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2010年1月 9日

“テロとの戦争”の組織的失敗

 アメリカのオバマ大統領が、昨年クリスマスの日に起こった米旅客機爆破未遂事件についての報告書を発表し、事件はアメリカ情報機関の「組織的失敗」(systemic failure)によるとして、「すべての責任は自分にある」という厳しい判断を示した。この発言は勇気を要するものだと思うが、私は、この発言の背後に、アメリカの“テロとの戦争”が必ずしもうまくいっていないという大統領の厳しい認識があるような気がしてならない。私は、本欄で繰り返し“テロとの戦争”という言葉を使わないように進言し、また「テロ」と「戦争」という2語を結びつけることの間違いを指摘してきた。オバマ氏は、大統領就任当初は、イスラームとの対話を打ち出すなど、建設的な方針を表明してきたのだが、最近では「テロとの戦争」という語の呪縛から逃れられないように見える。

 8日付の『日本経済新聞』夕刊によると、今回の報告書が指摘した主な問題点は、①イエメンのテロ組織の詳細な分析をしていなかった、②事件の容疑者の名前のつづりを間違って入力した、③2つの主要情報機関のデータベースの仕組みが統一されていないため、処理が遅れた、④容疑者などに関する情報があっても、上層部の政策決定者に十分報告していなかった、というもの。これらの点を眺めてみると、“唯一の超大国”といわれる実力をもったアメリカが、武力によって2つの国の政権を倒したものの、自国でのテロ対策が、いくつもの初歩的なミスによって進んでいないことが分かる。特に、①と②などは、「お粗末」と言わねばならないだろう。が、その一方で、世界中の人々が地球上を自由に往き来するグローバリズムの時代には、アメリカのような大国が自国を出入りする夥しい数の人を細かくチェックすることが、いかに困難であるかが了解される。
 
Abdulmutallab  私は、今回の事件の容疑者であるナイジェリア人、ウマル・ファルーク・アブドゥルムタラブ氏(=写真、Umar Farouk Abdulmutallab)の顔をテレビなどで見るたびに、こう思う--このあどけない顔の23歳の青年にできることは、女性を含む他の多くのイスラーム信仰者にもできることに違いない、と。つまり、アメリカの情報機関が今回の爆破計画を事前に察知することが仮にできたとしても、次の機会、次の次の機会、そのまた次の機会……というように、自爆テロ志願者が減ることはないのではないか、ということだ。問題は、どうしたら自爆テロ志願者を「航空機に乗せないか」ではなく、どうしたら「自爆テロ志願者をそもそも生み出さないか」ではないのだろうか。が、現在のところ、前者の努力が集中的に行われているため、アメリカから出発する航空便には、大幅な遅れや欠航が続いている。

 8日付の『ヘラルド朝日』紙が伝えるところでは、昨年のクリスマス以降10日間の、アメリカからの出発便の遅れや欠航が多い主要空港は次の通りである。この中には悪天候の影響もあるだろうが、前年との対比を見れば、乗客の手荷物検査や身体検査の強化の影響は明らかである:
 
 空港名           2009年   2008年
 ------------------------
 ダラス(フォートワース)       70%   27%
 マイアミ             52    23
 ニューヨーク(ラガーディア)   39    18
 ニューヨーク(JFK)       51    32
 シカゴ(オヘア)           55    36
 ニューワーク(リバティ)      48    33
 ボストン(ローガン)          41    27
 ワシントン(ダレス)        36    24
 フィラデルフィア         35    23
 オルランド            34    22
 ロナルド・レーガン      30    19
 ------------------------

 こういう状態が長く続けば、航空機の利用者数全体に影響が出ることは避けられないだろう。
 
 谷口 雅宣

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コメント

総裁先生、ありがとうございます。

先生のお考えは、多岐に渡りつつも、それぞれがより深く思考されているので、読ませていただいて飽きないから大好きです。

さて、今般の話題ですが、私も仕事柄、気になる話題ですが、なかなか発言できる立場も少ないのですが…。
どこかで聞いた話しでは、イギリスのある政治家が、「民主主義ほど、最低の政治形態はない。しかし、他のどの政治形態よりは、最も素晴らしい。」なることを言っていたとか…。
また、アメリカでは、「武力の行使ほど、最悪の外交手段はない。しかしながら、時として、他に方法がない…。」と言った政治家がいるとか…。
どちらにしても、現状において、欧米の政治家のうち、少なからず方々が、現状に甘んずることなく、より良い方法を模索しながら、現状のあらゆる問題に対処されているのだろうと、私は推察いたします。

どのようなカタチで顕れていようとも、人類は確実に生長し続けている途中にあると言えると思います。
人類のさらなる大躍進が、とても楽しみでしょうがない、今日この頃です。

感謝拝

投稿: 阿部 裕一 | 2010年1月11日 21:58

阿部さん、
 もったいないお言葉、ありがとうございます。
「人類は確実に生長し続けている」という貴方の日時計主義に大賛成です。ただ、その生長は“一直線”の過程ではなく、上がったり下がったりしながらの上昇なので、悲観的な見方が生まれる余地があるのだと思います。

投稿: 谷口 | 2010年1月12日 17:27

総裁先生、ありがとうございます。

私は、神様が人間に与えた素晴らしい能力について、次のように考えています。
まずは、「喜ぶこと・怒ること・哀しむこと・楽しむこと」で、これら4つは、喜怒哀楽として肉体的な表現力です。
それから、楽観することと悲観することで、これら2つは、精神的(又は思考的)な能力です。
もう一つは「自由」で、前述の6つをどのように組み合わせて生長するか…、です。
そして、これら7つが、人間に与えられた7つ能力で、7つの光り(徳)に相当するものであり、これらが生長するために必要なものと考えています。
だから、先生のように、ある物事を悲観的に思考するのも、人類の生長を顕した形態の一つだろうと考えます。

感謝拝☆

投稿: 阿部 裕一 | 2010年1月13日 23:44

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