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2010年1月31日

サイバー戦争は始まっている (3)

 アメリカは、中国のサイバー攻撃に対する“次の手”を打ったようだ。事態の速い展開に驚かされる。前回の本欄の段階では、「台湾に対してミサイル防衛システムを含む高度な防衛機器を輸出する考えを表明した」ところまでだったが、今日は国防総省がその輸出内容を具体的に示した計画を米議会に正式に通告した、と発表した。また、事前(29日朝)に、中国大使館にその意向を伝えるという措置もとった。ナイ教授が言った「攻撃者に対する大きな代償」とは、やはりこの“台湾カード”だったのだ。クリントン国務長官の言葉は、単なる脅しではなかった。
 
 30日の『日本経済新聞』の夕刊が、このことに詳しい。発表されたアメリカの武器売却計画の総額は64億ドル(約5千8百億円)だが、台湾がもともと希望していたリストから新型F16戦闘機と潜水艦が外された。これは中国に対するメッセージだろう。つまり、「この件に要求どおりきちんと対応しない場合は、これらの兵器を追加売却するかもしれない」という含みがあると考えていい。実際、空母を建設中の中国が神経質になっている潜水艦については、政府高官がわざわざ「売却の可能性を排除したわけではない」と言っている。また、これらの兵器は米議会から30日以内に反対がなければ台湾の手に渡る手続きが始まるから、中国の対応には1カ月の猶予が与えられている。
 
 中国側はもちろん大きく反発している。中国外務省はアメリカの駐中国大使に「強烈な憤慨」を伝えて、武器売却の即時停止を要求し、何亜非外務次官は「中米関係を損ない、両国のさまざまな重要分野での交流・協力に重大で否定的な影響を与え、双方が目にしたくない結果を招くことになる」と脅しを含む言葉を伝えたという。『日経』の記事によると、中国が抗議の意思を示す場合、「強烈な不満」という言葉を使うのが普通だが、「強烈な憤慨」はそれより強いから、何らかの報復措置は避けられないかもしれない。また、『朝日新聞』夕刊は、中国の外交上のコメントは普通、報道官が発表するが、外務次官が即座に反応するのは異例で、事態を重視していることを示していると分析している。そして、その数時間後、中国国防省は、米中両国軍が計画していた相互訪問を一時停止することを決め、同外務省は武器売却に関連する米企業への制裁や、近く予定していた安全保障分野の次官級対話の延期も発表した。

 公の声明文や抗議文を使ったこういう外交上の駆け引きは、リスクが大きい。なぜなら、対立する双方の国民が関与してくることになるため、ナショナリズムが燃え上って予測できない結果を生む可能性があるからだ。上記の『日経』は、すでに中国のインターネット上で「米国は意図的に中国を激怒させようとしている」などの批判が相次いで書き込まれていると報じている。そのリスクはあっても、サイバー攻撃をやめさせなければならないという強い意志が感じられる。クリントン国務長官の「自国のネットワークを必ず護る」という言葉を、国防総省が実際の計画で形にしたということだろう。この両者を動かせるのは大統領だけだ。
 
 今回のアメリカの措置は、もちろんサイバー攻撃への報復だけが目的ではない。アメリカと台湾の間には準軍事的同盟があり、最近の中国の急激な軍備増強によって台湾海峡の軍事バランスが崩れる危険性があったため、アメリカは台湾側の要望に応える必要があった。今回の売却リストにある武器は主として防衛的なもので、地対空誘導弾パトリオットは114基だ。これに対し中国は台湾を射程内にするミサイルを1300基以上配備しているから、万全な防衛とはとても言えない。リストに含まれた軍事多用途ヘリコプター「ブラックホーク」は兵員輸送にも使えるが、対戦車攻撃にも使えるという。しかし、これによって台湾が軍事的に有利な立場になることはない。31日付の『朝日新聞』は、軍事専門家の次のような分析を載せている--
 
「台湾の軍事力で中国より優位にあるのは空軍のみ。その差も縮まっている。台湾がF16を獲得できなければ、数年内に中国の優位はほぼ完全に確立されるだろう」。

 このように米中関係が難しい方向に傾きだしている中で、日本の外交政策はまだ定まらずにフラフラしているように見える。日米関係を「外交の基軸」と言っている鳩山首相なのだから、その証拠を言葉ではなく、実際の行動で示すべきときが来ていると思う。
 
 谷口 雅宣

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