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2010年1月 7日

アバターもエクボ

 話題の映画『アバター』を見てきた。ハリウッド映画らしく、ジェットコースターに乗るような“山”や“谷”があり、しかも善と悪が明確で、最後に善が勝つという非常にわかりやすい映画だった。少し残念だったのは、見たのが“3D映像版”でなかった点だが、娯楽映画としてはそれでも充分楽しめた。しかし、私がこの映画を本欄で扱おうと思ったのは、娯楽として推薦するためではなく、地球環境問題が背景にあることを読者に知ってほしかったからだ。そんなことは充分ご承知の人も多いかもしれないが、私は知らなかった。私はむしろ、人間の遺伝子組み換えなどを扱ったサイエンス・ホラーかと思っていた。理由は、映画の題名による。
 
「アバター」という言葉は、インターネットの世界ではずいぶん前から使われてきたが、ネットを使わない人、あるいは使ってもメールのやりとり程度の使用者には、説明が必要だろう。

 アバターとは、匿名性を特徴とするインターネットの世界で使われる、利用者の“仮の姿”である。こんな書き方が難解ならば、「利用者の顔写真の代りに使われるマンガ風のキャラクター」と言った方がいいかもしれない。生長の家が運営しているSNS「ポスティングジョイ」でもアバターが使われているから、サンプルは簡単に見られる。ウィキペディアによると、世界で初めてアバターを使うネットサービスが始まったのは1985年で、日本では1990年からという。語源はサンスクリット語のアヴァターラ(avataara)で、インドの神話や仏教の文脈では「(神仏の)化身」という意味らしい。そのヒンディー語形「アヴタール」を英語表記したのがアバター(avatar)である。だから、宗教とも関係がある。
 
 上記のSNSで使われているアバターは、小さな正方形の枠内に収まったマンガ風の顔か、その他の画像だが、他のサービスでは、「顔」だけでなく全身のアバターも珍しくなく、しかも立体感のある3D画像で、画面上で動くものも少なくない。こうなってくると、利用者は「自分がこうなりたい」と願う“夢の姿”や“理想的イメージ”に合わせてアバターを作ったり、選んだりするようになる。ここまでは現在、ネット上で現実に行われていることだ。が、映画では、これを一気にSF的に拡大して「別の肉体をもった人間」として登場している。しかも、地球上の人間ではなく、別の天体に棲む“半人半獣”としてである。
 
 映画のストーリーを明かすのはできるだけ避けるが、ここに書いた「半人半獣」という言葉が生むかもしれない誤解は、正しておきたい。この天体に棲むのは「人類」と呼んでもいい。外見上、地球人と違う点は青い肌をして尾が生えていて、鼻がつぶれた格好で、背丈がやけに高いことぐらいだ。3メートル以上もあるだろうか……。が、彼らの文明は、地球人の観点からは“未開”であり、宗教は“原始的”なシャーマニズム、社会は祭政未分化の狩猟・漁労社会である。その代り、自然界の他の生物と完全に調和した生き方をしている。そこへ、地球人が希少資源の獲得のために大挙してやってくる--そういう想定である。映画の設定では、この時、地球はすでに自然が破壊されて棲めない状態になっている。つまり、地球をダメにした人類が、一種の“植民地”の候補地としてこの天体をねらっているというものだ。

 この映画では、善と悪とが明確だと上に書いたが、“善”とは自然至上主義的考え方であるのに対し、現代人の多くがもつ人間至上主義的な視点が“悪”として扱われている。しかし、このように単純な図式では、映画上の問題は解決できても、21世紀の現実の問題は解決できないだろう。現代人の心の中には、程度の差こそあれ、この2つの考え方のいずれもが共存している。そして、この2つをどう調整して現実生活を生きるか、で悩んでいるのである。にもかかわらず、この映画では、一方が他方を“悪”として駆逐してしまうことで物語を終らせている。だから、心理的にはスッキリとして気持はいいのだが、現実問題としては何も与えてくれない。そういう意味で、この作品は鑑賞者の心のモヤモヤをある程度解消してくれる力はあるが、新しい洞察を与えてくれるものではない。
 
 そうは言ったが、優れた面も多くある。まず、映像の斬新さに驚かされた。『スター・ウォーズ』(Star Wars、1977年)と『ジュラシック・パーク』(Jurassic Park、1993年)を併せたような迫力ある画面や音声だけでなく、CGによる“自然描写”には目を奪われる。ここからは、『もののけ姫』(Princess Mononoke、1997年)に出てくる自然の繊細さも読み取れる。ただし、この場合の「自然」は地球上のものではない。だから、我々が知っている「自然」とは異なっていなければならないのだが、異なりすぎると、鑑賞者は拒絶する。だから、「自然ではないが自然である」と感じるような、きわどいバランスが必要である。ジェームズ・キャメロン監督(James F. Cameron)は、それをうまく実現していると私は思う。“半人半獣”の異星人の姿が、そのよい例だ。彼らが画面に登場してしばらくは、その犬のような風貌が違和感をかもし出す。が、物語が展開するにしたがって、彼らの生活や考え方が自分の中の一側面を表していることが了解されてくる。すると、彼らに親しみを覚え、同情し、憧れに近い感情まで引き出される。そして、映画が終りに近づくと、不思議なことに、彼らの外見上のグロテスクさが気にならなくなるのである。まさに、「アバターもエクボ」となるのである。
 
 谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生

 立て続けにコメントさせて頂き恐縮です。ところで先生は「アバター」ご覧になったのですね。これは一番の話題は3Dと言う事ですがそうでないのもあるんですね。3Dも良いですが余りに刺激が強すぎてストーリーに集中出来なくなってしまうのではないかと思っておりましたので私も3Dでないのを観ようと思います。

 ところで監督のジェームズ・キャメロンですがこれは私の好きな監督の一人で有名な作品に「ターミネーター」「ターミネーター2」それと「タイタニック」があります。「ターミネーター2」と「タイタニック」は感動して涙してしまいましたが、その後、この人はちょっとニ三映画を撮りましたが大した事無かったのでどうしちゃったのだろうと思ってましたが今回は期待出来そうですね。

投稿: 堀 浩二 | 2010年1月 8日 11:04

『アバター』2回観ました。「ハリウッド映画ならではのスリルある3Dを楽しみたい。半人半獣の不気味な存在を体感したい」-ほんの気軽な気持ちで子どもらと観るはずが…。「なぜ奪い合なわければならないのか、共存はできないのか」-その答えを問いかけるかのようにスクリーンに食い入るように観ている自分がいました。総裁先生のがご紹介されているように、同作はまさに地球環境問題を背景にした監督からのメッセージのようでした。さらに映像(CG)は息を呑むほどの美しさで、“気軽”のつもりが、パンフレットを隅々まで読み、もう一度、映画館へ足を運ぶことになりました(笑)まさに「観るのではない。そこにいるのだ。」というこの映画のキャッチコピーそのものでした。

投稿: 茅野美香 | 2010年1月 9日 13:27

谷口総裁の解説により後味の良い娯楽映画かと思い見てみました、私は日本人なのか同じ環境問題や反戦や愛を表現するにしましても「千と千尋の神隠し」「天空の城ラピュタ」や「もののけ姫」の方が後味が良く、好きずきではあるのですが初めての人には薦めれます、SF映画としては映像CGや想像力、画面での迫力はあり素晴らしいのですが戦争の破壊力、悲劇(その中に愛とか信頼、連帯感等々のメッセージ)がこれでもかこれでもかと続き環境問題だけでなく戦争の悲惨さを訴えているのかな?とも考えました、又大航海時代のスペインやポルトガル等々西欧列強のアフリカや南米への侵略、略奪等々はこの映画の様な状況ではなかったのか、、と言う事が脳裏を走り、善が勝つにはこの映画とは異なり何十年何百年の時間的経過が必要なのかな等々考えさせられました。

投稿: 尾窪勝磨 | 2010年1月10日 21:01

茅野さん、
 あなたなら映像の質を堪能されただろうと思います。この映画は3Dでなければ見る価値はあまりない、などと子供に言われました。3D版も見てみたいです。

尾窪さん、
 きちんと準備したコメント、ありがとうございます。映画の観方は、各人各様でいいのだと思います。私も「植民地戦争」のイメージをもちましたが、それは地球環境問題の起源と別ではないと思っています。

投稿: 谷口 | 2010年1月10日 22:54

有難う御座います本日より雅宣先生のブログを見ることが出来るようになりました。パソコンは難しい 出来ないと思っていたので今感激しています。指宿は イペーの花が満開で とてもきれいです。

投稿: 鈴木マユミ | 2010年4月 9日 12:37

鈴木さん、

 ようこそ本ブログへ! パソコンは最初は大変ですね。慣れればいいのでしょうが、機能が多すぎて途方に暮れることもあります。今後とも、よろしくお願いいたします。

 イペーの花、どんな色でしたっけ?

投稿: 谷口 | 2010年4月 9日 13:29

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