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2010年11月18日

ハナミズキとイチョウ (3)

Leavess  その年は、熱い夏が長く続き、遅い秋が突然やってきました。昼と夜の寒暖の差が大きくなると、木々の葉は急速に色づきはじめます。ハナミズキは、こういう時季が来るのを待っていました。普段の年は、ハナミズキの紅葉とイチョウの黄葉は、少し時季がズレていました。それでも重なる期間はあったので、その数日間、ハナミズキはイチョウとの触れ合いに心を躍らせるのでした。でもその年は、ハナミズキの紅葉が遅れ、イチョウの黄葉が早まったおかげで、2本の木は、アスファルトの道路いっぱいに葉を落として、我を忘れる思いで1週間の逢瀬に没頭したのでした。ハナミズキは、「こんな楽しい日々が続くなら、地球温暖化も悪くない」とさえ思いました。
 
 でも、始まりがあるものには、必ず終わりが来るのでした。12月が近づくと、ハナミズキもイチョウもすっかり葉を落としました。道路に散り敷いた赤と黄の落葉は、イランの宮殿にある華やかなペルシャ絨毯より、なお豪華であった時期も過ぎ、しだいに色褪せて、茶褐色に沈んでいくのでした。イチョウとの楽しい日々はもう終わりだと感じたハナミズキは、今年こそ大切なことを話そうと思いました。
 
ハナミズキ「あのぉ……1つだけ教えてください」
イチョウ「なんだい?」
ハナミズキ「私たち、来年まで会えないのですか?」
イチョウ「すぐそばに立ってるから、会ってるようなものじゃないか」
ハナミズキ「見るだけでは、心が苦しくなります」
イチョウ「確かに……。話ができないのは、ぼくも苦しい」
ハナミズキ「春になって、あなたのために花を咲かせても、あなたの声は聞こえません」
イチョウ「ぼくは緑の葉をいっぱいに広げて、君のために春風のダンスを踊ろう」
ハナミズキ「あぁ、私も紅い花を枝いっぱいにつけて、あなたといっしょに春風のダンスを踊りたい! でも、私たちは動けない。手を取り合い、葉を寄せ合って、二人だけの音楽を奏でたいのに、それはできません」
イチョウ「動物でないぼくたちには、それはできない。仕方がないんだ」
ハナミズキ「でも、秋にはできるじゃないですか。ほら今、こうしているように……」
イチョウ「それは、落葉するから……」
ハナミズキ「春にも、落葉したい!」
イチョウ「それは神さまに禁じられている」
ハナミズキ「神さまにお願いして、春にいっしょに落葉しましょう!」
イチョウ「君、それは……無理だ」
ハナミズキ「なぜ?」
イチョウ「春に葉を落とせば、成長のためのエネルギーが足りなくなる」
ハナミズキ「成長はもう、しなくていいの。私たちは、もう大人です」
イチョウ「大人には、しなくてはならない仕事がある」
ハナミズキ「えっ、それは何?」
イチョウ「種を作って子孫を殖やすことだ」
ハナミズキ「あぁ、そのことです。私が言いたかったのは……」
イチョウ「何を言いたかった?」
ハナミズキ「あなたと私の子供がほしい」
イチョウ「えっ! それは、動物でなければ無理だ」
ハナミズキ「それでは、せめて種でいい。あなたと私で種を作りましょう」
イチョウ「君、ミズキとイチョウでは種類が違う。異種同士では、種は作れない……」
ハナミズキ「でも、私たちがバラバラでなく、いっしょだという証(あかし)がほしい」
イチョウ「…………」
ハナミズキ「神さまにお願いして、何とかしてもらえませんか?」
イチョウ「わかった。二人でお願いしよう。神さまなら、きっと何かしてくださる」
 
 こんな会話があった数日後、この地域に清掃車がやってきて、周りの落葉をきれいに掃除していきました。ハナミズキとイチョウの間には、前と同じように、灰色のアスファルトの道路が横たわっているのでした。2本の木の、距離を置いた生活がまた始まりました。季節は冬となり、やがて空には雪が舞うようになりました。
 
 この話は、ここで終わりです。でも、読者のために、翌年の春に起こった“小さな異変”について書いておいた方がいいかもしれません。それは、ハナミズキとイチョウから再び新芽が伸び出す時季に、今まで見たこともないキノコが、双方の木の根元から頭をもたげていたことです。直径が3~4センチのその傘は、鮮やかな橙色をしていて、まるでハナミズキの赤とイチョウの黄色が混ざったような色でした。学者は、この新種キノコに「イチョウミズキタケ」という名前を与えました。

 谷口 雅宣

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コメント

素敵な話をありがとうございます。
最後の神様のイタズラに、とても幸せな気持になりました。
奇跡って、あるんですね。

投稿: 水野奈美 | 2010年11月19日 19:38

はぁー「イチョウミズキタケ」の誕生ですか!

総裁先生のどこどこまでも、お優しいお話は本物の「イチヨウミズキタケ」を創造してしまいそうですね。

近くのイチヨウの緑の葉は、くし型の外から黄色の縁取りが始まっていました。このように黄色に染まっていくのを初めてみました。すずかけの紅葉の下はふかふかの小山がいくつもできています。その隣の楠からは真っ黒な種が、トタン屋根にリズムを奏でるように舞い降りていました。右脳が働いた一日でした。ありがとうございます。

投稿: 諌山 綾子 | 2010年11月19日 19:52

総裁先生

ありがとうございます。

「イチョウミズキタケ」は存在しないのですね?
実在するもの?と、グーグルで調べてみましたが
見つかりませんでした。(^-^;

「疲れをとってあげたい。心をなぐさめてあげたい……」のハナミズキの言葉に、なんてやさしいの!と
ウルウル、涙が止まりませんでした。
イチョウとハナミズキが
両思いでよかった(o^-^o)
純粋な思いが神さまに通じて、奇跡が起きて
「イチョウミズキタケ」が誕生したなんて!
ジーンときました。

素敵な話をありがとうございます。

かんみ 拝

投稿: かんみ | 2010年11月20日 22:15

皆さん、どうも……。

 イチョウミズキタケは存在しません。でも、何となく存在しそうなところが味噌です。キノコと木は、不思議な形で共生していることが多いといいます。人間の見えない土の中で、“命の連続”が存在している。というわけで、我々の主人公たちの命も本当に連続しているのだ、というメッセージにしたかったのです。

投稿: 谷口 | 2010年11月20日 22:33

自分の視点で読んだので、イチョウミズキタケが存在しないと知って、あれ?と思いました。(^-^;
コメントを読んで、総裁先生のメッセージしたかったこと、理解できました。

本を読むだけでは分らなかったことが、総裁先生のコメントを読んで、また理解が深まりました。ありがとうございます。

かんみ 拝

投稿: かんみ | 2010年11月22日 23:05

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