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2010年2月25日

ハイチでも現れた人間性

 前回の本欄では、アメリカの文明批評家、ジェレミー・リフキン氏の「人類史の底を流れる本質的特徴は、相手を思いやる意識の素晴らしい進化である」という言葉を紹介した。この言葉に即座に「その通りに違いない」と膝を打つ人もいるだろう。が、その逆に、600ページを超える氏の近著を読まなければ賛成しない人もいれば、読んでもなお納得しない人もいるだろう。私はと言えば、人類の歴史は、その“神の子”の本性が表現されつつある過程だと考えるから、リフキン氏の言葉に基本的に賛成である。が、実例を示せと言われると、そう簡単ではない。ある人が「善い人」であるという実例を示すことは容易でも、「人類」という全体が「歴史」という長い時間の流れの中で善性を拡大してきたというような、大規模な事実の証明は簡単ではない。そんなことに思いを巡らせていたところ、イギリスの科学誌『New Scientist』の1月30日号(vol 205, No.2745)に、人間の善性を示す最近のよい例が載っていた。
 
 それは、1月に起こったハイチの大地震で、世界の人々がネットを利用してどう動いたかを報じた記事だった。人類史上でも稀に見る大被害をもたらしたこの自然災害のことは、日本でもよく報道されているが、ネット上で何が起こったかについては、あまり語られてこなかった。少なくとも私は、これについてほとんど知らなかった。が、同誌の記事によると、この大地震の被害者救援のために、見ず知らずの多くのボランティアがネット経由で相互協力し、地上で実際の救援活動を行う赤十字社や国際医療組織などを大いに助けたというのである。
 
 例えば、ハイチには「4636」という携帯メール配信サービスがあるそうだ。これは2008年、「Ushahidi.com」という小組織によってもともとはケニアに作られたものだが、このサービスがハイチの被災者や病院などから携帯メールで送られるメッセージを一手に受け付けて、必要な団体や医療組織に伝える役割を果たしたという。そのためには、アメリカ在住のハイチ人など何百人ものボランティアが協力して、ハイチの言葉であるクレオール語(Creole)やフランス語のメッセージを英語に翻訳したという。これには、ハイチ最大の携帯電話サービスも参加し、通信料金は無料となった。このような通信インフラが地震から24時間後に整ったことで、政府自体が機能停止状態にありながらも、ハイチでの救援活動は進行したという。
 
 地震の被災後、ハイチのある病院には200のベッドと医師も看護師もいて、医薬品も備えていたが、患者が一人も到着していなかった。なぜなら、現地の救援組織にはこの病院の情報が伝わっていなかったからだ。そこでこの病院が、自分たちの情報を「4636」に送ったことで、それが多数の救援組織やラジオ局に伝わり、多くの被災者が治療を受けることができたという。
 
 また、「CrisisCommons」という救援組織の活動も注目に値する。この組織は何千人ものボランティアを募って、ハイチの被災地付近の詳細な地図を、「OpenStreetMap」というネット上の地図の上に作り上げたという。被災時にネット上に存在していた地図は、わずかに市内の主要道路と、それに連絡する何本かの路地しか描かれていなかった。が、参加したボランティアたちは、衛星写真や陸上の人々から情報を入手し、病院や治療所、避難所などの位置を書き入れた詳細な地図を作成した。ハイチの政府機関は、これを印刷して人々に配布しただけでなく、GPS装置との連動を図った。これによって、Ushahidiの活動に参加したボランティアたちは、「4636」に携帯メールを送ってきた被災者の位置を、誤差数メートルの正確さで示すことができたという。
 
 海外の大学の専門家たちも救援活動に協力した。イギリスのサウザンプトンにあるImageCatという会社は、被災地の被害状況を衛星写真から分析する仕事を世界銀行から頼まれたという。この作業には普通、何週間も、時には何カ月間もかかるらしい。が、今回は緊急を要するため、同社は、被災地の「地震前」と「地震後」の写真を入手し、それを500平方メートルごとの狭い領域に分解して、それらを欧米の大学にいる何人もの専門家に配布した。倒壊したり崩壊した建物がどれであるかを調べてもらうためである。その結果、専門家たちは数日のうちに、ポルトオープリンス市で倒壊した建物をすべて特定し、その数は5千戸前後になったという。

 このほかにも、ツイッター(Twitter)やフェースブック(Facebook)を使った救援・支援活動が展開されたが、今回のような自発的な救援活動が個人や組織によって効果的に行われた最大の理由は、ネット上で大規模な活動を組織し、実行することができるということを、多くの人々が知った結果である--と、この記事の記者(Justin Mullins)は述べている。
 
 阪神・淡路大震災など、日本での大地震の際にも、ボランティアによる救援活動が自発的に、自然に起こってきたことは我々の記憶に新しい。これらの事実は、「相手を思いやる心」が人間の本性であるというリフキン氏の主張を有力に裏付けていると思う。
 
 谷口 雅宣

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コメント

人それぞれ、どんなフィルターを通して、その事実を受け取るのかで解釈が異なるような気がします。

「損得」というフィルターで見るのか、「愛」というフィルターか…

私自身は、毎日、「信仰」というフィルターで物事を見つめるよう意識しています。

結果、「希望」という解釈が増えてきたと思います。
このことは、価値がつけられないぐらいありがたいことです。

投稿: 松尾 | 2010年2月26日 08:44

谷口雅宣先生

 人間は性善説か性悪説かという議論は昔からありました。鳩山首相の掲げる「友愛」と言う事をせせら笑う人もいます。国際政治はそんなに甘いものではないと。
 
 国の防衛とか家の戸締まりはちゃんとしなくてはなりませんがだからと言って、人間が悪いものだと言う事にはならないと思います。鳩山首相の掲げる「友愛」と言うのもそういう事はわきまえていると思います。他国に対して、敵意を持ち、大東亜戦争の時の様に「鬼畜米英」という気持ちになる事こそが国際紛争などの間違いの元になると思います。

 ところでちょっと前にNHKでやっていたのですが人間はやはり善が本質であって、誰でも人を助けたい、人のお役に立ちたいという心を持っているという事で先日、ホームから線路に落ちた女性を救った若者が「無我夢中だった」と言って、思わず人を救う行為をした事がそうした人間の性善説を裏付けていると言ってました。

 でも、人間は組織とかの単位になると割合平気で悪い事をやる様になりますね。政治家の党利党略、利権主義とかそういうものですが。こういう人達も道端で誰かが倒れていたら、そしてそれが助けられるのが自分だけだとしたら思わず、その相手を救うと思います。(そういう場合、やはりNHKでやってましたが、自分以外にも救う人がいると思うと誰かがやるだろうと思って、救わない傾向があるとも言ってました。)

 さっきも病院に母の見舞いに行った際もそのエレベーターの開け閉め等で乗る人降りる人でお互い思わず、ドアを閉めない様にして相手を乗せてやるとかする様な思いやりの行為をしているのを見て、やはり人間はその本性は善なのだなと思いました。

投稿: 堀 浩二 | 2010年2月26日 13:23

総裁先生ありがとうございます。
 私はネット上でハイチの大地震の救援活動にこのように大きく貢献していたということを初めて知りとても感動致しました!
ネット上でこのような大規模な活動を組織し、実行することができるということに驚きと喜び、希望が生まれました。
 総裁先生が提唱して下さいましたポスティングジョイでは大勢のメンバーとネット上で繋がることが出来、メンバーのジョイに日々励まされ、喜びのおすそわけをいただき、明るく前向きな日時計主義の生活を実践させていただいております。
日常の私の生活圏では絶対に出会えない様な人達との交流で自分の世界が大きく広がり、心が豊かになりました。
これまで互いに点として存在していたものがネットで一つに繋がり、そこに新たな力が生まれる!世界中で善なる人間の本性を積極的に生きる人々が、ネット上で繋がって大規模な組織となり、新たな活動が展開し、信仰による世界平和が実現する!なんて素晴らしいことでしょう。
そんな夢とロマンが大きく広がって参ります。
これから展開されていく新たな運動の一翼を担わせていただいていることを心から誇りに思い、神様に感謝いたします。
ありがとうございます。

投稿: 山田慶子 | 2010年2月27日 15:31

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