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2010年5月16日

間近に迫った電子図書館

 まもなく日本でも電子図書館なるものが登場するらしい。ネット経由で電子化した書籍を読むシステムで、現在流通している電子本や電子ブックとの違いは「無料」である点だ。16日付の『日本経済新聞』が伝えている。それによると、このシステムを開発したのは大日本印刷と丸善で、今夏から図書館向けに電子本の貸し出しサービスを始めるという。両社は現在、50の出版社と書籍の電子化について交渉していて、今夏には専門書や学習書を中心に5千冊分のデータを用意して、このサービスを図書館に売り込むらしい。情報源として書籍を大いに利用させてもらっている私にとっては、大変ありがたい話である。が、これには“次なる目的”もあるらしい。それは恐らく、書籍データの“囲い込み”だ。
 
 多くの読者がご存じのように、アメリカで大ヒット中のアップル社の多機能情報端末「iPad」が、今月末には日本で発売される。これは電子ブックのリーダー(読書端末)としての機能をもっていて、何千冊分もの書籍データをフルカラーのまま保管できる。つまり、“携帯型個人図書館”が原理的には実現するのである。これに先立ち、同じくアメリカの大手ネット通販「アマゾン・ドット・コム」は、すでにモノクロの書籍データを数千冊分保管して読める「キンドル」を世に出していて、書籍の電子化を着々と進めている。急成長するこの分野では、著作権の使用権を押さえることが重要だ。つまり、著作権の一部である電子ブックとしての利用権を数多く押さえたものが、より多くの利益を得ることができる。そのためには、現在、著作権の一部である出版権を多く握っている出版社と、著作物の著者の了解を得て、書籍の電子化をより多く進めることが欠かせない。また、実際の電子本の運用を早期から進めることで、ノウハウをより多く蓄積することが、この新規市場のシェアを獲得することにつながる。

 上記の『日経』の記事によると、今回両者が「図書館向け」を先行させたのは、公共性の高い図書館向けなら出版社や著者の了解を取りやすいからだという。そのこと自体は問題がないどころか、ありがたいことである。特に、市場で流通しない絶版本や再販未定本、また流通量が少ない学術書や専門書のたぐいが電子化されることは、社会の知識ベースを拡大することになる。しかし、よく売れている本の電子化となると、とたんに利害関係が前面に出てくるだろう。これをどのように調整するかで、今後の出版業界の動向が決まっていくだろう。また、今回の電子図書館構想には、妙な点もある。それは、記事に次のように書いてあることだ--
 
「利用者は図書館の窓口やサイトであらかじめ氏名などを登録すれば、蔵書を探して無料で借りられる。ただ“貸し出し中”の本は“返却”が済むまで借りることはできない。本のデータは暗号化し、コピーもできないようにする」。

 この言葉の意味は、必ずしも細部まで明瞭でないが、前半に書いてあることは「電子ブックを物理的な本と同じように扱う」と読める。つまり、例えば、Aという電子図書館に『生命の實相』頭注版第1巻の電子版が1冊分あり、それが誰かに貸し出されている間は、別の誰かは同じ本の電子版をそのサイトから入手できない、ということではないか。これでは、電子ブックの電子ブックたる意味が半減してしまう。電子ブックの長所である「在庫を持つ必要がない」ということは、何人の希望者がいても同じ本のデータが提供できるというのと同義であるはずだ。また、後半にある文章の意味は、電子ブックを借り出した人が、自分の用途のためにそれを複製することも許さない--という意味にとれる。これでは、電子ブックの利便性が減少する。例えば、米アマゾン・ドット・コムのキンドル用の電子ブックは、今でも、パソコン上でも読むことができるが、日本の電子図書館ではそれが不可能になるのだろうか。そうすると、利用者の中には、同じ本を電子図書館からは借りずに、アマゾンから購入する人も出てくるだろう。
 
 生長の家の出版物についても、この大きな流れと無縁ではありえない。現在流通している書籍類の大半は、製作の過程ですでに電子化されているから、技術的な問題は少ないと思う。今後は、それらのデータをどのような形態で、誰が、どう利用するかを大局的見地に立って決めることが重要だ。紙を使わず、在庫がいらず、しかも高速で伝送できるという電子データの特長を生かした、新しい“文書伝道”の道を早期に確立したいものである。
 
 谷口 雅宣

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コメント

電子図書大変便利そうで生長の家における今後の利用に私も期待しています。

 私がTWITTERでフォローさせていただいている音楽家の方の素敵な意見をご紹介させていただきます。

「絵本の電子書籍化っていうのは本能的に何かとっても間違っていると感じる 。今まで見てたのがボロボロになって、そしてピカピカの新しいのを買ってもらった嬉しさってのも大事ですよね。 絵本は電子書籍化しなくていいですよ。」

 『たしかにそうだなー。』と私も同感しました。

投稿: M.S | 2010年5月20日 09:32

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