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2010年3月28日

「わかる」ということ (6)

 本シリーズに辛抱強くつき合ってくださっている読者には、誠に感謝にたえない。このコムズカシイ議論は、実は私自身のためにやっているからである。人間の心には現在意識と潜在意識(無意識)があるということは、多くの読者がご存じのことだが、前者はともかく、後者についてはほとんどがよく分かっていない。しかし、宗教は、前者よりも後者に深く関わっていると思われるから、これが不明の状態では、宗教活動の意味も(プラスとマイナス双方の意味を含めて)解明されないのである。オウム真理教による地下鉄サリン事件から15年たって、新聞等には回顧記事が載る昨今だが、この原因がよくわからないまま時が過ぎ、また、イスラーム原理主義者によるテロ行為だけが報道されている。これによって、「宗教は危険」という粗雑なメッセージが世の中に弘まっていくのでは、それを業とする者としては甚だ不本意である。そこで、ここでは心理学(精神分析学を含む)の研究成果から支援を受けて、潜在意識の働きや構造について少しでも明らかにしようと思う。なぜなら、そこに宗教の“プラス”と“マイナス”を嗅ぎ分ける鍵が隠されていると思うからだ。

 さて、前回までの本欄では、「我々の思考は世界から2つの概念(集合)を切り出して、それらの関係性を組み立てることで行われる」というマテ=ブランコの理論が、おおむね正しいことが了解されたと思う。さて、彼はこの命題を立てた後に、2つの概念の関係性を「対称的関係」と「非対称的関係」に大別した。このことは、2008年9月17日の本欄以降6回にわたって、「対称と非対称」という題で詳しく説明した。また、その文章はすでに単行本の『小閑雑感 Part 14』に収録されているから、説明は繰り返さない。改めて読み直したい読者は、6回分のリンクをここに掲げるので利用してほしい:①2008年9月17日、②2008年9月18日、③2008年9月22日、④2008年10月3日、⑤2008年10月6日、⑥2008年10月8日
 
 これらの説明の中で指摘したことは、「この世の中には非対称的関係の方が圧倒的に多く、対称的関係は少数である」ことだった。また、「我々の潜在意識は、数多い非対称的関係を対称的関係として取り扱う」ということだった。非対称的関係の例としては、前回の本欄で紹介した“情景描写”から次の4例を掲げれば十分だろう:
 
「私が車を運転する」
「助手席に妻が座る」
「車が砂利道にさしかかる」
「林の中にシカが立ち止まる」

 これらを対称的関係として扱うということは、それぞれの文中にある2つの概念の関係が逆転することになる:
 
「車が私を運転する」
「妻に助手席が座る」
「砂利道が車にさしかかる」
「シカの中に林が立ち止まる」

 これらは、我々の通常の論理的思考の中では意味をなさない文章になっている。しかし、これと同等のことが我々の夢の中では簡単に起こり、また統合失調症の人の場合、覚醒時の頭の中で起こる。また、ある種の文学作品や絵画の中にも同種のことが描かれ、人気を集めることがある。ということは、我々の心の“隠れた領域”には、これらの“非合理”を「わかる」部分が存在すると考えることができるのである。このことを、マテ=ブランコは次のように表現している:

「全ての無意識の特徴は、思考とは対照的に、意識的な思考にとっては互いに異なり完全に区別される事物を、結合させ融合させる傾向を持っている」。(『無意識の思考』p.102)

 谷口 雅宣
 
【参考文献】
○I・マテ=ブランコ著/岡達治訳『無意識の思考--心的世界の基底と臨床の空間』(新曜社、2004年)

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コメント

先生ありがとうございます。函館教区青年会の奥田健介です。先生の御文章がまるで自分のために書かれているようです。夢のことですが『睡眠は知恵をもたらす」という雅春先生のお言葉を信じています。
 あと『潜在意識が運命を支配する」で、眠るときにヘッドホンしてMP3プレーヤーで聖経や真理の講話の録音をリピートして聴きながら眠ったりしています。睡眠中、これをやると潜在意識に真理が記憶され、潜在意識が運命を支配するので有効ですとある先生に教えていただきました。
 この「わかるということ」シリーズ非常に興味深いです。毎日先生のブログをチェックして楽しく勉強させていただいています。これからもどうぞお身体に気をつけて日々の業務頑張ってください!o(*^▽^*)o

投稿: 奥田 健介 | 2010年3月29日 01:43

全く無知の分野の内容だったため、図書館にて、マテ=ブランコに関する書籍を探しました。しかし、見当たららず、深層心理に関する書籍から読みはじめました。
先生のブログ内容から、私なりに知りえたことは、私たちの潜在意識では非合理なことを「わかる」構造があるということです。

そのことが、宗教におけるプラスもマイナスも生み出しているのではないかと思いました。

自分自身、さらなる勉強の必要性を感じつつ、これからの論説の展開を待たせていただきます。

投稿: 松尾 | 2010年3月30日 08:42

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