農林業はエネルギー産業
25日付の『日本経済新聞』で、丸紅経済研究所の柴田明夫所長が「太陽エネルギーを使い尽くせ」と言っていた。その意味は、太陽光発電だけを考えずに、古くからある太陽熱温水器も太陽熱発電も、はたまた農業も林業もみな、太陽エネルギーによって支えられているという点では同じであり、これからはそれらをすべて動員する「太陽系エネルギー源」へ産業構造の転換を図らねばならないということだ。柴田所長は、現代の社会は「地下系」の資源に依存して成長してきたが、それの限界が見えてきたから、今後は「太陽系」への転換が必要という。この考え方は、私がかつて本欄で紹介した「地下資源文明」から「地上資源文明」への転換という総合研究大学院大学の池内了(さとる)教授と同じだ。
ただし、農産物や森林を“エネルギー源”として見るという柴田氏の発想は、新鮮に感じられる。「農地は究極のソーラーパネルです。農産物は太陽エネルギーが濃縮されて、私たちにとって有用な形に固定化されたものなのです」と柴田氏は言う。林業については語っていないが、まったく同じことが言えることは本欄の読者ならお分かりだろう。森林は、太陽エネルギーを炭素として固定化した木々の集成なのだ。農産物は、我々人間の肉体を維持し、活動させるためのエネルギー源である。森林は、我々人間の住居や仕事場を維持し、一定の熱を供給するためのエネルギー源である。しかも両者とも、使い方を間違わなければ枯渇しない再生可能エネルギー源である。そういう視点に立てば、21世紀の日本に必要であるだけでなく、「他国から奪わない」という倫理的要請にも合致する“エネルギー産業”は、農業と林業ということになる。
本欄では4回にわたって、生長の家が進めている“森の中のオフィス”構想の概要を書いたが、読者がもし「なぜわざわざ森の中か?」という疑問をまだ抱いているとしたら、この「太陽系エネルギー」という言葉の中にその解答がある。つまり、生長の家は、未利用の太陽系エネルギーが豊富にある地域に国際本部を移すのである。何のためか? それは、それらの太陽系エネルギーが人間の生命源でありながら、現代人はその生命源との接点を失いつつあるからだ。生命源の近くに住み、そこで働くことで、人間本来の神性・仏性の自覚が深まるだけでなく、そこから新たな、他から奪わない、自然と共存する文明を築き上げることが、21世紀における人類の使命である。それを、人さまより少し早く実行するだけなのである。
同じ25日の『日経』は、日本の森林の現状について興味深い記事を掲載している。それによると、日本の森林面積は約2500万ヘクタールで、国土全体に占める割合としては先進国でトップクラスの67%。まさに「森林資源大国」と表現できる。しかも、戦後に植えた大量の人工林が今や育って木材として出荷できる主伐期を迎えている。このことは、森林面積に樹木の成長度をかけた「森林蓄積量」を計算してみるとわかる。その数値は「約44億立方メートル」に上り、40年前の2倍を超えている。この巨大な「太陽系エネルギー源」を再生可能な方法で利用し、持続的に利用していく仕組みを作り上げていくためには、「今」が最良の機会なのである。生長の家は宗教運動だから、そういう第一次産業に直接かかわるわけではない。しかし、建材や燃料としての地元木材を利用し、地元の農産物を食し、そして何よりも自然と共存する“大調和の信仰”と哲学を宣布することで、21世紀の人類の使命遂行に参画できるし、そうしたいと考える。
“森の中のオフィス”との関連でこのことを言えば、新しいオフィスは、地元の木材を使った木造低層建築(2階建て)で、自然の営みをできるだけ乱さない方式での建設が検討されている。予定地の八ヶ岳南麓の日照時間は、日本ではトップクラスだから、この太陽エネルギーをうまく利用すれば、冬場も昼間は暖房があまりいらない快適な執務環境が実現可能と聞く。職員の交通手段には電気自動車などのエコカーを使い、電源は太陽光発電などの「太陽系エネルギー」から得る方法が検討されている。このような方策により、目標としては3年後のスタート時点で“炭素ゼロ”を実現したうえでの国際本部移転が計画されている。
また、15年ほど先にはなるが、JR東海はこの地にリニア中央新幹線を敷設する予定で、その計画は着々と進んでいる。今年1月8日には、同社の葛西敬之会長がこの新幹線の一部区間を先行して開業させる方針を明らかにした、と9日付の『朝日新聞』は報じている。それによると同氏は、「リニアの部分開業は既定路線。可能な区間から開業する。神奈川-山梨が適当だろう」と述べたという。開業時期は明確にしなかったが、東京-名古屋の全体の開業予定が2025年だから、それより早い時期ということだ。これが動き始めれば、東京から甲府までは20分ほどで移動できる。生長の家はそれを当てにして八ヶ岳南麓に移転するわけではないが、リニアの温暖化促進効果が深刻でなければ、先進的な公共交通機関の利用を避ける理由はないだろう。我々は“森の中”に移り住んでも、社会から隔絶するつもりは毛頭ないからである。
谷口 雅宣
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