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2010年7月 2日

キノコの不思議

 妻が昨日のブログでハナビラタケを採ったことを書いているが、キノコの食用種と有毒種のことを考えると、いつも不思議に思う。ネットなどで調べると、ハナビラタケは日本には1種しかなく、食用にも栄養補給にもよい貴重種だ。もう少し具体的に言うと、このキノコの分類学上の名前は「ハナビラタケ科ハナビラタケ属ハナビラタケ」である。これに対して、シイタケは「ヒラタケ科マツオウジ属」のシイタケである。マツオウジ属のキノコは、日本産ではシイタケのほかに3種あるらしい。ということは、形質の似通った同属のキノコであっても、有毒のものとそうでないものが存在する可能性があるのだ。ここのところが、キノコの面白いところであり、かつコワイところでもある。食用種だと思って安易に食すると、とんでもない目に遭うことになる。しかし、ハナビラタケの場合は1種しかないから、特徴さえしっかり覚えてしまえば、そういう危険性はまずない。
 
Kurohatsu  ところで、今日は別のキノコに遭遇した。ここにその写真を掲げるが、私が見たところでは(確信はないが)、クロハツではないかと思う。山荘の北側にある林の斜面に、何株も頭をもたげていたのである。名前のように黒い色をしているから、湿った地面を押し上げて出ていても見えにくい。傘の直径が10数センチあり、傘の上面は黒くても下面と軸は白い。肉質はもろく弾力に乏しい。ものの本によると、「風味には癖がなく、汁物や煮物にはよい味が出る」とあるが、次のような注意書きが添えられている--「肉を切り裂いて、はっきり黒変することが確認されない限り、似た仲間を食用にしてはならない」。つまり、似たような近種がいくつかあって、その中には有毒のものがあるのである。クロハツは、分類学上は「ベニタケ科ベニタケ属」に入っていて、この中には「シロハツ」(白色)とか「クサハツ」(褐黄色)とか「キチャハツ」(ほぼ白色)など、黒くない近似種がいくつもある。それだけでなく、黒い色の近似種にも「ニセクロハツ」と「クロハツモドキ」がある。このうちニセクロハツについては、次のような説明がある--
 
「猛毒。食後5~20分後、嘔吐、下痢。その後、瞳孔の縮小、背中の痛み、肩こり、言語障害、尿が赤くなるなどの症状が出て、心臓が衰弱し、意識不明に陥る。2日後に死亡。致死量は2~3本。毒成分は不明。」

 こんな記述を読めば、よほどの人でない限り、本物のクロハツを見つけたとしても、それを食べるわけにはいかないだろう。有毒か否かを調べる方法も、書いてあるにはある。それは、クロハツの場合は切断すると、切り口が赤変した後に黒くなるが、ニセクロハツは赤変するだけで黒くならないというのである。それで、私は採ったキノコの軸を折って様子を見たのだが、赤変も黒変もしなかった。恐らく別種か、あるいは変種かもしれない。つまり、キノコも環境の変化によって変種を生み出す可能性は、常にあるのだ。
 
 このクロハツとニセクロハツのように、外見は似ているが、一方は食用でも他方は有毒という関係のキノコは、案外多い。鮮やかな赤い色で有名なタマゴタケには、有毒なベニテングタケがある。食用のクリタケには、よく似た有毒のニガクリタケがある。食べられるシモフリシメジやアイシメジにも、外見のよく似たネズミシメジという有毒種がある。また、食用のチャナメツムタケには、下痢症状を起こすヤケアトツムタケという近似種がある……という具合だ。
 
 ここで私は、6月22~23日の本欄で書いた「平凡と非凡」の問題を思い起こすのである。人間の食用になるキノコと有毒のキノコでは、いったいどちらが「平凡」で、どちらが「非凡」なのだろうか? 別の言葉でいえば、どちらが優れていて、どちらが劣っているのか? あるいは、「適者生存」の原則に即して、どちらがより進化をとげているのだろうか? この問いに対する答えは、結構むずかしいと思う。
 
 谷口 雅宣

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コメント

毒キノコも人間(人間だけではないかもしれませんが)が食用に用いた場合に害があるだけで毒キノコを餌にしている虫や微生物が存在するかもしれません。

もしそうであるならば、そのような生物も自然界の生態系の一端を担っているわけで、人間にとって周り遠く、微弱ですが毒キノコも人間を含む生物の役にたっているという見方もできます。

食用キノコ、有毒キノコは、それを見分ける“正しい情報”の大切さと、「食す」か「生態系の中で観るか」という人間の“アプローチの方法”の大切さを示唆しているのではないでしょうか。

優劣の観点で考える事柄ではないのでは…。

これらを踏まえた上でさらに「どちらがより進化を…」、と問われるのでしょうか。

投稿: 横山浩雅 | 2010年7月 3日 16:09

横山さん、
 コメント、ありがとうございます。

>>毒キノコを餌にしている虫や微生物が存在するかもしれません。<<

 私もそう思います……というより、必ずいると確信します。なぜなら、生物種によって、毒になる場合とならない場合があるからです。マングースは毒ヘビに咬まれても平気だと聞きます。

 そうすると、人間に対する毒を有しているものが生存上有利だとは必ずしも言えないし、その逆も断言できなくなるのではないでしょうか。つまり、「生存に有利」という適者生存の原則がグラグラしてくる……そう言えるのではないでしょうか。

投稿: 谷口 | 2010年7月 3日 22:18

ありがとうございます。

わたしは人間に美味しく食べてもらえる食用キノコが適者生存上有利である(多くのひとに愛され、需要が多く人工栽培などもされるであろうから)という前提で考えていましたので先生の生物学的?見地からのコメントを読み、一般的にはまず逆に考えるのか、と軽い驚きを感じました。

投稿: 横山浩雅 | 2010年7月 4日 01:24

横山さん、

>>先生の生物学的?見地からのコメントを読み、一般的にはまず逆に考えるのか、と軽い驚きを感じました。<<

 ええと……私は“一般的”なのでしょうか? 自分ではよく分かりませんが……(笑)

 人間に喜ばれる生物が生存上有利であるから、「適者生存」の原則によって進化した生物になる……というのは、必ずしもすべての生物に合致しないと思います。

 家畜や農産物は、人間に喜ばれる形質をもっていますが、逆に病気や“害虫”に弱いので、人間が世話をしないかぎり、自然界では死滅するでしょう。その逆に、ゴキブリやウイルスの類は、人間が死滅させようとしてもなかなか死滅しません。

投稿: 谷口 | 2010年7月 4日 14:10

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