刺激する発言をした。ロシア側は、日本には交渉をまとめる意志がないと受け止めたのだろう」。つまり、国際関係は人間関係と似ていて、どちらか一方だけが悪いという事態は、そう多くないのである。
 
 とにかく、外交に関しては多角的な視点をもつことが必要である。その際、注意してほしいのは、戦後長らく続いたいわゆる“冷戦構造”というものは、現在は存在しないという事実だ。この“冷戦構造”の日本国内での反映が、“右翼”と“左翼”の対立である。今の日本政治の問題は、世界的枠組みである“冷戦構造”が消滅したのに、国内ではいまだに“右”と“左”が対立していることである。この時代遅れの政治家のセンスは、もちろん日本国民のセンスを一部反映しているだろう。だから、最近の日本外交の失敗は、日本国民全体の責任でもあることを認めなければならない、と私は思う。
  
谷口 雅宣

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コメント

総裁先生、ありがとうございます。

先生のおっしゃる、「この時代遅れの政治家のセンスは、もちろん日本国民のセンスを一部反映しているだろう。だから、最近の日本外交の失敗は、日本国民全体の責任でもあることを認めなければならない、と私は思う。」は、誠にそのとおりだと思いました。

戦後の日本における民主主義のあり方の善し悪しは兎も角も、国民参加の選挙によって存在する国会議員や政治家の行いに責任を持つのは、選挙に参加している国民の当然の義務であり、これが民主主義であると思います。

また国民一人一人が、これらの当然の責任を果たすためには、政治を正しく認識して、判断する必要があるので、今日のような総裁先生の御文章は、国民として持つべき方向性を正しく示して下さっていると思います。

感謝礼拝

投稿: 阿部 裕一 | 2010年11月17日 09:49

合掌、ありがとうございます。

右翼と左翼のこと、右や左を先入観や習慣でつかんでいると、ものごとが正しく見えず歪んで見えたり、改善や努力、協調のような前へ進む考え方でなく、対立や批判、考え方の差を強調するような後ろ向きな考えになってしまう、とそのように理解をさせていただきました。

神想観の後に新聞をちらりと眺めてみますと、冷静かつ穏やかな気持ちで政治の状態を見つめることができました。

再拝

投稿: 松本 | 2010年11月18日 07:18

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