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2010年10月 4日

iPS細胞と“神の子” (2)

 前回の本欄で書いたことの説明をしよう。
 
 iPS細胞の作製で分かった最も驚異的なこととは、人間の(そして、恐らくすべての多細胞生物の)体内には、最も原初的な“初期状態”にもどる能力のある細胞が多数存在するということである。それまでの研究では、もっとも原初的な“初期状態”にある細胞は、ES細胞(胚性幹細胞)だけだと思われていた。ES細胞とは、受精卵が分裂を始めて1週間から10日たった頃にできる「胚盤胞」と呼ばれる状態の時、その中核部に形成される細胞塊を取り出して増殖可能の状態にしたものである。「胚から取り出した幹細胞」という意味で、この名がある。この細胞の特徴は、身体を構成するどんな種類の細胞にも分化する能力があるという点だ。だから、このES細胞に化学的な刺激を与えて各種の組織や臓器を作製することで、難病の治療や再生医療に役立てようとする研究が行われている。
 
 しかし、ES細胞には大きな問題が2つある。1つは、それを得るためには受精卵を破壊しなければならないということ。もう1つは、それを治療に使うには、拒絶反応をなくすために免疫抑制剤を使わねばならず、これが患者の感染症への抵抗力を弱めるという点だ。この2つの問題点は、しかしiPS細胞にはないのだ。
 
 iPS細胞の「iPS」とは、「induced pluropotent stem cells」という英語の頭文字を取ったもので、日本語では「人工多能性幹細胞」と訳している。「induce」は、外から手を加えるという意味で、「pluropotent」の「pluro」は「plural(複数)」の省略形で、「potent」は「能力」とか「有能」という意味だから、「複数種の細胞に分化する能力がある」ということだ。「stem cells」は「幹細胞」である。
 
「幹細胞」の説明は本欄ですでに何回もしているが、重要な概念なので簡単に繰り返す。幹細胞の「幹」は、そこから枝や葉や花が伸びてくるように、いろいろな特徴をもった部分が分化して出てくるための「元」になる細胞という意味だ。例えば、私たちの皮膚の奥には「真皮」と呼ばれる部分があって、そこにある皮膚の幹細胞から、新しい表皮が作られる。指の爪の元には、爪を作る幹細胞がある。髪の毛にも、皮膚の組織中に埋まった部分に幹細胞があり、そこで新しい髪の毛の細胞が作られるため、髪は伸びるのである。このほか、神経組織を作る神経幹細胞、血液中の様々な細胞を作る造血幹細胞、骨の幹細胞など、たくさんの種類がある。しかし、ほとんどの幹細胞は、単一種か、多くても2~3種の細胞にしか分化できない。これに対して、ES細胞とiPS細胞は、身体のどんな組織や臓器の細胞にも分化する能力をもっていると言われているため、“万能細胞”と呼ばれることもある。

 こういう細胞レベルの活動を念頭に置いたうえで、今度は、人間の体を外側から外観してみよう。人間の体は、60兆個から100兆個の細胞で構成されている。日本人は70兆個ぐらいであるという。私たち人間の「意識」は、これらの夥しい数の細胞が何をしているのか、また何をしていないかについて全く関知しない。にもかかわらず、私たちの体の細胞は、24時間休みなく、それぞれに与えられた役割を忠実に果たしている。心臓は血液を全身に送り、血液中の数多くの免疫細胞は外敵と戦ったり、傷口や故障を修復したりしている。内臓からは栄養素が体内に吸収され、毒物や不要成分は肝臓や腎臓で中和され、膀胱へ送られる。これらの臓器や組織の仕事は、分子レベルでは皆、細胞が行っているのだ。しかも、これらの細胞は、私たちの肉体の死活にかかわる重要な仕事をする中で、役割を果たしたものは死んでいき、また新たに生まれてくる。ごく大雑把に言えば、人間の体内では細胞分裂によって24時間中に約1兆個の細胞が生まれ、それとほぼ同数の古い細胞が死んでいく。これを私たちは「新陳代謝」と呼んでいる。
 
 私は『日々の祈り』の「“肉体なし”の真理を自覚する祈り」の中で、新陳代謝の具体例として、「皮膚は1カ月ごとに、胃の内層は4日ごとに、食物とじかに接する胃の表面は5分ごとに新しくなる」と表現した。また、「肉体を構成する物質原子の98%が、1年前にはそこに存在しなかった」ものだとの見解を紹介した。このように複雑かつ組織的な細胞の入れ替わりが体内で行われていることを、私たちの「意識」は全く知らないし、意識的に制御することもできない。にもかかわらず、体中の数多くの幹細胞がこれを行っているのである。これは一体何者の仕業と考えるべきだろうか?
 
 この幹細胞の中の特殊の種類のものを人工的に取り出して、一定の化学的刺激を与えると「iPS細胞」ができるのである。しかしこれは、人間が人工的に“魔法の細胞”を創り出すのではない。もともと細胞がもつ万能性を人間が少し手を加えて発現させるだけだ。「分化していた細胞の機能をリセットして始原状態にもどす」と言ってもいいかもしれない。そうすることで恩恵を得るのは、神経系の難病などにかかった人たちだ。が、翻って考えてみると、そういう病気にかからずに、毎日を平穏に、健康に生きている圧倒的多数の人間は、この偉大な幹細胞の恩恵に常に、完全に浴しているのである。では、1つ1つの幹細胞が意思をもっていて、私たちに恩恵を与えてくれるのか? そうではあるまい。数多くの幹細胞を有機的に、秩序だてて、統一意思のもとに機能させている“何者か”がどこかにいると考えざるを得ない。それは、人間の意識の能力を超えているから、人間業ではない。だから、「神業」という言葉を使いたくなる。
 
 iPS細胞の登場は、私たちの肉体の当り前の機能の中に、“神の子”のような偉大な働きが隠されていることを改めて教えてくれると思うのである。
 
 谷口 雅宣

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コメント

合掌 有難うございます。
いつも我々に新鮮な情報とその深切な理解の仕方をご教授くださり、感謝しております。
今回の内容でも、現在の科学技術の目指す方向が正しくあって欲しいと思います。
どの分野においても、ただ人間だけが豊かになれば良いという視野の狭い考えでの展開は避けて欲しいと思います。
 最近、「どうも各分野の専門知識だけでは解決しようがなく、どうしても宗教(それも成長の家の超宗教)的な理解が絶対不可欠になってきている」ということに、その分野の方々は気付いている、と思うのは私だけでしょうか。
 
私、20数名で自動車部品の製造会社をしておりますが、「ものつくりとは言っても、新たに何かを創り上げたわけではない。ずっと昔からすでにあるものの形を変えて提供させて頂いているんだ。だからあらゆる資源のより有効な使い方を極めていくのが我々職人の使命だ」と 機会あるごとに言っております。
ものつくりを通して、目の前に現れているのは物質ではあるが、その内にある本質はというと、すべての人、事、物が神意の展開に繋がる、と認識させて頂いております。 
出来ればご教授ください。        浦尾拝


 

投稿: 浦尾 道夫 | 2010年10月 6日 17:19

浦尾さん、
 コメント、ありがとうございます。

>>ものつくりを通して、目の前に現れているのは物質ではあるが、その内にある本質はというと、すべての人、事、物が神意の展開に繋がる、と認識させて頂いております。<<

 少し分かりにく表現ですが、どういう意味でしょうか? 今ここに職人芸による「誤差が限りなくゼロに近いスチール筒」があったとします。これは、神意の展開につながることもあれば、つながらないこともあるのではないでしょうか? 例えば、このスチール筒が人の暗殺に使われる。または、暗殺を防ぐ手段に使われる。両方があり得ると思います。

投稿: 谷口 | 2010年10月 7日 16:06

ご返事ありがとうございます。
先生の言われる通りと思います。良い例だと思います。
私たち人間は「自分がより豊かな人生を生きたい」、という思いから、道具が発展してきました。
しかし、その道具を使う人によっては悪しき方面へ使われていくことも多々あり、また、作ること自体が所謂、関係の無い生物や鉱物という環境に多大の負荷を与えてしまった、いや、その自由さを奪ってきたのではないでしょうか。
何れにしても、自分(達)の為にだけ良いと選択した結果だと思います。
本当の自分の幸せとか豊かとは、自分に関わる直近の人が幸せでなかったらもちろん味わうことが出来ないが、それを限定しないで、どこ(全環境)までも拡げて行かねばならないということに気付かされる為に仕事と人生があるのだと思います。
また、この現象界で、創造主からの預かり物をより良かれという想いで形や質を変えて世の中に出回る自動車ですが、その使う人によっては最高に便利なものになりますが、最悪の事態をも引き起こすことは皆が知っております。
一方はその存在も忘れられ、他方はすごく目立ちます。
自動車は例ですが、やはり、私たちはその存在にさえも、いやその存在にこそ価値を見出すことが必要であることを気付かされているのではないでしょうか。
その意味で、現象界における自分に関わるすべての人、事、物が、その創造主の意思(神意)に気付くことに結局は繋がる、と理解しています。
判りにくくてすみません。
この度、講師会副会長を拝命させて頂きました。
合掌 ありがとうございます。
早鐘のなるこの想いを、もっとうまく表現できるよう、
精進したいとおもいます。     浦尾拝


投稿: 浦尾 道夫 | 2010年10月 7日 19:22

浦尾さん、
 講師にとって「表現」は大変重要ですが、また大変むずかしいものです。大いに練習に、研鑽に励んでください。大切なお仕事を引き受けてくださり、ありがとうございました。

投稿: 谷口 | 2010年10月 7日 19:57

合掌 ありがとうございます。DNAの構造、働きの精緻さは偶然できたと科学者がよく言ますがあんな複雑で精巧に考えられたものが偶然できるはずはないと存じます。まさに神のなせる業で、科学が発達すればするほどますます天地を創造した神の存在を確信します。

投稿: 生尾秀夫 | 2012年11月25日 10:57

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