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2010年5月17日

電子ブックはどうなる?

 前回の本欄で、近々日本で始まる電子図書館の構想について書いたが、国会図書館がこれとどう関わっていくのか、私は知らない。国会図書館も蔵書の電子化を進めていると聞いているが、私が気になるのは、その電子化された本のファイルフォーマットのことだ。これが大日本印刷と丸善で製作している電子本のフォーマットと異なるとすると、互換性がないため、読む側で2種類の読書用ソフトを使い分けねばならなくなる。かつてビデオがカセットで提供されていた頃、ベータ方式とVHS方式の2種類が併存したため、ユーザーは不便だったが、それと似たような状態になる。また、読書用端末機を使って読む場合、問題はもっと深刻だ。ソフトウェアだけでなく、ハードウエアーまで別々に揃えなければならないだろう。
 
 私は、携帯小説など、日本で発行されている電子ブックをきちんと読んだことがない。だから今、日本の電子本で何種類のフォーマットが存在するか知らなかったが、ウィキペディアを調べてみると、「代表的なPDFやEPUBを含め、日本国内だけでも20種類以上のファイルフォーマットが存在する」とある。しかも、「多くは世界水準として認められているとは言えないもの」というから、この状態では、海外からやってくるキンドルやiTunes、アンドロイドなどの規格と勝負できないだろう。まず、国内で電子本出版を手がけているメーカーが一致して統一フォーマットを作り、それを海外でも採用させる方向で動き出す必要がある。キンドルは日本語に対応すると言っているし、iPadの上陸もすぐ目の前だから、多分、日本の出版各社はその辺のことはすでに行っているのだろう。

 こうして、日本語の電子本のフォーマットが1本化されたとしても、問題はまだ残っている。それは、この分野にはまだ“世界標準”がないということだ。電子本で先行しているアメリカでも、この問題は解決されていない。5月13日付の『ヘラルド朝日』がこの問題を取り上げているが、それによると、アメリカでの電子本の規格は、主なもので4種類あるらしい。それらは、①キンドル用、②コーボー、③バーンズ・アンド・ノーブル、④iPad/iPhone用だ。①と④は、それぞれのハードウエアーに合わせたファイルフォーマットだが、②は、アメリカの大手書店「ボーダーズ(Borders)」の規格で、③は、同名の大手書店チェーンが定めた規格である。これにグーグルが定めたアンドロイドの規格が加わると、どの規格の、どの本を、どの機械で使うかという選択が、はなはだややこしくなる。読者の側から見れば、こういう規格の乱立は、電子本の「買い控え」につながるだろう。

 ということで、今後は、電子本のファイルフォーマットの共通化が大きなテーマになると思う。これが、1バイト文字を基本とする欧米の方向に共通化するのか、それとも日本語のような2バイト文字を取り込んだ共通化に向かうのか? 私は多分、後者ではないかと思う。それは、今後の電子本は、中国のユーザーを無視することができないと思うからだ。インターネット人口の世界一位は中国人であり、今後もどんどん増え続けると考えられる。だから、その中で、日本の規格を早く統一することは、いわゆる“国益”にも合致するだろう。日本の関係業界の努力に期待したい。
 
 谷口 雅宣

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